管理組合理事長の暴走をどうやって止めるのか /理事会の苦悩と解決方法

ここ数年で、マンション管理組合の理事長や理事会の暴走が問題視されるケースが増えました。理事長や理事会が勝手にさまざまな事を決めていき、住民が反対しても強引に押し通すような事例が増えているのです。なぜこういうケースが増えているのか、そして管理組合理事長の暴走をどうやって止めるのかを考えてみたいと思います。

暴走は善意から始まる

なぜ理事長や理事会が暴走するのか?その発端は善意によるものがほとんどです。このままではマンションの将来が危ないと危惧する人が、多少強引でもやらなければ将来的に危ないと感じることから始まります。理事長は理事会で強く訴えますが、それに理事が反論しないと「何も言わない=同意した」と感じるようになります。輪番制で理事になった人の多くは理事の仕事は面倒だと感じていますし、面倒な仕事に揉め事を持ち込みたくはありません。またやる気がない人が多い中で、やる気を出している人を諫めるのも気が引けます。こうして誰も理事長に反論することなく、理事長は自分の意見を理事達が支持していると感じて意見を押し通すようになっていきます。

管理会社は暴走を止めるのか

管理会社は管理組合と管理委託契約を結んでいます。つまり管理組合から委託されて管理業務を行っているのです。そのため管理会社の仕事は管理組合の決定に基づいて、契約の範囲内で管理業務を行うことになります。管理会社は理事会の決定に反論する権限はありませんし、反論するべきでもないのです。ですから理事長の暴走に関して「管理会社が何もしてくれない」という不満をよく聞きますが、それは管理会社の仕事ではないのです。

暴走する理事長の言うがままに動く管理会社は、理事長とグルになっているように思われがちですが、彼らにできることは「もう少し議論して決めた方が良いのではありませんか」「この件に関しては住民に予め知らせておいた方が良いと思いますよ」といったアドバイス程度しかないのです。それをはねつけて理事長や理事会が押し進めるなら、それ以上のことはできないのです。

総会の出席率の問題

理事会がどんなことを決めたとしても、総会で否決されたら何もできません。しかし理事長が危機感を覚えるようなマンションでは、総会の出席率は極めて低いのです。全住戸の1/10以下の出席率というのは珍しくなく、ほぼ同じメンバーが出席しています。出席しないほとんどの住人が委任状を出しているので、マンション全体の重要な決議をわずかな出席者で決定し、委任状を出している人はその決定に従うことになります。

こうして総会で議論が行われることもなく、いつものメンバーでいつもの調子で理事会の提案が決定し、暴走する理事長や理事会はますます増長していくことになります。総会に出席しない場合にも議決権行使書で、自分の意思を通すこともできます。しかしそもそも総会の出席率が低いマンションでは、個々の議題を真剣に考えている人が少ないため、議決権行使書を使って自分の意思を伝える人は少数派です。そのため理事長や理事会の思惑通り決定することは、かなり容易になってしまうのです。

理事長の権限

そもそも理事長にはどんな権限があるのでしょうか。法律を見ていくと、マンションの自治や運営に関わる区分所有法には理事長という言葉は出てきません。その代わり管理者というのが登場します。この管理者は理事長と同義の意味で扱って問題ありません。区分所有法で定められている管理人の権限は、以下の通りです。

①共有部分、建物の敷地及び附属施設を保存する行為を単独で行うことができます。
②集会(総会)で決議された事項を実行する権利とその義務を負います。
③管理規約で定めた行為の実行とその義務を負います。
④保険金、損害賠償金などを請求して受領することができます。
⑤規約又は集会の決議により、区分所有者のために原告又は被告となって訴訟を追行する権限を有します。
⑥管理者が区分所有者の代理人として法律行為を行うことができ、その効果は区分所有者全員に帰属します。

また標準管理規約には、以下のように書かれています。

第38条 理事長は、管理組合を代表し、その業務を統括するほか、次の各号に掲げる業務を遂行する。
 一 規約、使用細則等又は総会若しくは理事会の決議により、理事長の職務として定められた事項
 二 理事会の承認を得て、職員を採用し、又は解雇すること。
2 理事長は、区分所有法に定める管理者とする。
3 理事長は、通常総会において、組合員に対し、前会計年度における管理組合の業務の執行に関する報告をしなければならない。
4 理事長は、○か月に1回以上、職務の執行の状況を理事会に報告しなければならない。
5 理事長は、理事会の承認を受けて、他の理事に、その職務の一部を委任することができる。
6 管理組合と理事長との利益が相反する事項については、理事長は、代表権を有しない。この場合においては、監事又は理事長以外の理事が管理組合を代表する。

いろいろなことが書いてありますが、権限のほとんどは総会や規約で決まったことが単独でできるというものです。むしろできることよりも負う義務の方が大きくのしかかり、裁判になれば出ていくことになるので責任だけが多くて権限がほとんどないことがわかります。さらにほとんどのマンションでは理事は無報酬なので、こんな面倒なことは引き受けたくないと思う人が大半になっています。

理事会は管理組合の執行機関であり、理事長はその理事会の長なので、会社の社長のようなポジションと勘違いしている人が多くいます。しかし実態としては自分一人では何も決められず、決まったことを実行する責任を負うばかりの役職だとわかると思います。このように権限のない理事長が独裁的に振る舞えるようになるのは、面倒を起こしたくない理事の事なかれ主義、総会における出席率の低さ、そして何より理事長の熱心さによるのです。

単なる暴走から独裁へ

最初は理事長の危機感による熱心な活動から始まります。誰も反論しないので自分の意見が支持されていると思う理事長は、多少強引であってもマンション住民全員のためになると思って、さまざまなことを決定していきます。特に高齢になると他人の意見を聞くのが難しくなり、思い込みが強くなりやすく、このような暴走に拍車をかけます。

自分が思うように管理組合を運営できるようになると、業務そのものが面白くなっていきます。さらに熱心に活動するようになり、関連書籍も読むようになると理論武装もできていきます。事なかれ主義の理事達では、もはや反論したくても反論できない強さを身につけていくのです。

当初は善意で始めたことでも自分の意のままになると欲が芽生えてしまいます。ましてやマンション理事長は無報酬の場合がほとんどなので「これだけみんなのために働いているのに」という、やるせなさも出てきます。自分の決断に異を唱えない理事や管理組合員、そして巨額の修繕積立金があると、都合の良い業者に発注してキックバックを受け取る人も出てきます。背任行為ですが本人に悪気はありません。多くの時間をマンション運営に使っているので、多少の報酬があっても良いと自己正当化できるからです。

業者や管理会社からキックバックを受け取るようになると、彼らからの入れ知恵によってさらに老獪になっていきます。こうして管理組合は理事長のための集金装置になっていき、理事長はなんだかんだで何年も理事長を努めて利益をあげるようになっていくのです。

誰が理事長を止めるのか

こうなってしまった理事長を誰が止めるのでしょうか。まず理事長を止めるのは、各理事になります。標準管理規約には「理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事の互選により選任する」と書かれています。理事長を選んだ人が理事長の暴走を止めるのは当然の流れなのですが、先に書いたように理事が事なかれ主義なので暴走が起こるわけです。理事が止められるなら暴走は未然に防がれています。

では理事以外に誰が理事長を止められるかと言うと、監事になります。幹事は理事会の監査役として置かれている仕事で、標準管理規約には以下のようなことが書かれています。

第41条 監事は、管理組合の業務の執行及び財産の状況を監査し、その結果を総会に報告しなければならない。
2 監事は、いつでも、理事及び第38条第1項第二号に規定する職員に対して業務の報告を求め、又は業務及び財産の状況の調査をすることができる。
3 監事は、管理組合の業務の執行及び財産の状況について不正があると認めるときは、臨時総会を招集することができる。
4 監事は、理事会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない。
5 監事は、理事が不正の行為をし、若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき、又は法令、規約、使用細則等、総会の決議若しくは理事会 の決議に違反する事実若しくは著しく不当な事実があると認めるときは、 遅滞なく、その旨を理事会に報告しなければならない。
6 監事は、前項に規定する場合において、必要があると認めるときは、理事長に対し、理事会の招集を請求することができる。
7 前項の規定による請求があった日から5日以内に、その請求があった日 から2週間以内の日を理事会の日とする理事会の招集の通知が発せられない場合は、その請求をした監事は、理事会を招集することができる。

このように監事は条件付きながら単独で総会を開催することができるなど、かなり強い権限を持っています。区分所有法にも監事のことが書かれていますが、こちらは管理組合を法人化した場合の話になっています。一般的なマンション管理組合では監事が暴走を止めることになるのですが、止められていないから理事長が暴走してしまっています。

理事長を辞めさせることは可能か

暴走する理事長を解任したいという声が上がることがあります。では理事長を解任する方法はあるのでしょうか。方法は4つ存在します。

①理事長が違法行為をしている場合

区分所有法第二十五条2項
管理者に不正な行為その他その職務を行うに適しない事情があるときは、各区分所有者は、その解任を裁判所に請求することができる。

違法行為がはっきりしている場合は、裁判所に訴えれば良いのです。また職務を行うのに適しない事情でも同様です。病気になった場合や精神に異常がある場合なども、裁判所に解任を訴えることができます。

②臨時総会による解任

区分所有法第二十五条
区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によつて、管理者を選任し、又は解任することができる。

総会で解任させることができます。そのため通常総会まで待つか臨時総会を開く必要があります。しかし総会を開くのは理事長なので、自分の解任を求める総会を簡単に開催するわけがありません。そこで管理組合員が議決件総数の1/5を集めることで臨時総会を開催することができます。

しかし管理組合員の名簿を持っているのは理事長の場合がほとんどですから、大規模物件では1/5の賛同者を集めるだけで大変です。管理組合員の名簿を渡すように要求しても、名簿は個人情報になるため理事長が拒否するのは簡単です。さらに臨時総会開催に漕ぎつけても、委任状を集めたりするには理事会の協力が必要ですし、総会の議長は理事長が行うことになっています。総会を開いて理事長を解任するのは、あまりにハードルが高いのです。

③監事による総会の開催

先に書いたように標準管理規約第41条のより、監事は総会を開くことが可能です。しかし臨時総会を召集できるのは「管理組合の業務の執行及び財産の状況について不正があると認めるとき」に限定されています。解任される理事長がこのような総会の開催に協力するはずもなく、理事会が同調するかがポイントになります。よほど慎重に準備しないと、理事長から名誉毀損などで逆に訴えられる可能性も出てきそうです。

④理事会による理事長の解任

区分所有法でも標準管理規約でも、理事長の解任は総会となっています。しかし理事会で過半数の一致があれば、理事長を解任することが可能だと2017年(平成29年)12月18日に最高裁が判決を出しました。理事長は理事会の互選によって選ばれるので、解任もまた理事会で可能という判断です。この方法だと理事長職は解任できますが、理事として残ることになります。理事会と理事長が対立した場合に、理事会だけで解任できる画期的な判決でした。しかし理事長の暴走は理事会も共犯者になっているケースが多いので、理事ではない管理組合員が解任を希望した場合には使えません。

暴走させない枠組みが必要

このように理事長が暴走してしまえば、それを止めることは困難になってしまいます。暴走してから止めるよりも、暴走しない枠組みを作っておくことが大事ではないでしょうか。理事長の暴走は事なかれ主義の理事会に、熱意を持った人が現れることから始まります。マンション理事は無報酬なのに手間ばかりかかり、プライベートな時間を削って職務を行うには割りの悪い仕事です。ですから可能な限り問題を起こさず、次の人にバトンタッチしたいというのが多くの人の本音です。しかしそれが暴走理事長を生む温床になっています。以下のような管理組合は、危険信号が点っていると考えて良いでしょう。

・理事会での発言が少なく、決まった人しか発言しない。
・理事会の出席率がいつも悪い。
・理事会の運営が管理会社任せ
・総会の出席率がいつも悪く、同じ人しか出席しない。

こういった管理組合や理事会では、暴走理事長を生む可能性が高まっています。今すぐ雰囲気を変えていく必要があります。こういった管理組合の問題に対し、理事の皆さんのお手伝いをしています。理事の暴走などの危険をお話し、停滞する理事会を変えるための手立てをご提案します。気になる方がいらっしゃいましたら、下記のメールフォームからご連絡ください。

管理組合理事長の暴走をどうやって止めるのか /理事会の苦悩と解決方法” に対して5件のコメントがあります。

  1. 若林 典之 より:

    41条しか見ていませんが、現行標準管理規約を反映しておらず古いのでは?

    1. TaClover Tokyo より:

      ご指摘、ありがとうございます。記事を書く時に使った標準管理規約が古かったようです。最新版を抜粋したもので編集し直しました。

  2. 匿名希望 より:

    自分のマンションの事かと思うほどビックリの記事でした。当マンションは理事長の暴走に立ち上がった理事の過半数が理事会で理事長の解任を可決しましたが、理事長ベッタリの外部監事が権限もないのに違法に臨時総会を開催し、今度は逆に理事長解任を要求した理事全員の解任と理事長解任の無効、新理事選任を可決させてしまいました。折角理事が立ち上がって理事長を解任し、理事会運営を正しい状態に立て直そうと奔走したのに、全てが水の泡となってしまいました。理事長は自分にとって都合の悪い歴代の理事や外部監事を全員クビにし、自分は様々な汚い手を使って理事長の座にしがみついているのです。

    1. hanemone より:

      コメントありがとうございます。
      大変なことになっていますね。マンションは基本的に自治になっているので、内部で争いが起こるとかなり大変なことになってしまいます。しかし理事が立ち上がって解任まで漕ぎ着けたのは、素晴らしいことだと思います。対立が起こって大変な状態だとは思いますが、自分達で何とかしようという人が増えたのは良い方向だと言えると思います。

      歩み寄りをする時期なのか、理事長が不法行為を行っていて証拠を固める時期なのか分かりませんが、頑張ってください。

  3. 理事会の暴走ですが、うちのリゾートマンションではもうすでに手の付けられない状態に陥っています。理事会になるメンバーが複雑にゼネコンと絡み、大規模工事にたびに業者から袖の下を受け取っていると思われます。ただし、証拠は隠ぺいされているので事実を把握することが非常に難しい状態です。組合員がグループを組んで情報開示などを求めますが、理事長から「理事会の運営を妨害している」などの不当な理由で個人が訴えられるなどが多発している状態です。実際、総会に出席して理事長に説明を求めると、理事長から罵倒を浴びせられ、質問者は総会を妨害したとして名誉棄損等で訴えられました。訴えられた区分所有者は、自腹を切って弁護士を雇い、そちらの案件に振り回されます。このような状況を知り、普通の人間は手も足も出せない状態です。多くの区分所有者は、会社名義になっており、3分の1程度はこのマンションが建設された40年ほどまえに付き合いがあったゼネコン関連といわれています。元副理事がこれらの工事関係者と仕事上付き合いがあることから、工事発注はすべて事後報告。見積もりを数件とって全区分所有者の決を採るべきですが、何百万単位の工事はすべて事後報告です。その都度、数人の区分所有者が抗議しますが、すべて書面で、委任状などにて理事会に決定の権限があると3分の1以上に署名をもらっていると、跳ね返される始末です。以前、理事会にいた会計担当の女性が理事会の選挙の投票を改ざんしたと法廷で証言し、理事を降りたのにも関わらず、今期また理事長に推薦されて、理事会に戻っているようなでたらめな運営なんです。書いたらきりがないのですが、健全な運営が行われていないうえに、パワハラで何人もの従業員が解雇になっている事実も、書面上は自身の都合により離職としてしか報告されません。自主管理になってから、悪用する人間たちに支配されているマンションです。NHK、週刊現代ほか報道局に事実を取り上げてほしいと連絡しましたが、全く反応はありませんでした。

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