交渉相手は誰か? /瑕疵担保責任を考える
マンションでは隠れた 瑕疵 が見つかることがあります。マンション理事会で大きな問題になり、多くの場合は管理会社や売主の不動産業者がやってきて説明や弁解を繰り返します。この時に理事会は誰と交渉するべきでしょうか。結論から言うと売主と交渉するべきなのですが、 ゼネコン やメーカーと交渉してしまう例が多く見られます。それでは話がなかなか進みません。
杭の長さが足りなかったマンション
2015年に神奈川県でマンションの杭の長さが足りず、マンションが傾いているという事件がありました。三井不動産と明豊エンタープライズが事業主で、三井住友建設が施工した「パークシティLaLa横浜」というマンションです。入居後に複数の住民から手摺りがずれていると報告があり、三井不動産レジデンシャルと三井住友建設が調査をしたところ、4棟のうち1棟が傾いていることがわかりました。当初は東日本大震災の影響と思われていましたが、建物を支えるのに必要な支持層に届いていない杭が、複数みつかったことで大問題になりました。
連日メディアで報道されていたので、覚えている方も多いでしょう。この問題は杭の施工会社の工事管理が甘かったため発生し、その施工会社は社会的にも大きな批判を受けることになりました。杭を施工した会社やゼネコンが説明会を開いていましたが、そこで住人の怒りが爆発して説明会が紛糾したようです。その様子が何度もテレビに映し出されていました。しかし施工会社に何を言ったところで、彼らにとって住民は契約相手でもお客様でもないのです。そのため施工会社にどれほど文句を言ったところで、話は進んでいかないのです。
契約形態を確認する
マンションに関わる契約形態を図示すると、以下のようになります。
マンション購入者は、売主である不動産会社と売買契約を結んで購入しています。そして不動産会社は設計事務所と設計監理契約を結び、ゼネコンとは工事の請負契約を結んでいます。そのため設計事務所やゼネコンにとってのお客は、不動産会社になります。住民とゼネコン、住人と設計事務所には何の契約関係もないので、彼らにとってお客ではありません。契約関係がないのに、何の責任を追及するのでしょうか?
マンションの住民は構造に問題がある物件を売却されたことに関して、契約関係がある不動産会社と交渉するべきなのです。そして不動産会社は設計図と異なる建物を引き渡されたことに関して、ゼネコンと交渉することになります。もちろん住民説明会では、専門的な説明が必要になるためゼネコンを呼ぶことがあります。しかしゼネコンをいくら追及したところで、契約関係のない彼らが直接住民に瑕疵担保責任を保証することはありません。
不動産会社は適正な物件を販売する義務があるのに、この事件では販売資料と異なる強度の物件を引渡し、法的にも満たさない物件であることがわかりました。住民は不動産会社の売主責任を問うべきだったのですが、どうしても感情が優先してゼネコンや杭の施工会社の責任追及を行っていたようです。
ゼネコン頼みになりがちな住民説明会
これほど大きな事件でなくても、隠れた瑕疵が見つかった場合の住民説明会は、ゼネコンが中心になって説明することが多いようです。私が聞いた他のマンションのケースでは、売主が顔を出さずにゼネコンの社員だけが出席して説明をしたものもありました。専門的な話は不動産会社には難しく、ゼネコン頼みになるのはわかります。しかしこれでは誰が何の責任を果たすのかわからなくなってしまいます。
売主が顔を出さない住民説明会は、すぐに中止しましょう。責任者が不在で話し合っても意味がないからです。もう一度、契約関係の上図を見てください。なんの契約関係もない人から説明を受けるのでは意味がありません。売主が出席している場合でも、批判や文句が説明しているゼネコンに集中することがよくありますが、それらは売主に向かうべきです。誰と交渉するべきかを忘れずに、話し合いに臨むことが大事です。
品確法の保証期間
品確法とは「住宅の品質確保の促進に関わる法律」という法律の略称ですが、この法律には雨漏れと構造上主要な部分に関する瑕疵は10年と定められています。売買契約書にこれらの保証が5年と書いてあっても無効になります。あくまで品確法の保証期間は10年ですので、こちらが優先されるのです。そして品確法は契約関係にある相手の責任を定めています。つまりマンション住民なら売主の不動産会社の責任です。
築10年未満で構造部分や雨漏れなどで問題が起こった場合は、売主が責任をとらなくてはならないので、交渉は売主だけに絞って行いましょう。ゼネコンやメーカーや業者の責任は、売主が問うべきなのです。
築10年以降のマンションはどうする?
上記の事例のような、杭の長さが足りないことが築11年目に発覚したらどうなるでしょう。品確法で定めた10年の保証期間が過ぎているので、売主は保証期間を理由に補償を断る可能性があります。もちろんそんなことをすれば会社の信用に関わるので、大手なら話し合いのテーブルにすら着かないなんてことはないと思いますが、小さな不動産会社なら補償をする体力がないので断る可能性もあります。
以前は、こうなると泣き寝入りするしかありませんでした。しかし2011年に最高裁が出した判決が、この状況を変えました。建設業界にとっては衝撃的な判決ですが、あまり詳しくは知られていません。別府マンション事件と呼ばれるこの最高裁判決については、長くなるので別のページで解説したいと思います。