本の紹介:「これからのマンションに必要な50の条件」

不動産や建築に関連する書籍を紹介していきます。今回ご紹介するのは、2018年に出版された「これからのマンションに必要な50の条件」という本です。愛知工業大学工学部建築学科教授の安井秀夫氏と、生和コーポレーション(株)設計部副部長の熊澤茂樹氏による共著になっています。

本の内容

目次は以下のようになっています。

第1章 人口は減るのに戸数は増える・・・
    住宅供給過剰の日本でマンション建設は転換期を迎えている
第2章 未曾有の住宅供給過剰社会で求められるのは「サスティナブル(持続可能)」なマンション
第3章【構造編】修繕して100年使える
第4章【内部編】多様な生活スタイルに合せる
第5章【外部編】美観を維持してマンションの資産価値を保つ
第6章【コミュニティ編】街にとけ込み、地域社会と一体となる
第7章 海外の事例に学ぶ築年数50年超でも選ばれるサスティナブルなマンション

著者の一人が生和コーポレーション(株)の方なので、本書は賃貸マンションに関する記事が多くなっています。そのため賃貸マンションのオーナーになろう、特に賃貸マンションを建設しようという方には参考になることが多いように思います。しかし分譲マンションを買う人、住んでいる人にも参考になる記事は多く、建築や不動産に明るくない方の入門編といった内容でした。

本書の主張に「これまでの『スクラップ&ビルド』の時代から『ビルド&ストック』の時代に変わる」「サスティナブル(持続可能)な住宅が必要とされる」というのがあります。他でも主張されている内容ですが、今後はますますこれらの声が大きくなっていくと私も思います。どうやって良質な住宅を未来に残すかは、重要な課題になっていくでしょう。

興味深い部分

第2章の寄稿文「近代の集合住宅の変還」は18世期のイギリスから始まる集合住宅の歴史と、それら欧米の集合住宅を模倣して作られた日本のニュータウンの問題が書かれていて、とても興味深い内容でした。スケルトン・インフィル(SI住宅)が生まれた理由、日本に根強い新築志向、そしてなぜ今持続可能な住宅が必要とされているのかは、この歴史的経緯を知れば見えてきます。

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また第1章、第2章に書かれている内容は、このブログでも何度も触れている人口減の問題、それに伴う空き家問題などで、本書でも将来的に廃墟になるマンションや、家余りの時代への危惧が書かれています。

気になる部分

①オーナーが工事中の現場に入れるか

第3章【構造編】は建築の専門知識がない人向けの入門編的な内容になっています。しかし一部には首を傾げる内容もありました。例えば「条件8 工事中の現場を見せることができる」に記載されている内容ですが、以下のような記載があります。

集合住宅でも、しっかり施工しているのであれば、オーナーが見に行ったときに「どうぞ」といって現場を見せることができるはずです。「危険ですからやめてください」などと拒否する場合には、見せられない不都合な事情があると考えてしかるべきです。

これは乱暴な言い分だと思います。建設現場では連日のように危険な作業が行われています。そのため朝礼を行い、各自にその日の危険作業や立ち入り禁止エリアを伝えることが徹底されています。危険な作業とは型枠支保工の解体、クレーンを使った荷揚げや荷下ろし、外壁部分のハツリ工事などです。これらの工事をしている間は、関係ない作業員は絶対に近づかないように指示されていますし、場合によってはその時間はピアット(荷揚げ用エレベーター)の使用が制限されたりします。これらの措置は事故を防ぐために必要な措置で、しっかりした施工会社であればあるほど細かくうるさく徹底的に行われています。

そんな中、その日の朝礼にも出ておらず建設現場に不慣れなオーナーがヒョイとやってきて現場を見せろと言っても、事故防止の観点から言って難しいのです。事前に現場に来る日程を知らせてもらえれば、その日の工事内容を鑑みてオーナーが視察するルートを設定し、監督の誰かを同行させて見てもらうことも可能ですが、いきなり訪問すれば断られても当然だと思います。

また分譲マンションの場合、購入者や購入希望者を現場内に案内するのは工事中の建物を使った営業活動だとみなされます。そのため行政から「仮使用許可」をもらう必要があるので、購入者だからと言って工事中の現場を気軽に見てもらうわけにはいきません。これらの事情から、工事中のマンションを見せられないのは「見せられない不都合な事情があると考えてしかるべきです。」と断じるのは、あまりに一方的な内容だと感じました。

②パラペットの納まり

「条件14 パラペットの立ち上がりに工夫がある」にパラペットの絵があり、パラペットを直角に立ち上げていないことが重要だと記載されています。これは全くこの通りで、防水の基本的な事項でありながら守られていない現場を度々見かけるのですが、この絵の他の部分に気になる点がありました。

ウレタン防水の塗布範囲が中途半端なのです。パラペットの天端に当たった雨は勾配に沿って流れていき、水切り目地のところで垂れ落ちます。水切り目地の部分はひび割れが入りやすく、水が侵入しやすい部分になっています。水が上に向かって流れることはないと思われるかもしれませんが、細いひび割れから毛細管現象で上に向かって流れ込むことは珍しくありません。そのためウレタン防水は、目地の中までしっかり塗るべきなのです。

また天端部分においても、勾配の始まり部分でウレタン防水を止めるのではなく、きちんと反対側まで塗るべきです。ウレタン防水は密着するので隙間から流れ込むことはないと考えがちですが、劣化して浮いてくることもあります。防水の基本的な考え方として水上で防水を止めるのはナンセンスなのです。これらのことはこの絵で本書が伝えたい内容ではありませんが、普段から漏水をチェックしている者としては気になりました。

まとめ

賃貸マンションの話が多いとはいえ、分譲マンションにお住まいの方やマンションを買おうと考えている人が読んでも役に立つ知識が多いと思いました。特に不動産や建築のことをあまり知らない初心者の方にとって、幅広い分野を端的に書いてあるので読みやすいと思います。

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