役所の縄張りに振り回されるマンション/ 警察・消防・国土交通省などの言い分
マンションを建設するためには確認申請を行い、行政から建設の許可をもらわなくてはなりません。またクレーン車を道路に設置しなくてはならない場面もあり、その際は警察に道路使用許可や道路専用許可をもらわなくてはなりません。こうしてマンション建設には役所との関わりが出てくるのですが、役所に振り回されることもあります。今回は役所の言い分によってマンション・デベロッパーが振り回された話を書いてみたいと思います。
消防は防火と消化活動を優先する
マンションを建設すると、必ず消防検査を受けなくてはなりません。この消防検査は所轄により厳しさが違いますが、かなり厳格な検査が行われると思ってください。消防庁は1982年に発生したホテルニュージャパンの火災以来、消防検査に厳しい態度で挑んでいます。検査に合格しないとマンションの使用が認められないこともあるので、設計や施工する側もかなり神経を使うことになります。
関連記事
・ホテルニュージャパン火災の教訓 /なぜ消防訓練が大事なのか
消防は設計段階から使用されている材料や防火区画をチェックしますが、同時の住民の避難経路と消化活動が可能かをチェックしています。消防車の駐車スペースがあるか、消防隊員が建物内に侵入することが可能か、そして侵入できたら消化活動ができるかです。ビルなどで窓ガラスに赤い三角形のシールが貼ってあることがありますが、それは消防隊の非常進入口を意味します。火災があった際に、その窓を破って消防隊がそこから入るので、その窓の周りに物を置いたりすることはできません。消防は火災があった際に、どこからどうやって進入できるかを事前に検討しているのです。
警察は防犯を優先する
マンションで警察が最も懸念するのは防犯対策です。泥棒が侵入しやすい場所はないか、物陰に隠れて活動できるような死角はないかなどを気にしています。警察がマンションを検査することはないですが、マンションに死角になるような場所を作らないように呼びかけています。
また警察庁は国土交通省、経済産業省と建物部品関連団体と一緒に「防犯性能の高い建物部品の開発・普及に関する官民合同会議」を立ち上げ、CP認定という制度を作りました。これは鍵やサッシなどの建築部品の防犯性をテストし、合格したものを「防犯性能の高い建物部品」(CP部品)として公開したものです。合格した製品は「防犯性能の高い建物部品目録」として、ネットに公開されています。
ぶつかる役所の考え
①消防と警察
先に挙げたように、消防は防火と消化活動に注視します。そして警察は防犯を中心に考えます。そのため消防は火災が発生した際に外部から容易に消防隊が進入できることを重視し、警察は外部からの侵入がしにくい建物を望みます。そのため時にこの考え方は真っ向から対立することがあります。警察庁で建物の防犯性を検討する会議に呼ばれて出席したことがあるのですが、警察庁が考える侵入のしにくさは消防の考えとぶつかることがあり、「消防庁とすり合わせして頂けませんか?」と言うと、「消防庁には消防庁の考え方がありますから」と言われてしまいました。
②警察と環境省
都市部のヒートアイランド対策として、環境省は建物の屋上緑化や壁面緑化を進めています。マンションの屋上や壁に植物を栽培することで、都市部の温度を下げようとしているわけです。都内の新築マンションでは屋上緑化が進み、今度はマンション敷地内の緑を増やすように基準を設けてはどうかとなっていたようです。環境省で話し合いがあったのですが、警察は不審者が隠れやすいため敷地内の見通しをよくすることを求めていると言うと、「警察には警察の考え方がある」と言われてしまいました。警察の話は脇に置いて緑化の話を進めようと言われても、どうすれば良いかわかりませんでした。
③国土交通省と東京都
2001年、国土交通省は建築物の環境性能評価システムとしてCASBEE(キャスビー、建築環境総合性能評価システム)を主導して作成しました。このCASBEEはかなり手間がかかるうえに、性能評価書も専門性が高くてわかりにくいものでした。マンションデベロッパーとしては、商品価値を高めることができるなら積極的に採用したいと考えたのですが、わかりにくいためにどうしたものかと頭を抱えることになりました。そして2005年に東京都は独自基準で「東京都マンション環境性能表示基準」を定めました。
独自基準の設置は石原慎太郎都知事が意地になっているんじゃないか?なんて声も囁かれましたが、建物の環境性能を評価するシステムとして国と東京都の両方から出されたため、デベロッパーはさらに対応について悩むことになりました。
④国土交通省と国土交通省
換気について建築基準法の改正を行うことが国土交通省より言われたのは、2002年頃だったと思います。改正前にいくつかの情報が小出しになっていたのですが、2000年に施行した住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)で空気環境の評価に合わせて法改正をするのだと思われていました。ところが法案が徐々に明らかになってくると、品確法とは異なる基準になっていました。
建築基準法を守ると品確法の住宅性能評価書の等級が下がってしまうという矛盾に、多くのデベロッパーが異議を唱えました。その際に国交省の担当者が「品確法は住宅生産課が担当しておりますので、私どもに言われましても・・・」と言ったため、その場にいた各デベロッパーから「住宅生産課はあなた方の隣のシマにいるんだから、よく話してよ」という声が相次ぎました。最終的に品確法と建築基準法は同じ内容になったのですが、各デベロッパーからは「とんだ役所仕事だ」と不満が漏れていました。法案が出される前なので、こういったこともあるとは思います。
役所に振り回されるデベロッパー
マンション建設には役所の検査や許可が必要ですし、近年はマンションを評価する制度も導入されているので、役所の意向は気になります。そして新たな基準や法改正が起こるたびに、デベロッパーは反応してしまいます。特にある程度の規模があるデベロッパーは、役所や国の意向を無視できません。そして役所同士で全く見解を出すことも珍しくないので、デベロッパーはその間でオロオロしてしまうことがあります。このようなことはなるべく無くして欲しいところですが、役所ごとに目指しているものが違うので仕方がないのかもしれません。
まとめ
今回は役所に振り回されるデベロッパーの実態を書いてみました。マンション建設の裏側に、このような話があることはあまり知られていないと思います。単に売れれば良いと考えているように思われている節もありますが、マンションの建設と販売にはこのような悩みがあるということで書いてみました。行政にはもう少し足並みを揃えて欲しいと思うのですが、こればかりは今後も続くのだろうと思います。