工事業者の紹介料という建設業界の悪習 /修繕依頼の時に気をつけておきたい
マンションに住んでいると、古くなってあちこちにガタが出てくるようになります。そのため専有部、共用部を問わずさまざまな修理が必要になり、工事業者を呼んで工事をしてもらうことになります。また大規模修繕工事など定期的に大がかりな修繕工事も必要になるため、工事業者のお世話になることは多いでしょう。そして工事業者を呼ぶ際に、知らず知らずのうちに紹介料を払っていることがあります。今回はこの工事業者の紹介料という建設業界の悪習について書いてみたいと思います。
多層構造の建設業界
建設業界は多層構造が常態化しており、時々問題視されています。2015年に支持層に杭が届いておらず、傾いていると話題になったマンション「パークシティLaLa横浜」では、杭打ち工事を行った旭化成建材に批判が集まりました。しかし実際に杭工事を行ったのは旭化成建材の下請け業者で、さらに旭化成建材も下請けでした。
このように元請けから1次下請け、2次下請けと下請け業者が連なっている多層構造になっているケースは多く、もはや建設業界の常識とも言えます。なぜこのような多層構造になったのかはさまざまな経緯と多種多様な理由がありますが、共通して言えるのは建設業界側の理由であり顧客のために生まれた形態ではないということです。そして今日では、この多層構造が多くの問題を孕んでいると言われています。今回お話しする紹介料も、この多層構造によって誕生しました。
紹介料とはなにか
このような多層構造の中で、業者に対する紹介料が発生することがあります。例えばマンション管理組合が塗装工事を依頼すると、工事の請負形態は以下のようになっている場合があります。
管理会社を通じて工事を依頼すると、管理会社がさらに上にいることになります。3次下請け、4次下請けと何層にも下請けが続くのです。そして管理会社は業者に工事を依頼する際に、業者から紹介料をもらうのです。紹介料に決まった額はなく、5%〜20%ぐらいでさまざまです。仮に紹介料が20%で管理組合が100万円払ったとしましょう。その業者(工務店)が塗装業者に工事を依頼する際にも紹介料を要求します。それぞれ間に入る会社がそれぞれ紹介料を取ってしまうと、実際の施工業者に渡る金額は大幅に減ってしまいます。管理組合が100万円を支払ったのに、塗装会社には80万円、60万円しか支払われないこともあり得るのです。
もちろん全ての管理会社が紹介料をとるわけではありません。しかしこのように紹介料をとり、2次・3次の下請け構造になっているケースがあるのも事実なのです。中抜きとも言われるこのやり方では発注者の発注額ばかりが高騰し、実際に工事をする施工業者はわずかなお金で工事をしなくてはならなくなります。
紹介料と混同される管理費
このように管理組合が払った費用の中から紹介料が引かれることで、実際の工事業者に渡るお金が少なくなってしまいます。しかし全ての紹介料が悪いというわけではありません。上記の例で言うと、塗装業者はペンキを塗る職人だけで構成されている会社の場合があります。職人の彼らは管理組合と打合せを行う人材がおらず、それらの仕事を工務店が引き受けるのです。
工務店は社員をマンションに派遣して現地調査を行い、管理組合と打合せを行って工事の日程や工程を決め、住民への工事に周知や注意事項の告知などを行います。これらの作業を行う工務店が、一定の費用を受け取るのは当然のことです。このように打合せや現場管理を行うのであれば、それは紹介料ではなく管理費用と呼ばれるもので正当な対価になります。
しかしこれらの打合せや現場管理をを全て業者に任せ、何もしない工務店もいます。何もしないのに紹介料として工事代金の1割や2割をもらうのは、あまりに高額だと思いますが、これがまかり通るのが建築業界です。管理会社の中にも紹介料を取るところがありますが、管理会社は工事のことがほとんどわからないので業者に丸投げすることがほとんどです。そしてこのような紹介料が発生していることは管理組合に知らされません。
工事の品質低下を招く
請負の多層構造により管理組合が発注した額より、大幅に少ない額で業者は施工しなくてはならなくなるため、できることが限られていきます。本来は2日かけて終わらせたい工事を1日で終わらせたり、検査を省いたりしなくてはならなくなり、工事の品質低下を招きます。そしてお金を払った管理組合は、払った分の仕事をしてくれていないという不信感を生むこともあります。
ずいぶん前のことですが、私の実家のマンションで植栽の剪定を行いました。管理会社が剪定業者を手配してくれて、剪定する日は理事長を務めている父に挨拶がありました。ところが夕方に見に行くと、1日で終わるはずの剪定は2/3しか終わっておらず、職人は帰っていました。慌ててもらった名刺で業者に電話すると、1日仕事で依頼されているので作業は終わりだと言います。まだ1/3残っていると言うと、あくまで1日仕事の依頼だから、残りを剪定するには別途見積もりが必要だと言われました。
管理会社に依頼したのは敷地内の全ての植栽の剪定ですが、業者には1日でやれるところまでやるように話がすり替わっているのです。業者は2日分の費用はもらっていないと言いますが、管理会社から管理組合に提出された見積書は1日分とは思えない金額が記載されています。父は管理会社に対して剪定を完全に終わらせるか、終わらせないなら支払いを拒否すると通告して一悶着起こりました。この件では、管理会社から剪定業者に支払われている額が少なく、剪定業者は2日間も作業をすると赤字になるので、1日作業で終わらせることになっていたのでした。それは仕事を依頼した管理組合には何の関係もないことです。
この件では管理会社が建設業者に依頼し、その業者が剪定業者を手配したようでした。つまり管理会社→建設業者→剪定業者という流れで発注されていたのですが、この建設業者は現地に顔を出すこともなければ打ち合わせすらしていません。そのためマンション管理組合の意向が全く伝わっておらず、不要なトラブルを引き起こしました。
まとめ
紹介料という名の中抜きがあり、何もしていない人が業者を紹介するだけで高額の報酬を得ることが横行しています。これは工事の品質低下を招き、工事を依頼する人に不満を残します。最近は何もしない代わりに紹介料は不要という会社も増えましたが、まだまだこの習慣は残っています。こういう旧態依然のやり方が、建設業界の胡散臭い印象に繋がっていると感じています。