いま建設業界で起こっていること /不釣合いな建設工事

オリンピックを間近に控え、建設ラッシュが起こっています。この建設ラッシュにより、建設費は高止まりしていますし、何より職人の数が不足しています。どこの現場でも職人が足りないという声があがり、職人の奪い合いが起こっています。そしてそれだけでなく大手 ゼネコン では、現場監督の数も不足しています。人材派遣会社に登録されている現場監督も、今では不足しているのです。

大手は公共事業が忙しい

建設業界ではゼネコンの中でも大手5社をスーパーゼネコンと呼んで区別しています。大林組大成建設清水建設鹿島建設竹中工務店の5社がスーパーゼネコンです。これらのスーパーゼネコンは元から公共事業の比率が大きい会社が多く、民主党政権下では公共事業削減の煽りを受けていました。しかし安倍政権誕生による公共事業の増加によって、一気に忙しくなっています。

オリンピック需要もありますが、例えば鹿島建設はオリンピック関連の事業をほとんど手がけておらず、それでも人員が不足するほどの状態です。民主党政権時代に止まっていた公共事業が一気に動き出したためで、職人だけでなく現場監督も不足していると嘆いていました。オリンピックは目立った公共事業ですが、自民党政権になってからそれ以外の公共事業も一気に増えたのです。

準大手と中堅ゼネコンも忙しい

スーパーゼネコンの手が回らなくなると、従来はスーパーゼネコンが請け負っていた大規模工事を準大手ゼネコンが請け負うようになります。準大手とは五洋建設、フジタ、戸田建設、熊谷組などのゼネコンです。さらに安藤ハザマや東急建設などの中堅ゼネコンにも、それらの仕事が回って来るようになりました。このように大手が請け負っていた仕事を準大手が請け負い、準大手が請け負っていた仕事を中堅が請け負うようになったのです。

これらの準大手や中堅といっても実績があり、高い施工技術を持った会社ばかりです。いつもより大きな仕事を請けることになって何かと大変だとは思いますが、相応の仕事をやっているはずです。しかし抱えている業者の数に対して現場の規模が大きくなるので、職人の不足が起こります。いま職人をかき集めているのは、この準大手や中堅ゼネコンのようです。

それまで20,000円/日ぐらいの常用で請けていた職人が、倍以上の単価で仕事を請けています。私の知っている溶接工は半自動溶接機を持ち込めるなら、65,000円/日で働いてくれと言われたそうです。驚くべき単価ですが、それほどの金額を払ってでも人を集めたいというのが現実のようです。また別のオリンピック会場になる工事現場では、ダクト工を何人でもいいから欲しいと言われました。金額を聞くと幾らでも払うと言うので「常用で8万円/日でもいいんですか?」と冗談で尋ねると、「来てもらえるなら検討します」と真顔で言われてビックリしました。ここは訳ありの現場ですが、それでもここまで極端な金額が飛び交うほど、人手不足が深刻化しているようです。

小規模民間建築は誰がやっているのか?

都内ではオリンピック需要に向けて、ホテルの建設ラッシュが起こっています。マンションも相変わらず建設が続いていますし、公共事業ではなく民間の建築も続いています。従来は中堅ゼネコンが中心になって請け負っていた工事ですが、上記のように中堅ゼネコンは大規模な建設工事を請け負っていて大忙しです。ではどこがこれらの工事を請け負っているのでしょう?

都内を歩いて工事中の現場を見ると、あまり聞いたことがないゼネコンが工事をしていることがわかります。ゼネコンを調べると本社が地方にある会社や、施工実績を確認するとメンテナンスやリフォームを中心にしていた会社だったりします。つまり本来は中堅ゼネコンが請け負っていたこれらの工事を、あまり経験がない会社が請け負っているのです。そのためあちこちで問題が起こっています。

工事内容ではなく管理が変わる

物件の規模が変わっても、基本的に工事は変わりません。鉄筋コンクリートや鉄骨の建物なら、2階建てでも30階建てでも工事内容は似ていて、基礎や杭が変わる程度です。しかし大規模物件になればなるほど大勢の職人が必要になりますし、そのための段取りも難しくなってきます。普段は一つの現場に10人ぐらいの職人がいる工事を管理するのと、100人の職人がいる現場の管理では管理の仕方が違ってくるのです。

小規模物件では、一目で工事の進捗状況がわかります。職人も少ないので問題があれば、すぐに相談に来ます。しかし大規模物件では小まめに歩いてチェックしないと進捗がわかりませんし、問題があるとわかっていて勝手に工事を進める人も混じってきます。大勢が一斉に工事を進めると、朝と夕方では建物の様子が一変することもあり、朝には予想していなかった問題が夕方に持ち上がることもあります。

大規模物件と小規模物件では工事の内容は似たようなものでも、管理の仕方を変えないと対応ができなくなるのです。ここに経験やノウハウの差が出てきます。しかしこれまでメンテナンスやリフォームしかやっていない会社では、こういう経験がありません。町内会のカラオケ大会を企画していたイベント会社が日本武道館のコンサートを運営するように、やることは似ていても規模が違うので混乱が生じてしまうのです。

混乱する建設現場

経験が少ないゼネコンが管理する建設現場では、大規模物件の管理に慣れていないため混乱が起こっているところが多いようです。そのため工事の手戻りや、待ち時間が発生し、結果的に突貫工事になってしまうケースが出ています。都内の建設現場を見ると、外から見ても混乱しているのがわかる現場があります。先日、たまたま通りかかった現場では職人が現場監督に怒鳴りつけていました。こういう現場が増えているのです。

混乱した現場では施工品質がどうしても劣ります。混乱しているということは管理できていないということであり、竣工後に品質の問題があちこちで発生するように思えてなりません。隠れた 瑕疵 のような大きな問題から、塗装が剥がれたといった小さなレベルのものまで、さまざまな問題が出てくるような気がしています。

まとめ

現在は建設ラッシュになっているため、不慣れな施工会社が工事をしているケースが散見されます。もちろん不慣れであっても周到な準備で工事を乗り切る会社もありますが、不慣れさが混乱を招き、突貫工事になってしまっているケースも多々あります。

建設業界は数年から数十年の周期で建設ラッシュで忙しい時期と、全く仕事がない氷河期を繰り返しています。そのため安定した人材の確保が難しく、人材の育成も難しくなっています。公共事業は、こういった波をある程度調整する機能があるはずですが、今や公共事業に振り回されている感じすらあります。今後の建設業界はどうなっていくのでしょうか。

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