マンションの負のスパイラル /廃墟に向かうマンションの老い
今後、多くのマンションが廃墟になると予想されています。沖縄の築35年のマンションの廊下の崩壊は、多くのマンションが今後置かれるであろう未来を物語っているようです。本当にマンションは廃墟になってしまうのか、そして廃墟になるならどのような流れで廃墟になってしまうのかを解説します。マンションの負のスパイラルが生まれると、廃墟になるまであっという間です。
負のスパイラルの仕組み
マンションが廃墟化する負のスパイラルは、図のような形になります。
「修繕積立金が不足」→「建物の維持管理が困難になる」→「空き家が増える」→「修繕積立金が不足」→「建物の維持管理が困難になる」→「空き家が増える」→以下繰り返し・・・
なぜこのようなことになるのかを説明していきます。
沖縄県浦添市で起こった廊下の崩落
2009年9月3日、沖縄県浦添市の3階立てマンションで、外廊下が崩落する事故が発生しました。轟音と共に廊下の中央部分が幅2メートル、長さ15メートルに渡って崩落しましたが、発生時間が午前5時過ぎだったこともあり、怪我人はいませんでした。このマンションは1974年に建設され、築35年でした。
住人によると、その年の7月頃に廊下が傾きはじめ、崩落前には一見して傾いているのがわかるようになっていたそうで、崩落は時間の問題だったようです。住人には高齢者が多く介護施設に緊急入所する人や、公民館に寝泊まりすることになった人もいました。住人らは廊下の危険を知りつつ、なんら対策を打てず放置していたようです。
崩落の原因は施工不良が挙げられています。本来は30mmから40mmのはずの鉄筋のかぶり厚さが75mmもあり、必要な耐力が足りていませんでした。さらにあちこちにひび割れが生じた結果、雨水が浸入して鉄筋が錆びていました。錆びた鉄筋は膨張し、コンクリートを破壊しています。さらにコンクリートには、塩分を抜いていない海砂が使用されていました。マンションが竣工した74年の沖縄では、海洋博覧会開催のために建設ラッシュが起こっていて、砂が不足していたため海砂が使用されていたのです。
施工不良が廊下崩落の大きな原因ですが、以前から崩落の予兆が出ていました。廊下のあちこちにひび割れが生じ、鉄筋のサビ汁が垂れていました。しかし住人はなんら対策を行うことがなく、崩落が起こってしまいました。なぜ廊下が傾くほど建物が傷んでも何もしなかったのでしょうか。何もしなかったのではなく、何もできなかったのです。
住人の高齢化
日本全体が高齢化社会になってきているように、マンションの住人も高齢化してきています。国土交通省が行っている「マンション総合調査」によると、60歳以上のマンション住人は平成11年では20%台ですが、平成30年には約50%になっています。20年も経たないうちに、約2倍になっています。今後はさらに高齢者の割合が増え、住民の過半数が60歳以上のマンションが当たり前になります。住人の高齢化が急速に進んでいることがわかります。
建物の老地化
マンションの老築化も急速に進んでいます。平成30年に国土交通省が発表したデータによると、現在築40年を超えるマンションは約81.4万戸ですが、10年後には197.8万戸、20年後には366.8万戸にのぼるとなっています。1970年代までに建てられたマンションが築40年を超えているわけですが、今後はバブル期に大量に建設されたマンションが築40年を超えることになります。そのため40年超えのマンションが急増するのです。
修繕積立金の不足と増える空き家
大規模修繕などのマンションの修繕を行うために毎月積み立てている修繕積立金ですが、 デベロッパー が販売しやすくするために金額が低めに設定されていることがほとんどです。加えて1回目の大規模修繕で貯めた修繕積立金の大部分を使ってしまうことが多いため、修繕積立金の値上げを継続的に行っていかないと、築30年を過ぎてから資金不足に陥ることになります。この件は下記の記事に詳しく書いているので、そちらをご覧ください。
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築30年を過ぎて資金不足が発覚したら手遅れです。なぜなら上記のように、マンション住人の半数以上が高齢者になっています。年金しか収入がない住人がほとんどになり、修繕積立金の値上げも難しいでしょう。そうなると資金不足は解消せず、壊れた箇所の修理もできなくなります。資金に余裕がある人は、マンションを出ていくでしょう。
そして空き家の増加が追い打ちをかけます。現在、マンションに限らず空き家が急速に増加していています。総務省の「平成 30 年住宅・土地統計調査 」によると全国の空き家は800万戸(戸建て等も含む数字)を超えて上昇傾向にあります。このうち半数がマンションの空き家で、今後も増えていくと予想されています。さらに悪いことに所有者不明の空き家が増えていることが、このデータからわかります。
所有者不明では修繕積立金などを徴収することもできずに不足を招き、適切な維持管理ができなくなってしまいます。建物の老築化で費用がかかるようになった時に、住人も高齢化しているため不足資金を一時金などで集めたくても集めることができず、さらに空き家が増えて所有者不明の部屋が増えると修繕積立金の不足が加速していきます。
現在のマンションでは、隣に住んでいる人と話をしたことがないというケースが多くあります。マンション住民が亡くなると、その所有権は配偶者や子供に相続されます。相続人は管理費や修繕積立金を払う必要があるのですが、もし払われなかったら相続人を見つけ出して請求しなくてはなりません。話もしたことがない人の相続人を探すのは、かなり大変な作業になります。こうして管理費や修繕積立金の未納が増えていき、資金不足を招くのです。
負のスパイラルが完成
こうして負のスパイラルが完成し、マンションは廃墟になっていきます。
「住人の高齢化と建物の老築化が同時に襲う」→「修繕積立金が不足」→「建物の維持管理が困難になる」→「空き家が増える」→「修繕積立金が不足」→「建物の維持管理が困難になる」→「空き家が増える」→「資金が不足する」→この繰り返し・・・
建物が古くなると、どうしても修繕費が高くつくようになります。築30年を過ぎてからエレベーターや給排水管などの交換工事が必要になるからです。それまでに修繕積立金は余裕を持って貯めておかなければならないのですが、ほとんどのマンションでは12年に1回のペースで行う大規模修繕で、修繕積立金のほとんどを使い切ってしまいます。
修繕積立金が足りなくなり、値上げや一時金の徴収を行おうとした時には住人の高齢化が進んでいて、必要な資金が集められないとケースが出てきます。こうして負のスパイラルに陥るのですが、一度陥ってしまうと抜け出すのは困難です。マンションの建て替えも選択肢の1つですが、ほとんどの場合は住人が多額の資金を出さなくてはならなくなるので、総会で決議されません。そもそも建て替えるだけの資金を出せるなら、マンションの維持管理が限界になることはないのです。
負のスパイラルに陥らないために
このような負のスパイラルに陥らないためには、修繕積立金を十分に蓄えてマンションの資産価値を維持しなくてはなりません。お金を貯める方法は、収入を増やすか支出を減らすしかありません。この両方の対策がマンション管理組合には求められます。
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そしてマンションの将来を住人全員が真剣に考えなければなりません。誰かがマンションを出て行った後に、また別の人が住みたいと思って来てくれるマンションにしなければ、空き家だらけになってしまい負のスパイラルが始まってしまいます。自分たちのマンションを守れるのは、住人しかいないということを忘れずに、全員が管理組合の活動に関わるようになって欲しいと思います。
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まとめ
住民の高齢化と建物の高齢化が同時に進行するため、修繕積立金の不足を招く要因になっています。そして資金不足に気づいた時は、すでに手遅れになっているのです。修繕積立金の不足を発端に負のスパイラルが出来上がり、マンションが廃墟になっていくプロセスを解説しました。
このような事態を防ぐために、マンションの長期修繕計画のチェックや修繕積立金の過不足のチェックなどを行っています。初回の相談は無料で受けていますので、不安のある方は下記メールフォームからご連絡ください。