翻弄される管理組合 /いかにしてマンションは食い潰されたのか

地方のマンションに住む理事長さんのK氏からメールを頂きました。どうしたら良いかわからない状況で、自分たちの問題点を整理したいという内容でした。とにかく誰かに話を聞いてもらいたいといった感じで、K氏のマンションは根深い問題を抱えていました。今回はいかにしてマンションは食い潰されたのか、K氏とのメールのやりとりを元に書いてみたいと思います。

マンションの概要

竣工:1995年
構造・規模:RC造10階建て 83戸
売主:地元の食品会社(既に倒産)
施工:地元のゼネコン
管理会社:地元の独立系管理会社

バブルが弾けて多くの会社が資金繰りに苦しんでいた時代に、多くの会社が土地を売却していました。このマンションは、地元の食品会社が古い工場跡地にマンションを建設したものでした。当時は単に土地を売却するだけでなく、このようにマンションを建設して利益を出す会社が結構ありました。

理事長K氏の告白

それまでなんら問題なくマンション運営が行われていましたが、問題が起こったのは22年目の2017年だそうです。2度目の大規模修繕を行った後に、雨漏りが発生したのです。修繕から数ヶ月で大規模な雨漏りが起こったことに、一部の住民から適正な工事が行われなかったのではないか?という疑問が出てきました。さらにこの大規模修繕は費用が足りずに借入を行ったのですが、総会で反対していた人達が管理会社のやり方に異議を唱えるようになります。

雨漏りの問題が解決しない中、管理会社が管理費の値上げを要求してきました。値上げはこれまでの5割り増し以上で、理事会も住民も驚きました。管理会社はこの10年は値上げを行っていないことや、このマンションの管理費が他より安いことを理由に値上げを要求し、要求が通らなければ管理委託契約の更新をしないと主張したそうです。臨時総会は荒れに荒れ、管理会社に疑問を持つ人達が値上げに反対したため、管理会社との契約を更新しないことになりました。

そこで新しい管理会社を探したのですが、どこの会社も提示してきた額は、元の管理会社が要求していた値上げ額より高額でした。さらに修繕積立金の大幅な値上げも言っており、住民の理解が得られないためどこの管理会社の引き受け手が見つからず、仕方なく自主管理になってしまいました。現在も自主管理のままになっていて、住民間の対立が起こっています。

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管理会社の指示に従うのが理事の役目だと思っていた

分譲マンションに初めて住む住民たちは、マンションの管理運営についてほとんど何も知りませんでした。K氏は2年目に理事になるのですが、理事会は管理会社のフロントが手際良く進めていたそうです。管理会社から言われて初めて気がつくことばかりで、理事の役目は管理会社の指示を忠実に実行することだと思っていたそうです。これはK氏だけではなく他の理事も同様で、何か問題が起こった際には「管理会社が言っているのだからやらなくては」という声が多くの理事から出ていたそうです。

そのためポンプが故障すると管理会社に連絡して、見積書を出されるがままに発注したそうです。ハンコが必要だと言われれば中身がよくわからなくても押印し、備品の交換が必要と言われれば、その備品が古くなって使えなくなっているのかも確認せずにお金を払っていたそうです。管理会社に言われたら、その通りに実行しなくてはならないと信じこんでいたので、こうしたことに全く疑問を持たなかったそうです。管理会社の指示に従うのではなく、理事が管理会社に指示を出すのが本来の姿です。しかし管理会社に依存しすぎた結果、取り返しがつかない状態に追い込まれています。

事実確認と考察

かなり多くの要素を含んでいるので、事実確認をして列記してみました。

①修繕積立金の値上げを行ったことがない。金額は95円/㎡・月で、70㎡の部屋で6650円です。
②管理費の値上げは2006年に実施している。金額は142円/㎡・月で、70㎡の部屋で約1万円です。
③大規模修繕は10年に1度のペースで行い、相見積もりは取らずに管理会社が出してきた見積書通りに行っている。
④大規模修繕工事以外の修繕も、相見積もりはとっていない。
⑤修繕積立金が不足していたため、2016年に借入を行っている。
⑥屋上の雨漏りは今も工事中で、いつ改善するかわからない。

管理費と修繕積立金が、物件規模に対してかなり安いと思います。修繕積立金が1㎡あたり100円にも満たない額では、不足して当然だと思います。管理費は管理委託契約の内容にもよりますが、かなり安めだと言えるでしょう。国土交通省の「平成30年度マンション総合調査結果」を見ると管理費の平均額は15,956 円/戸・月になっていて、全国平均よりもかなり安いことがわかります。そのため管理会社が値上げを要求し、他の管理会社がこれ以上の金額を提示してきたというのも納得できます。

③と④と⑤に関しては、管理会社の言いなりになった結果だと言えます。管理会社を信頼し切っているので、大規模修繕のような大きな金額が動く工事でさえ相見積もりをとっていません。徴収する修繕積立金が少なく、管理会社の言い値で修繕代金を払っていた結果、資金が不足して借り入れることになってしまいました。

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管理会社は最初の契約で安い管理費で管理をしなくてはいけなかったので、修繕費で利益を補っていたのでしょう。ずっと言い値で修繕ができたので、それなりの利益を上げてきたのだと思います。しかし管理組合にお金がなくなり、借金をさせて2回目の大規模修繕を行わせています。これも管理会社の言い値で行っているので、それなりの利益を出せたでしょう。しかしこれで管理組合のお金はなくなり、借金だけが残りました。そこで管理費の値上げを要求し、無理なら契約を更新せずに逃げることにしたのだと思います。管理会社に食い潰された典型的な事例と言えるでしょう。

防水工事の不手際

雨漏りが止まらない屋上防水に関しては、写真を見せてもらいました。元々、屋上防水はアスファルト露出防水という一般的な工法で工事されています。1回目の大規模修繕の際に、上からウレタン塗膜防水を施しました。これは液状のウレタンを塗っていく防水で、簡単かつ安価な方法でよく用いられています。そして2017年に行った2度目の大規模修繕工事でも、ウレタン塗膜防水が行われています。

※アスファルト防水

写真を見る限り、元々のアスファルト露出防水が浮いてきており、一部が剥がれたり波を打っている状態でした。このような状態でウレタン塗膜防水を塗布しても防水効果がないのは明らかで、なぜこのような状態で工事を行ったのか不明です。雨漏りが起こるのも納得の状態でした。本来はアスファルト防水を撤去して、断熱材から入れ替えないといけなかったはずです。これは想像ですが、予算が足りなかったのでそこまではせず、防水工事を行ったポーズをとっただけなのでしょう。いずれにせよ剥がれたルーフィングの上からウレタンを塗っているので、この工事は無駄だったと言えます。

住民同士の争いに発展

現在、このマンションは竣工当初から住んでいる人達に加え、中古で購入した人が混在しています。中古購入者は全体の2割に満たない数ですが、この人たちは若い人が多く、最初に管理会社に依存している状態に警鐘を鳴らしたのもこの人達でした。せっかく購入したマンションが、長い間に渡って蝕まれたていた事実を知り憤っています。彼らは長年にわたり管理会社の言いなりになっていた理事会に批判的で、一部の人は足りなくなった修繕積立金を歴代の理事が充当すべきだと言っています。歴代の理事の中には自分たちの行き届かなかった点を反省する人、管理会社に騙されたので訴えるべきだと言う人、自分たちだけに責任を求める人達に反論する人などがいて、対立が始まっているようです。

その一方で、管理費や修繕積立金の値上げには根強い反対派が多く、何度か理事会でも協議したそうですが実現していません。年金生活者の方が少なからずいて、値上げされると払っていけないという声も多いようです。理事長のK氏は、修繕積立金を200円/戸・月の値上げを提案したことがあるそうですが、約2倍の値上げになるため理事会内での賛同も得られなかったそうです。修繕積立金の値上げをしなければ借入金の返済に追われるだけで貯金ができず、今後は何かが壊れても修理費がないということになりかねません。そのため雨漏りが続いている部屋の修繕もままならず、その部屋の住民からの苦情が続いているそうです。

今後どうすれば良いのか

管理会社を信じきり、全てを任せていたのが問題でした。管理会社はマンション管理の委託先に過ぎません。K氏は「管理会社の指示に従うのが理事の役目だと思っていた」と書いていましたが、実際にはその反対で理事会が管理会社に指示を出すべきでした。理事がマンション管理に関して何もわからないのは当然で難しいのはわかりますが、管理会社にお任せで見積書のチェックをしないどころか、修繕工事完了後の検査すらしていなかったのは問題です。これでは本当に修繕が行われたのかすらわからないまま、黙って言い値の費用を払っていたのです。これでは管理組合のお金がなくなるのは時間の問題でした。

今後できることは限られてきます。管理会社を訴えると騒いでいる人もいるようなので、弁護士に相談するのが良いでしょう。訴えることなどできないと言われるでしょうが、弁護士の口から無理だと言われなければ納得しないはずです。早急に行うべきは資金が不足している現状を管理組合全体で共有し、修繕積立金の値上げが必要だということを理解してもらわなければなりません。中には高齢のため、自分達が死ぬまでなんとか住めれば良いと考えている住民もいるようです。しかし自分たちが死んでも残ったマンションは相続され、子供達がボロボロになったマンションを所有しなくてはならなくなります。

今後起こりうる問題を弁護士やマンション管理士などの専門家を招いて、住民に説明することも必要かもしれません。何にせよ管理組合がいがみあいを続け、団結しない状況では何をするにも難しいのです。住民同士で喧嘩している間にマンションの劣化は進み、修繕積立金の不足は膨らみ続けます。すでに時間がない状況で時間を浪費することを止めなければ、状況は悪化するばかりでしょう。

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まとめ

今回は遠い地方都市ということもあり、仕事の依頼というより相談が中心でした。私が話したことの多くはすでにK氏も理解しており、悩んでいる暇などないこともわかっていました。しかし険悪な雰囲気になっている理事会や、管理組合の中に身を置くとなかなか動き出すのが難しいというのもわかります。みんなが最も聞きたくない話をする必要があり、理事長が悪役になってしまう可能性もあるからです。そうした嫌な話をしてもらうために、外部の専門家を雇うのは有効です。最も言いにくい話を第三者として客観的に言ってもらうことで、全員の理解を促すことが可能になります。こうした問題を抱える管理組合は、ぜひご相談ください。

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