構造スリットが不足している /地震に不安なマンション

構造スリットと聞いてピンとくる方は建築の専門家でしょう。一般の方にはほとんどピンとこない言葉です。マンションは地震に強いと言われていますが、その強さの秘密の1つが構造スリットです。これが正しく入っていなければ、地震に対して思わぬ損害を被ることがあります。今回は施工不良が多く見つかっている構造スリットについて説明します。

建物の構造体とは(ラーメン構造)

構造スリットの説明をする前に、マンションの構造について少し説明します。ほとんどのマンションは、鉄筋コンクリートで造られていてラーメン構造と呼ばれる構造になっています。ラーメンとは変な名前だと思うかもしれませんが、Rahmenというドイツ語で「額縁」という意味から来ている言葉です。

ラーメン構造

鉄筋コンクリートのラーメン構造で、建物を支えているのは梁・柱・壁・スラブ(床)で、これらがガッチリ繋がることで地震にも耐えられる建物になっています。ここで大事なポイントは、建物の構造を支える梁や柱、壁や床などが破損すると地震に耐えられずに倒壊してしまう危険性が高まるということです。そのため地震の際には、これら構造体に余計な負荷がかからないようにしなくてはいけません。

ラーメン構造以外にも壁構造という建て方がありますが、こちらも構造壁がガッチリ繋がっていることが重要です。壁構造は主に低層階のマンションに見られる構造ですが、間取りの変更が難しいなどのデメリットがあるため、それほど多くは採用されていません。

構造壁と雑壁

ラーメン構造の構造体の中の1つが壁ですが、実はマンションの壁の中には構造壁と呼ばれる建物を支えたり地震に耐える重要な壁と、雑壁と呼ばれる建物の強度に影響しない壁があります。見た目には同じような壁なので、どれが構造壁でどれが雑壁かは見分けがつきません。

※赤い柱と壁が構造体

構造壁と雑壁を正確に見分けるには、マンションの管理事務室に保管してある竣工図書の中の構造図を見なくてはいけませんが、簡単な見分け方があります。マンションの各部屋を仕切る壁、例えば201号室と202号室を仕切るコンクリートの壁が構造壁です。そしてバルコニーや廊下と室内を仕切る壁が雑壁になります。今回の構造スリットは、雑壁に入れられた切れ目のことです。

構造スリットとは

主に雑壁に入れられたコンクリートの切れ目です。雑壁を柱や梁から切り離すために切れ目を入れる考え方は、1981年の新耐震基準から始まっています。しかしこの構造スリットが広く採用されるようになったのは1995年の阪神淡路大震災からで、当時の建設現場では、壁を切り離して大丈夫なのか?といった不安な声もありました。私も最初に言われた時は、納得できずに本当に切り離して良いのか何度も確認をしました。もっともこの頃は、壁の半分に切れ目を入れるハーフスリットと呼ばれる方法が多かったと記憶しています。

しかし雑壁に半分だけ切れ目を入れるハーフスリットは、その部分だけ構造的に弱いのでひび割れが入るようになります。ひび割れが入ると外装のタイルが割れたり、割れた部分から雨水が浸入するようになります。それでは建物の耐久性に影響するのでスリットの反対側に目地棒を入れたりしていたのですが、やがてハーフスリットは良くないということになりました。そういった経緯があって、2000年頃からは壁を完全に切断する完全スリットが一般的になっていきます。

構造スリットは壁を柱と梁と切り離して隙間を設けます。最初にこれを図面で見た時には「こんな造りで大丈夫なのだろうか?」と思ったりしましたが、雑壁を梁や柱から切り離すことで地震の時の安全性が高まるのです。

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構造スリットの効果

地震が発生すると、横揺れによって建物は斜めに変形します。もし構造スリットがないと雑壁が柱や梁に負荷を加えて破損する可能性が高まります。しかし構造スリットによって切り離されていると、柱や梁に与える負荷が少ないので、ダメージが少なく破壊される可能性が低くなるのです。建物を支えたり地震に耐える力を持つのは柱や梁です。その柱や梁が破損するのを防ぐために構造スリットは不可欠なのです。

構造スリットを入れる場所は、構造計算によって決まります。地震が来た時にどこに変形やねじれが大きく、どこが破損しやすいかをシュミレートして位置が決定するのです。ですから構造スリットは、必ず決められた位置に入れなくてはなりません。

構造スリットの施工ミス

施工ミスの種類はいろいろありますが、主に以下の2つのミスが目立ちます。どちらも重大なミスなので、見過ごすことができないものです。

①構造スリットの入れ忘れ

構造スリットは地震が来たときの力の伝わり方を元に構造計算で求めた位置に入れるため、どの階にも規則的に同じ位置に入るとは限りません。2階で構造スリットを入れた位置に、3階では入れなくて良いなんてことはよくあります。そのため工事中に間違った位置に入れてしまったり、必要な場所に入れてなかったりすることが起こりやすいのです。そのため毎回厳しくチェックしていかないといけないのですが、現場の職人も現場監督も同じように勘違いして間違った位置に入れてしまうケースが後を絶ちません。

完成したマンションにお邪魔して構造図を元に建物をチェックすると、構造スリットが不要な位置に入っていたり必要な場所になかったりするのは珍しいことではありません。必要な位置に入っていないと、柱や梁を破損させる可能性が高いので早急に是正する必要があります。

②構造スリットの変形

構造スリットはポリスチレンフォームでできています。柔らかい素材なので、コンクリートを打設する際に注意しなければ構造スリットが曲がって入ってしまうことがあります。生コンの重さによって押されて曲がってしまったり、コンクリートを打設する際に使うバイブレーターの圧力で押されて曲がってしまうなど、さまざまな理由で施工不良が起こります。

※構造スリットの詳細 アクシス株式会社のwebサイトより

発覚するのは地震で壊れた時

多くの場合、構造スリットが不足していることが発覚するのは、地震でマンションが壊れた時です。復旧工事をする際に、壊れた部分に構造スリットが入ってなかったことがわかり、売主や施行会社と揉めることになります。そもそも地震が起こった後では被害が広範囲に渡るため、建設会社も手が回らないことがよくありますし、古いマンションでは、建設した会社や売主が倒産していることも多く、泣き寝入りになるケースもあります。

ではいつ構造スリットをチェックすれば良いかというと、築10年以内の地震などで壊れていない時期に行うのがベストです。築10年以内であれば、品確法により構造耐力上重要な部分は売主の瑕疵担保責任になるので、問題があれば必要な費用を売主に負担してもらうことが可能になります。10年を過ぎるとこれが難しくなるので、早い時期に構造スリットのチェックを行うことをお勧めします。

まとめ

構造スリットは忘れられがちですが、無ければ地震の時に被害が拡大します。最悪はマンションの倒壊にも繋がる施行ミスなのですが、構造スリットの意味や目的が広く知られていないため軽視されがちです。そして多くのマンションで構造スリットの施工ミスが発覚しており、地震の際には大きな問題になることが予想されます。構造スリットのチェックには構造図を読み取り、現場を確認していく作業になるので専門家の助力が必要になります。このようなご相談にも応じていますので、以下のメールフォームからご一報下さい。調査の方法など具体的なお話をさせて頂きます。

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