マンションの管理費 /安すぎる管理費に苦悩する管理会社
マンションの管理費を下げるコンサルタントの広告を、あちこちで見かけます。管理費はマンション住民にとって毎月払うお金なので、安い方が良いのは間違いありません。以前は過剰な値下げにも管理会社は応じていましたが、最近はあまりに安い場合は管理契約を管理会社からお断りするケースが増えています。管理会社に何があっているのでしょうか。
管理会社の成り立ち
当初のマンション管理業は清掃が中心でした。しかし1953年に発売された初の鉄筋コンクリート製分譲マンション「宮益坂アパートメント」(売主は東京都)では、電話交換手やエレベーターガールなどの共用サービスが行われています。分譲マンションの歴史は共用サービスと共に始まったと言えるでしょう。
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初の民間分譲マンションとなった「四谷コーポラス」では、管理人が外出時に鍵を預かったりゴミ集めなども行っていますし、クリーニングの取り次ぎなどのサービスも行われています。この時、売主の日本信販(株)は子会社として管理会社を設立し、管理会社が管理する現在のスタイルを作り上げました。
また四谷コーポラスは、住民が管理組合に所属することを定めた規約で分譲されたことも画期的でした。このように住民への共用サービスだけでなく、管理組合運営が管理会社にとって重要な業務になっていきました。四谷コーポラスの成功により、マンションを分譲する会社は管理会社を設立するようになっていきます。
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親会社(デベロッパー)の影響下に
かつてのマンション管理会社には、営業部が存在しませんでした。親会社がマンションを販売すると、自動的にそのマンションを管理することが可能だったため、営業をする必要がなかったのです。営業経費が掛からず毎月のように管理費が入ってくるマンション管理会社は、事業としてとても旨味がありました。マンションは販売したら利益が出ますが、その後は利益を生みません。しかし管理会社を子会社にすることで、販売後も継続的に利益を得ることが可能になったのです。
管理会社は営業をせずに仕事を得ることができますが、その反面で親会社の影響が強くなります。特に管理費の設定では、親会社の意向が強く反映されていくことになりました。売主としては販売する際に管理費が安い方が売りやすいので、安く設定することを希望します。そのため大抵のマンションでは、管理費が安く設定されることになりました。管理会社としても営業経費が掛からないので、ある程度安くすることは可能だったのです。
1人で複数物件を担当するフロント
管理費を安くするということは、あまり人件費がかけられなくなります。そのため管理会社の担当者(フロント)は、同時に多くの物件を担当します。会社や担当者によっては、1人で20物件近くを担当するフロントもいました。20物件も担当すると、数ヶ月に1度しか理事会に顔を出せなくなります。そこまで行かなくとも5物件も担当すると、理事会に月に1回顔を出すのが困難になり、スムーズな対応が難しくなります。
現実的にはトラブルや重い案件を抱えた管理組合があり、その組合にかかりっきりになることも珍しくありません。フロントは他の管理組合で問題が起きなことを祈りながら、トラブルが起こっている組合の対応を続けることになります。こうして1つの案件が片付く頃には他の管理組合でトラブルが起こり、そこにかかりっきりになります。こうして長い間、放置される管理組合が出てきてしまうのです。販売しやすくするために安く抑えられた管理費は、管理サービスの低下につながりました。そしてフロントは常にプレッシャーに晒されていき、耐えられなくなった人は辞めていきます。管理業界は常に人の出入りが激しい状態が続いています。
管理戸数競争の時代
長年、管理会社は管理戸数を増やすことに腐心してきました。管理戸数が管理会社の大きさ、業績、信頼度を図る物差しだと信じられていたからです。管理戸数が多ければ多いほど経験値が高くなり、より良いサービスを提供できるという理屈でした。そのため管理契約の解消は管理会社にとって絶対に避けるべきことで、解約になりそうな物件があれば多少は無理な値引きであっても管理費を下げるなどして対応してきたのです。しかし独立系管理会社の台頭、管理人の人件費の高騰、そして管理会社に求められる業務の増加などが重なり、管理会社は無理な管理戸数競争をしなくなりました。
そのため以前はコンサルタントが入って管理費の値下げを要求すれば、かなり高い確率で管理会社は値下げの要求に応えていましたが、今では断るケースも増えてきています。むしろ管理人の人件費高騰を背景に、管理組合に値上げを要求するケースも増えています。「来季から管理費を10%上げてください。無理なら契約を更新しません」と言う管理会社が増えていて、今は管理戸数ではなく確実に利益を上げることができる物件だけに絞るようになっているのです。この量から質への変還により、管理会社はこれまでとは180度異なる態度を示すようになっていきました。
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何でも管理会社に言えば済む時代ではない
管理会社が管理戸数で競争していた時代は、マンション生活で困ったことがあれば管理会社が相談に乗ってくれることが多くありました。しかし上記のように管理人の人件費が高騰し、管理戸数で競うのではなく利益をしっかり出すように方向転換をすると、管理委託契約書に書かれていない項目については管理会社が断るようになってきました。代表的な例が住民間の騒音問題で、管理会社によっては住民から相談があっても断るように管理人に指導しています。
マンション管理組合と管理会社は、管理委託契約を結んでいます。原則として管理会社が行うのは、この契約に書かれている内容になります。それ以外は契約外なので、管理会社が断るのは当然と言えば当然のことなのです。しかしこれまでは管理会社が、言えばなんでもやってくれていたので断られると驚く人もいます。管理費を払っているのに仕事をしないとはどういうことだと怒る人もいます。しかし管理会社が行うのは契約書に書かれている内容までで、それ以外は無料サービスで行ってくれていたのです。無料サービスがなくなったからと言って、文句を言うのは筋違いと言えるでしょう。
私が相談を受けた中には、上記のような騒音問題に加えて共用部で見つかった施工不良の責任を取らないなどの理由で複数の住民が管理費を払わなくなったマンションがありました。先に書いたように騒音問題は管理会社の仕事ではありませんし、施工不良の責任を取るべきは売主です。売主と管理会社が同じグループ会社だとしても、管理会社が責任を取ることはあり得ません。このマンションでは管理会社が契約を更新しないことを決め、理事会が慌ててどうしたものかと相談してきたのです。しかし管理費を払っているのだから、なんでもかんでも管理会社にやらせるという態度を改めなければ、どの管理会社になっても難しいと思いました。今後は管理委託契約の内容をよく読んで、管理会社が何をやってくれるのか、何が契約外なのかをしっかり把握しておく必要があります。
まとめ
管理会社は必要な額を設定するというより、販売する親会社の都合で管理費を設定してきました。そのためギリギリの管理費で運用していることが多く、昨今は管理費の値上げを要求するところも出てきました。これまで管理費を安く設定していたため、無理が効かなくなってきているのです。管理会社に丸投げしていればマンション管理は問題ないという時代は過ぎ去りました。これからは住民が積極的にマンションを管理する時代です。