欠陥マンション建て替えの4つの落とし穴 /建て替え事例と案外難しい建て替え事情

住んでいるマンションに欠陥が見つかった場合、売主や施工会社と協議が行われます。その時に住民側からマンションの建て替えを要求するケースが増えていますが、売主側が建て替えを了承したとしても、その後が大変だったりします。やり方を間違えると管理組合内で分裂が起こったり、問題の解決が遠のくこともあります。そこで今回は、欠欠陥マンション建て替えの4つの落とし穴の話を書いてみたいと思います。

増えている建て替え要求

以前からマンションに欠陥が見つかった場合、管理組合が建て替えを要求することはありました。しかし実際に建て替えになることは稀で、売主が負担して建て替えるケースはほとんどありませんでした。流れが変わったのは、2005年の姉歯建築士による構造計算書偽装事件からだと思います。この時、国土交通省は危険な建物に対して使用禁止命令を出しました。住民らは売主に建て替えを求めましたが、売主が倒産したため住民は二重ローンを組むことで独自に建て替えを行っています。

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その後、2013年にザ・パークハウスグラン南青山高樹町で建設中にスリーブを入れ忘れるというミスが発覚し、入居前に ゼネコン が費用負担して建て替えるという騒動がありました。この件は別の記事に詳しく書いているので、そちらを参照して下さい。

※ザ・パークハウス グラン 南青山高樹町

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そして2015年、三井不動産レジデンシャルが販売したパークシティLaLa横浜で、杭が支持層に届いていないことが発覚しました。住民側からの激しい抗議と話し合いの結果、売主の全額負担で建て替えることになりました。さらに同じ時期に住友不動産が販売したパークスクエア三ツ沢公園でも杭が支持層に届いていないことが発覚し、こちらも売主の全額負担で建て替えが決まりました。また滋賀県の大津京では南海辰村建設が建設した大津京ステーションプレイスで次々と欠陥が発覚し、長い裁判が行われました。こちらは売主がゼネコンに対して建て替えを要求しています。

※大津京ステーションプレイス

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このようにマンションに欠陥が見つかると建て替えの要求が出され、実際に建て替える事例も出てきました。そのため全国の欠陥が見つかったマンションで、建て替えを求める声が挙がるようになりました。

建て替えに必要な合意形成

区分所有法62条では、マンションの建て替えには住民の4/5が同意することが必要とされています。一部の人が建て替えを希望し、売主が費用を出すと言っても、総会を開いて住民の4/5が同意しなければ建て替えはできないのです。多くの場合、総会を開いて建て替え決議を行うだけでも大変な労力が必要になります。

そして合意形成だけでなく、それ以外にも大変な作業が待っています。それを以下に紹介します。

①住民の合意を取るのは理事会の仕事

総会で4/5の同意を得るために、事前に住民に理解を求めなくてはいけません。アンケートを実施して建て替えに反対している人を、1件づつ説得していくのです。この作業は売主の不動産会社がやってくれるものと思っている方が多いのですが、行うのは理事会の仕事です。「売主が住民に迷惑をかけているのだから、売主が行うのが当たり前だろう」と言う方もいますが、売主に任せるのはトラブルの元になるので理事会が行うべきなのです。

これは聞いた話ですが、頑なに建て替えに反対していた人が説得され、ある日から賛成に回ると、売主から金銭を貰ったと疑われたことがあったそうです。そのマンションでは住人全員が売主から迷惑料をもらっていたのですが、額に不満のある人達が噂をし始めたらしく、理事会や売主に対して不信感を表して内輪揉めに発展してしまいました。

このように建て替えの説得に関しては、売主が住民と個別に会うと余計な疑いを生んでしまい、それが理事会にも跳ね返ってきてしまうこともあります。ですから建て替えの個別交渉は理事会で行う方が望ましいと思いますし、売主から建て替え案を飲む条件として4/5の同意をまとめることが提示されることもあります。そしてこの同意を取り付ける作業は、理事会のメンバーにとって大きな負担となっていきます。

②面積が変わる場合がある

竣工から数年のマンションなら問題無いのですが、10年以上も経ったマンションで欠陥が見つかって建て替えようとすると、道路など周囲の環境が変わって現行の法律にそぐわない建物ならなっていることがあります。いわゆる既存不適格と呼ばれる状態です。この場合、建て替える際には現行の法律に合わせなくてはいけないため、建て替え前より部屋の面積を小さくしなくてはいけない場合が出てきます。

築50年などの老朽化したマンションを建て替えようとする場合に問題になりがちですが、地域によっては道路の幅が変わっていたり条例が施行されていて建て替えが難しくなっているので注意が必要です。姉歯建築設計士による構造計算書偽装事件で、ヒューザーが分譲したグランドステージ茅場町は国土交通省により使用禁止と解体が命じられました。住民らの努力で再建することになりますが、そのまま建て替えると専有面積が2割減ることになり揉めたそうです。

③住民に贈与税がかかる可能性がある

これも竣工から数年のマンションなら問題ないのですが、10年以上も経ってから欠陥が見つかったマンションでは売主の費用負担で建て替えると贈与税の対象になる可能性があります。4000万円で買ったマンションに10年住み続けると、マンションの価値は4000万円より下がっています。場所にもよりますが、売却しても3000万円がいいところではないでしょうか。

しかし売主の費用負担で建て替えたとすると、そのマンションは新築ですから価値が上昇します。仮にその価値が4000万円だとすると、住民は1000万円を売主から受け取ったことになります。実はこの話は私がいた デベロッパー で、建て替えの要求が出た時に議論になりました。税務署に確認すると贈与になると言われる可能性が高いので質問するわけにはいかず、どうしたものかとなりました。最終的には建て替えにならなかったので結論は出なかったのですが、差額を迷惑料に含めるなどの方法が議論されていました。

④引っ越しのわずらわしさ

解体して建て直す間、住民は別の住居が必要になります。賃貸マンションなどを借りて仮住まいにすることになるのですが、これまでの建て直しの事例を見ると住民が転居先を探して、売主が費用を出すという形になることが多いようです。住民は普段の生活と仕事をこなしながら、急いで転居先を探すことになるので、かなりの負担になるようです。では売主が転居先を探せばいいと思うのですが、これがなかなか上手くいきません。

私はデベロッパーにいた時に、改修工事のために住民の仮住まいを探して契約したことがあります。住民によって勤務先や生活がバラバラなので転居先の希望もバラバラになります。住民1件1件に確認していかねばならず、これだけでかなりの時間をとられました。そこから賃貸物件を探して良さそうな物件を見つけると、住民に連絡して希望に合っているか確認をとります。そんなことをしていると数日間があっという間に過ぎてしまい、その物件は他の借り手が決まってしまうことがよくありました。これではいつになったら全住民が転居できるかわからず、工事の開始日もなかなか決定できないことになりかねません。

このように時間がかかりすぎるので住民が自分で部屋を探すことになるのですが、先に書いたように住民の負担が大きくなります。忙しくてこのような手間を嫌う住民も少なくなく、そもそも本当に建て替えなくてはならないのか?と建て替え反対派に回ることがあります。また引っ越しは住居だけでなく駐車場の引っ越しも含むので、これもかなり面倒な作業になります。

建て替えはとんでもなく面倒

マンションの建て替え最大の障壁は費用です。そのため欠陥マンションの場合、売主がお金を出せば問題が解決すると誤解されがちですが、実務レベルではそんな簡単な問題ではありません。建て替えの具体的なスケジュールや解決すべき問題を並べていくうちに、それまで建て替え賛成派だった人達が反対派に回ることはよくあります。

マンションの建て替えを事業主に求める場合、管理組合にとっても負担が大きいことを理解してから進めないと、こんなはずではなかったということになりかねません。欠陥が見つかってからの建て替えなので怒りが先に立つことの方が多いですが、落ち着いて課題を整理することが重要になります。また売主との駆け引きには、経験がある人でなければ難しいのも事実です。マンションの欠陥で困っていることがあれば、以下のメールフォームからお気軽にご相談ください。

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