事例 夜中の意外な騒音

これは私が デベロッパー のアフターサービスセンターにいた頃の話です。上階からの騒音によるクレームがあり、調査をすることになりました。過去にも同様のクレームがあり、何度も対応したことがあるようです。半年前に一旦落ち着いたものの、再びクレームとなってやってきたのです。今回は日常的に使うものが、意外な騒音を発生させていた事例です。

マンションの概要

東京都内の住宅街にあるマンションで、総戸数は100戸に満たない中規模物件です。竣工から3年目で、まだ新築のようにキレイな状態を保っていました。建設したのは中堅 ゼネコン で、工事を担当した社員によると、大きなトラブルもなく竣工したとのことでした。その後のクレームも少なく、よくできたマンションだと言います。

過去のクレーム対応の履歴を確認

クレームは入居してから1か月後に発生しています。毎晩眠ってからギギギという音がするので睡眠を妨害されるというものでした。訴えたAさんは3人家族で、ご主人と生まれたばかりの男の子がいます。クレーム発生後、すぐに管理会社の担当者が訪問して事情を聞いていました。騒音がご主人の睡眠の邪魔になるだけでなく、寝ついた赤ちゃんが起きてしまうとのことです。そこで上階の人に話を伺っています。上階の人は独身の中年男性で、音を立てるようなことはしていないし、思いあたる節もないとのことでした。

その後、管理会社の社員が泊まり込んだり、騒音測定器を持ち込んで一晩中録音をしています。しかし社員は騒音を聞くことが出来ず、録音もされていませんでした。そのため騒音問題は、音に神経質すぎる夫婦のクレームという印象が強くなったのでしょう。集合住宅では、互いの生活音が気になることがあるという話をAさんにしたようです。

それから1年も経たないで、クレームが入ります。管理会社では話にならないと思ったのでしょう。デベロッパーのアフターサービスセンターに直接クレームが入っています。この時もアフターサービス担当者が泊まり込んでいますが、音を聞くことができませんでした。騒音測定器も設置しましたが、騒音は録音されていません。Aさんは必死に音がすることを訴えたそうですが、Aさん夫婦以外に騒音を聞いた人がいないのです。念のためにAさん宅の両隣に確認しましたが、騒音は知らないと言います。さらに上階の方を訪問しますが、騒音を発するものは見当たりませんでした。

※騒音測定器 出典:リオン(株)webサイト

Aさんが嘘をついているとは誰も思っていませんが、騒音は気にするあまり過敏になってしまい、わずかな音でも過剰に反応することがあります。音が聞こえるのではなく、自ら聴きに行っているのです。Aさんが神経質になりすぎている可能性が感じられました。

Aさんにお会いする

私が会いに行くと、AさんはICレコーダーを取り出して再生しました。そこにはハッキリとギギギとズズズの中間のような音が録音されていて、かなり大きな音でした。何かが擦れるような、引っかかったものを無理に引っ張っているような音です。2度の騒音測定器の検査で何も録音されなかったことで、AさんはICレコーダーを購入して毎晩録音していたそうです。騒音は一晩に2回は鳴っており、多い時は4回鳴っていました。

Aさんが神経質すぎるわけでもなく、幻聴を聞いたわけでもなく、確かに騒音があることが判明しました。管理会社の担当者は再度泊まり込みを決めますが、またしても泊まり込んだ時には音がしませんでした。Aさんは上の階の人がこちらの様子を見ていて、管理会社の人が来ると音を鳴らさないようにしているのでは?と怖がっていました。そこで私は、音がしたら日付と時間をメモするようにAさんにお願いしました。

調査記録を再点検する

騒音の種類によっては季節性のものがあります。木材の乾燥や膨張によって起こるものは湿度に影響されるので、夏場に多かったり冬に多かったりします。しかしこの件では、あらゆる時期に発生していて、季節は関係なさそうです。しかし時間帯は関係ありそうです。Aさんの証言によると、夜の10時から11時が多いらしく、まれに9時ぐらいにも発生するそうです。騒音は夜間に起こっています。さらに12時過ぎに聞いたことはないそうで、上の階の人が寝たら騒音も出ないという考え方ができます。

そして管理会社やアフターサービスセンターの社員が泊まり込んだ日、騒音測定器を設置した日を確認すると、全て土日でした。管理会社に確認すると、ご主人は朝が早く、毎晩9時前には寝るので平日の調査は避けてほしいとAさんから依頼されていたそうです。そこでAさんに電話して、騒音は平日だけ発生していないかを尋ねました。言われてみれば、そういう気がするとのことでした。

竣工図を確認する

自動ドアやエレベーターの作動音が部屋の中に響くことがあります。どんなに距離が離れていてもコンクリートを伝わる固体伝播音は届くので、全てをリストアップしてみました。しかし自動ドアやエレベーターの作動音が原因なら、ほぼ1日中鳴るはずです。そこで自動メンテナンス機能など、夜間に動作することはないか各メーカーに問い合わせましたが、全くありませんでした。これで機械音が原因というのは、ほとんど考えられなくなりました。

洗面所に音源がある?

Aさんから電話がかかってきて、昨夜再び騒音がしたそうです。8時30分ちょうどにギギギという音が鳴り、しかもこの日は6回も鳴ったといいます。そして音は洗面所で最も大きく聞こえたそうです。上の階の間取りも同じなので、上の人が洗面所で何かやっているのではないかと言います。Aさんは私のお願い通りにメモをとっていて、その週は土日以外の平日は毎日鳴っていたそうです。上階の人の平日の行動に関連があることが濃厚になってきました。

生活音の調査

上階の人の生活音が原因と思われましたが、以前に上階の住人を訪問した社員の話だと、独身男性の一人暮らしで家具は極端に少ないとのことでした。ドアの開閉音などはすでに調査済みで、上階の間取り図を見てもギギギとかズズズという音が出る原因がわかりません。自宅に帰ってからの生活行動を予想して考えましたが、そのような音が出るようなものは思いつきませんでした。

しかし悩んでいても何も進まないので、上階の方に連絡をして訪問することにしました。とても協力的な方と聞いていたのですが、電話では「今回で最後にしてください」と言われました。2年以上も騒音の犯人扱いを受け、何度も訪問を受けて協力してきたけど、そろそろ終わりにして欲しいとのことで、この気持ちも理解できました。下の階の人が神経質すぎるのが原因ではないかと言い、いつまでもこの問題を引きずる管理会社に不信感を持っていました。

上階の方を訪問し、取り調べのようにならないよう世間話の雰囲気で普段の生活を尋ねました。毎日8時から9時に帰宅し、テレビを見るかお風呂に入るかするそうです。寝るのは毎晩12時前後で、朝は7時から会社に出かけています。土日はほとんど家におらず、実家に帰っているそうです。父親の痴呆症が始まっていて、このマンションを購入したのも実家に近いからでした。平日は8時から9時に帰宅し、土日は不在なので、やはりこの方の生活と騒音は関係がありそうです。

洗面所を調べますが、珍しいものは全くありません。歯磨きは寝る前と朝起きてからするそうで、洗濯は土曜日の朝に1週間分をまとめて行うことがほとんどだそうです。洗面所で体操などをするかと尋ねると、怪訝な顔をされました。そんなことはしていないそうです。不審な顔をしているので「最近は健康を気にする人が多いですから。洗面所で体操をする人も多いんですよ」と私が言うと「風呂上がりに体重は毎日測りますよ」と言います。そこで洗面台の下にある体重計を出してみました。両手で体重計を掴み、前に引き出します。

ギギギギ、ギュッ

AさんのICレコーダーに録音されていたのと、全く同じ音でした。体重計の底についているゴムの足と、洗面所の床のクッションフロアがこすれる音です。「普段、体重計はどうやって出しますか?」と尋ねると、かがむのが面倒なので足で引っ張り出すと言いました。やってみるとさらに激しくギギギと鳴ります。Aさんから借りてきたICレコーダーで、下の階の騒音を聞いてもらいました。「同じ音ですね」と、驚いた顔で頷いていました。

騒動の解決

「これがそんなに下に響くとは思ってもいませんでした」と驚いていましたが、私も驚きました。異なる材質が組み合わさってできるマンションでは、まれに共振して小さな音が大きく伝わることがあります。これがまさにそれでした。この方は「体重計はしまわずに出しっぱなしにしときます」と苦笑いしながら言っていましたが、これで解決です。動かすときは引きずらずに持ち上げてもらえば、騒音がすることもありません。Aさんに体重計が原因だったと伝えると、最初は何のことかわからずに困っていました。

この件の教訓

騒音は人によって感じ方が全く異なりますし、原因も様々なので原因究明に時間がかかります。騒音で困っている人は、騒音がしたら日付、時間、どこから聞こえたかなどをなるべく詳細に記録しておくことをお勧めします。そして実際にスマホなどで騒音を録音しておくと、調査に役立ちます。騒音問題は住人間の人間関係を悪くすることがあるので、可能な限り客観的な情報があった方が良いのです。

正直言って、この件は解決できたのは幸運で、未解決のままになっても不思議ではありませんでした。これまでのどの騒音トラブルとも原因が異なるので、体重計など想像すらしていませんでした。また多くの人がAさんが神経質になりすぎているだけだと思っていて、些細な音を大げさに言っていると感じていました。先入観は調査をするうえで、最も危険だと再認識させられました。

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お気軽にご相談下さい

私はデベロッパーのアフターサービスセンターで、このような事例を数多く体験してきました。そういった知識がお役に立つと思いますので困っている事例があれば、以下のメールフォームからご一報ください。

事例 夜中の意外な騒音” に対して2件のコメントがあります。

  1. 武蔵村山由紀子 より:

    知恵袋から来ました。こんな事があるのですね。私は武蔵村山のマンションで毎晩子どもがダダダダと走り回る音でノイローゼになりそうでした。直上階の方ではなく、確か上には2階か3階あったので突き止めるのは無理と諦め、5年ガマンしました。騒音は本当にイヤです。ここまで調べてくれるとは頭が下がりました。

    1. hanemone より:

      コメント、ありがとうございます。

      この件の解決は、本当にラッキーだったと思います。体重計が原因だとは誰も思っていなかったですし、気がついたのも偶然に近い出来事でした。

      騒音を5年間も我慢したというのは、本当に大変でしたね。騒音で苦しんでいる方を多く見てきたので、心中お察しします。

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