Dr.TaCのマンション診察室 /剥脱性皮膚炎
この診察室では、マンションで起こっている問題を診察しています。今回の患者さんはタイルが落下していて、施工会社の対応に不安を感じているようです。さっそく診察してみましょう。
症状
マンションの外壁に貼ってあるタイルの一部が、剥がれて落下しました。剥がれたのは十数枚ですが、今後も剥がれ落ちそうで不安です。管理会社と施工会社が検査を行ったのですが、経年劣化だと言われました。本当に経年劣化なのか、多くの住民が疑問を持っています。
問診票
年齢:築12年
性別:分譲マンション
身長・体重:14階建 133戸
本日はどうされましたか?:外壁のタイルが剥がれ落ちました。
症状はいつ頃からですか?:6ヶ月ほど前からです。
過去に手術の経験はありますか?:なし。来年に大規模修繕をする予定です。
過去に同じような症状が出たことはありますか:なし
治療中の他の病気はありますか:特になし。
診察
突然、バサって音がしてタイルが10枚ちょっと剥がれ落ちました。3階の壁なんですが、ちょうど駐車場に行く通路のところだったんで、時間帯が悪ければ怪我した人がいたかもしれません。
それで、どうされたんですか?
すぐに管理会社に連絡したら、ネットを貼って剥がれても落ちないようにしてくれました。その後、建設会社の人が来て検査をしました。ですが経年劣化ということで、大規模修繕の時に修繕すると言っていました。
来年が大規模修繕なんですね。だから大規模修繕の時に、一緒にやってしまおうということなんですね。
そうみたいです。ですが、タイルが剥がれるのってあちこちで起こってますよね。施工不良も多いみたいなので、住民の多くの人が不安に思っています。
確かに施工不良が原因のタイルの落下は多いですね。
タイル落下の事例と原因
最初にタイルが大きな問題になったのはバブル絶頂期の1989年、北九州小倉北区の公団で起こったタイルの剥落でした。最上階付近の壁のタイルが、8.5m×5mの大きさで剥がれ落ちて3名が死傷する大事故になりました。タイル貼り仕上げが危険ではないかと、建築業界だけでなく社会問題として取り扱われる大きな事件になりました。
その後の調査により経年によるひび割れ、降雨と乾燥が繰り返されたことによる強度の低下(モイスチュア・ムーブメント)、自動車などの振動、太陽光による吸熱変形が原因とされました。建設省(当時)は通達を出して、建物の所有者にタイルを調査するように指導を行っています。しかしその後もタイルの落下は繰り返し起こっています。
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・マンション外装タイルの歴史と剥落事故
タイルが落下する原因はいくつもあり、簡単に特定することはできません。経年劣化も原因の一つですし、施工不良による場合も多くあります。タイルの落下原因を知るには、入念な調査が必要になります。以下の記事にタイルが剥落する原因をまとめています。
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・なぜマンションの外壁タイルは剥がれるのか
診察の続き
剥がれたタイルを持ってきているんですよね。見せて頂けますか?
はい、これになります。
タイルの裏側にモルタルがたっぷりついていますね。そしてモルタルが柔らかいです。ほら、マイナスドライバーで擦るだけで、モルタルがどんどん削れていきますよ。
ほんとだ!
これはドライアウトといって、モルタルの強度が出ないまま固まっているんです。
ドライアウトとは
ドライアウトは、コンクリートにモルタルを塗った時に起こります。モルタルは水を混ぜて練った状態なので多量の水分を含んでいます。しかしコンクリートは乾いているので、水分をあまり含んでいません。水分を含んでいないコンクリートに、水分を大量に含んだモルタルを塗りつけると、水分は一気にコンクリートに浸透していきます。つまりモルタルの水分が短時間で奪われてしまうのです。
モルタルはセメントなどと水が水和反応と呼ばれる化学反応を起こして、新しい化合物を作ることによって硬化していきます。しかし必要な水分をコンクリートに奪われたモルタルは、十分な硬化ができないまま乾燥してしまいます。これがドライアウトと呼ばれる現象で、モルタルは必要な強度を出せないままになってしまうのです。ですからドライアウトを起こしたモルタルをマイナスドライバーで擦ると、簡単に削れてしまいます。
ドライアウトを起こさないために、モルタルを塗る前にコンクリートに水をかけて十分に水を含ませることが重要です。特に夏場は直射日光によってコンクリートが乾き切っているうえに、温度が高いのでモルタルの水分が空気中にも逃げてしまいがちです。コンクリートに水をかけずにモルタルを塗ると、ドライアウトを起こしやすくなります。
診察の続き02
ドライアウトが起こっているということは、施工の仕方が悪いんですね。
その可能性があります。他にも原因があるかもしれませんが、この剥がれたタイルはモルタルがドライアウトを起こして強度が出ていなかったようです。
これからどうしたら良いのでしょうか。
タイルの打診検査を行いましょう。タイル全体の何%が浮いているかを調査するんです。
でもそれをするには、マンションに足場を架けたりするんですよね。かなりお金がかかりますよね。
廊下や階段など、足場を架けずに打診検査を行える場所で行いましょう。その範囲で何%のタイルが浮いているかを確認します。大量に浮いていることがわかれば施工不良の可能性がさらに高まるので、施工会社と打ち合わせを行いましょう。
このマンションの不動産会社にも連絡した方が良いのでしょうか?
築10年を過ぎているので、瑕疵 担保期間は過ぎています。ですから売主の不動産会社に何らかの補償を求めることは難しい状況です。しかし売主によっては10年を過ぎていても、ある程度の対応をしてくれるところはあります。一応は連絡してみましょう。
まとめ
タイルの剥落は、落下したタイルが通行人に当たるなどして大惨事に発展することがあります。そのためタイルの落下が起こると、すぐに対応しなくてはなりません。落下して誰かが怪我をすると、その責任は管理者つまりマンション管理組合が負うことになります。さらにタイルの浮きや落下は補修に莫大な費用がかかることが多いので、施工会社や売主は経年劣化と主張することが多くあります。特に築10年を過ぎて施工者の不法行為を訴えるには、管理組合が不法行為を立証しなくてはなりません。専門家でなければ立証するのは難しいので、早めに専門家に連絡をしてください。不安な方は以下のメールフォームからご連絡をいただければ、可能な限りのアドバイスをさせていただきます。