まだまだ残っているタイルの深目地 /剝落の原因の1つ
少し前に大規模修繕工事にセカンドオピニオンとして立ち会ったマンションの外壁はタイル貼りで、全てが深目地でした。現在は外壁タイルの深目地は用いられませんが、かつては多くの建物で使われていました。深目地は危険だと言われていて、外壁タイル剥落の原因にもなると言われています。今回はタイルの深目地について書いていきたいと思います。
タイルの深目地とは
タイルには目地と呼ばれている部分があります。タイルとタイルのつなぎ目の部分で、大抵の場合はモルタルで作られています。タイルを突きつけて貼るよりも目地を入れた方が美しく見えるとされるので、目地を入れて
普通の一般的な目地は、タイルの表面まで目地材が入っています。しかし深目地はタイルの表面より深い位置に目地材が詰まっています。下の図はタイルの断面図で、普通の目地と深目地の違いは一目瞭然だと思います。
現存する深目地
以下の写真は、私が大規模修繕のセカンドオピニオンで訪れた物件の外壁タイルです。タイルの目地がほとんど見えないほど深く、年配のタイル職人はこの目地を見て一分(いちぶ)目地と言っていました。私が建築の世界に入ってからは、これほど深い目地はありませんでした。正直言って、見た瞬間に目地が入っていないと思いました。
こちらのタイル貼りを断面図で見ると以下のようになります。目地がほとんど入っていないことがわかると思います。
築30年以上のマンションですが、この状態でほとんど剥がれることなくタイルが張り付いていたことは奇跡的に思えます。このマンションは都内の物件ですが、2011年の東日本大震災の時にもほとんど剥がれなかったみたいです。
タイルが剥がれ落ちた部分を見るとタイルの裏足にモルタルが回っておらず、とても危険な状態であることがわかります。このマンションでは早急な対応が必要だと判断しました。
深目地の危険性は1990年に指摘されていた
1989年11月21日、福岡県北九州市の住宅都市整備公団昭和町団地で大規模な外壁タイルの剥落事故が起こりました。この事故で外壁タイルが縦5m、横8.5mにわたって落下し、男女3人が死傷しました。この外壁タイルの剥落事故は全国に報道され、建設業界を震撼させました。事故は専門家による徹底的な調査が行われ、平成2年(1990年)に「外壁タイル等落下物対策専門委員会報告書」がまとめられました。
報告書ではタイルが剥落しないための対策もまとめられていて、コンクリート面を清掃してモルタルの食いつきを良くすること、ひび割れ誘発目地を設けることなどと並んで、深目地の禁止も書かれています。ただし目地の深さはタイルの厚さの1/2以下にすることと書かれていて、タイル厚さの1/2以下の深目地であれば良いということになります。そのためこれ以降も深目地は使われることがありました。
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レンガ積みのように見せる深目地
なぜ危険な深目地が使われていたかというと、タイル貼りの見た目をレンガ積みのように見せたかったからです。深目地がよく使われていたのは、二丁掛けタイルや小口タイルです。二丁掛けタイルはサイズが227×60mm、小口タイルは108×60mmで、どちらもレンガのサイズが元になっています。
先の大規模修繕で私が見た深目地は、タイルが小口タイルでした。外装をタイル張りというよりレンガ積み風に見せたい時に、これらのタイルを使って深目地にしています。またタイルが立体的に見えるため、深目地を多用する設計士もいました。
深目地をどうするか
現在お住まいのマンションで、外壁タイルに一分目地のような深目地があれば目地を詰めることをお勧めします。多少の深目地ならともかく、あまりに深い目地は剝落の危険性がつきまといます。大規模修繕など足場を組む際には、目地詰めを検討してください。
まとめ
深目地はレンガ積みのような見た目を再現するために、かつては多用されていました。深目地にも目地の深さがさまざまですが、あまりに深いものは剝落の危険を伴うので補修で目地を詰め直す必要があります。大規模修繕の際に施工業者や設計事務所に相談することをお勧めします。