マンションの孤独死に慌てる管理組合 /なにが大変なのか

2021年の年末から2022年の年始にかけて、私がお伺いしているマンションで立て続けに2件の孤独死がありました。その事例を紹介するとともに、管理組合として何が問題になるのか、その場合にどうすれば良いのかを書いてみたいと思います。

埼玉県の築29年のマンションでの例

築30年近いマンションなので、住民には高齢者が多く住んでいます。亡くなったAさんも高齢者で、マンションに1人で生活していました。近所付き合いも良く、マンション内には何人も友人がいましたし、管理人さんともよく話していたようです。

①異変の発覚

12月のある日、管理人室に高齢者のヘルパーさんがやって来ました。今日の10時にAさんが予約していたのに不在だったと言います。Aさんはきちんとした方で、用事ができた時は事前に必ずキャンセルの連絡をくれるのに今日はなかったそうで、心配だから夕方になって再度来てみたが不在だと言います。さらに携帯電話も繋がらないそうです。管理人もAさん宅に行ってインターホンを押しましたが、返事はありませんでした。

②家族への連絡

管理人は理事長に連絡し、理事長もAさん宅を何度か訪れますが不在でした。そこで理事長は他の理事に相談し、Aさんと仲が良い住民数人に会って、Aさんの家族の連絡先を知らないか尋ねました。1人がAさんの妹を知っていたので連絡すると、Aさんから旅行の予定などは聞いていないとのことでした。さらにAさんが本家(実家)にも行っていないことがわかりました。幸い、Aさんの妹は万が一のためということでマンションの鍵を預かっていましたが、現在のお住まいが県外のため、週末にマンションを訪れることにしました。

③合鍵で部屋に入る

妹さんがマンションに来れたのは年末でした。妹さんに同行する形で管理人、理事長、理事2名が一緒に妹さんが持っている鍵を使って中に入りました。玄関ドアを開けるとすぐに異臭が漂い、廊下に倒れているAさんを見つけました。死後何日も経っており、ヘルパーさんが来た際には既に亡くなっていたと思われました。その後、警察に連絡して検視を行っています。

東京都下の築17年のマンション

駅から近いため中古でも人気がある物件で、売りに出すとすぐに契約が決まるようです。そのため若い世代も多く住んでいて、マンション敷地内には小さなお子さんもよく見かけます。また賃貸に出している人も多く、今回も賃貸に出している部屋に住んでいるBさんの身に起こりました。

①異変に気づく

年末が押し迫った頃、マンション住人のCさんはバルコニーに出た際に異臭がすることに気がつきました。臭いは隣のBさん宅からしてきます。Cさんは年末の大掃除をしていたため、隣のBさんが生ゴミなどを大量にバルコニーに置いているのだと思いました。やや非常識だとは思いましたが、年末だし仕方ないと思って深く気にしていませんでした。

しかし正月が過ぎて、仕事が始まる頃になっても隣のバルコニーから異臭が漂ってきます。Cさんの奥さんが洗濯物を干すたびに異臭が気になり、管理人に相談しました。Cさんにバルコニーのゴミを早く捨ててもらうように言うため、管理人とCさんのお宅のインターホンを鳴らしました。しかし反応がありません。仕事に行っている可能性が高いので、夜にもう一度インターホンを鳴らしてみましたが、やはり返事はありませんでした。

②バルコニーを覗き込む

Bさんの不在が続き、不審に思ったCさんはバルコニーに出て身を乗り出し、隔板ごしにBさん宅のバルコニーを覗き込みました。するとバルコニーには生ゴミの袋がいくつも置いてあり、さらに窓が開けっぱなしになっていました。何日も留守なのに窓を開けたままであることに異常な気がしたCさんは、すぐに管理人に連絡します。そしてその日の午後には管理会社のフロントが到着しました。

③部屋に入る

管理会社のフロントは理事長とCさんと相談し、玄関ドアを破壊すると修理代が高くつくので、Cさん宅のバルコニーの隔板を割ってBさん宅に入ることを提案しました。Cさんも理事長も快諾し、管理会社のフロントと管理人がCさん宅のバルコニーからBさん宅に入り、リビングに倒れているBさんを発見しました。その後は警察に連絡し、検視が行われました。

死者が出ると何が大変なのか

①自宅の自然死には警察が来る

医師が不在で亡くなった場合は、警察の検視が必要になります。そのためマンションで孤独死が発見された場合は、警察がやってきます。警察は検視の他に発見状況などを聞き、事件性がないことを確認するのです。そのためパトカーがマンションの前に止まり、警察官がマンション内にやって来るので、事情を知らない住民からすると何事かと思ってしまいます。そのため勝手な噂が広がることがあり、殺人事件があったなんて話が広がることもありました。

②新型コロナの影響

自宅で1人で亡くなった場合、新型コロナが原因ではないかと危惧する人も出てきます。自然死の場合、検査もするようですが結果が出るのは数日後になります。新型コロナが原因かはわからない状態であっても、理事会や管理会社に「消毒をするべき」「行動範囲を全て調べるべき」と言ってくる人もいたようです。

③事故物件になるのか

マンション内で死者が出ると、事故物件になってしまい資産価値が落ちるという声があります。そもそも事故物件という言葉は法律用語ではないので定義は曖昧ですが、ここでは販売時に死亡したことを告知する義務があるかという点について書きたいと思います。そして結論を書くと自然死の場合は、告知義務はありません。自殺や殺人などの事件性がある場合は、告知義務が発生します。そのためマンション内で死者が出たからと言って、即事故物件と呼ばれるわけではないのです。人の死は誰にでも起こることなので、単に亡くなったというだけで告知する必要はないのです。

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マンション内で死者が見つかった場合

先に挙げた例のように室内で亡くなっているのを発見した場合は、すぐに警察に連絡しましょう。事件性の有無を調べる必要があるので、何より警察に連絡することが第一になります。そのため部屋の中のものは極力触らないようにした方が良いですし、何かを持ち出したりするのはもっての他です。また発見者は警察に発見状況などを質問されることになるので、発見した時間や様子をメモしておいた方が良いでしょう。

騒ぎが大きくなってマンション内で変な噂が飛び交う場合、理事会からわかっていることを記載した文章を各戸に配ることもあります。マンション周辺の人達の間で変な噂が立たないようにするための措置です。事件性がないと分かった時点でそれらをアナウンスするのも一手だと思います。

また新型コロナの件ですが、不安な人がいるならば消毒を行うのも良いでしょう。管理会社に相談して業者を探してもらうのも良いですし、消毒液を購入して自分達で行うのも良いでしょう。ただし、突然マンション内の消毒を始ると何事かと騒然となる場合もあるので、いつ何の目的で行うのか明示した方が良いと思います。

知り合いが多い人は早期に発見される

部屋の中で亡くなっているかもしれないとなった場合、常に頭を悩ませるのが鍵の問題です。管理会社に開けてくれと連絡する人が多くいますが、分譲マンションの専有部の鍵を管理会社が持つことはありません。また警備会社に預けているから開けてくれと連絡する方もいますが、基本的に警備会社は警備契約の業務以外に鍵を使うことはありません。そのため親族などを探して鍵を開けてもらうか、見つからなければドアや鍵を破壊して中に入ることになります。

最初に挙げた埼玉県のマンションでは、Aさんと連絡が取れなくなってから、割と早くAさんの妹に連絡がつきました。Aさんは社交的だったので理事長も顔見知りでしたし、マンション内にも知り合いが多かったので調べやすかったのです。一緒に旅行するほど仲が良い住民がいたので、その人が妹さんにも会ったことがあったので連絡先を知っていました。その反対に、2つ目の東京都下のマンションの例ではBさんは賃借人で、マンション内の人付き合いがほとんどありませんでした。さらに賃貸人(オーナー)を知る人もいなかったため、Bさんの身元を確認するために警察は賃貸を仲介した不動産屋を片っ端から調べたようです。

近所付き合いが多い人は周囲が早く異変に気づくため発見が早くなりますが、近所付き合いが全くないと誰も異変に気づかないことがよくあります。メールボックスにチラシが溢れていても旅行に行っていると思われたり、何ヶ月も出入りがなくても誰も気にしません。マンションは近所付き合いをしなくて良いと言われていますが、マンションこそ近所付き合いが必要だと言われる所以の1つです。

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まとめ

今回は私が経験したマンション内での死亡例を2つ紹介しました。この2例はコロナが原因ではなかったようで、さらに事件性もないと警察から言われています。しかし住民の中には激しく動揺した人もいたようですし、精神的なショックを受けた人もいました。そういった中で理事会は冷静な対応が求められるので、マンション内で死亡者が出た場合に理事会としてどのように対応するかを事前に考えておいた方が良いと思います。

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