長期修繕計画は疑ってかかるべき /見直しをしなければ資金不足になるかも

マンションに住む皆さんが毎月払っている修繕積立金は、長期修繕計画を元に金額が決められています。しかしマンションを作る・販売する側にいた私からすると、長期修繕計画は必ず見直した方がよいと考えています。なぜなら長期修繕計画は、かなりアバウトに作られているからなんです。ですから長期修繕計画は疑ってかかるべきだと考えています。もし見直しをしなければ資金不足になるかもしれません。

長期修繕計画とは

一般的にマンションの築30年程度の期間を目安として、マンションの鉄部等塗装工事・外壁塗装工事・屋上防水工事・給排水管工事などの各種の修繕をどの時期に、どの程度の費用で実施するかを予定したものです。将来見込まれる修繕工事の内容、時期、概算費用を明確にすることで、毎月払う修繕積立金が決められています。

長期修繕計画は新築販売時に管理会社が作成したものが用意されていて、それをそのまま管理組合が利用するのが一般的になっています。大抵の場合は、国土交通省が出している「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」に則って作成されています。30年間に渡って、一度も見直したことがないというマンションも珍しくはありません。しかし管理会社が作成した長期修繕計画は、あまり正確なものとは言い難いのです。その理由を以下に書いていきます。

工事着工までの期間が短い

マンション デベロッパー は、土地を購入してから工事に着工するまでの期間をなるべく短くしたいと考えます。。なぜなら土地の購入代金やマンションの建設費用は、銀行から借りているからです。借入期間が長くなればなるほど金利がかかります。そのため一概に決まりがあるわけではありませんが、だいたい土地の購入から3ヶ月、4か月ぐらいで工事を着工するところが多いようです。この3ヶ月とか4ヶ月の間に、数多くのことをこなさなければなりません。なぜならほとんどのマンションでは、工事の着工と同時に販売が始まるからです。

ゼネコン に発注するための設計図の作成(これは設計事務所に依頼する)、販売用資料の作成、モデルルームの作成、そして修繕積立金を決定するための長期修繕計画の作成です。わずか3ヶ月から4ヶ月の間に行わなくてはならないのです。そのためデベロッパーでは、土地を取得してから大急ぎでこれらを準備します。

設計図の作成

工事の着工までに長期修繕計画を作成するとなると、できあがったマンションを見て作成するわけにはいきません。そこで設計図を元に作ることになります。しかしこの設計図も、すぐにできあがるわけではありません。

不動産業者は設計事務所と契約して、マンションの設計図を書いてもらいます。その設計図を役所に提出して「この土地に、こんな建物を建ててよいでしょうか?」と役所にお伺いをたてます。これを「 建築確認 申請」といいます。それからしばらくして役所から「建ててもいいですよ」と返事がもらえます。これを「建築確認下付」といいます。建築確認が下付されて、ようやく工事が始められます。しかしまだこの時点では工事はできません。

ここで作成される設計図は、建物を建てるためというより建築確認を下付してもらうための図面なので、「確認申請図」と呼ばれます。確認申請図には細かな部分は描かれていないことが多く、そのままでは建物を建てることはできません。そこで「実施設計図」という、より詳細な図面を描きます。

修繕積立金の計算

設計図が出来上がると不動産業者は各戸の販売価格を決定し、同時に管理会社が管理費と修繕積立金の算定を行います。修繕積立金を算定するには長期修繕計画が作られます。しかしこの時には上記の確認申請図しかない場合がほとんどです。そのためかなり簡略化された図面で計画を立てることになりがちです。

確認申請図を基に防水やタイルの面積、鉄部の量などが算出されていきます。その数値を元に長期修繕計画が作られます。そのため実際にできあがったマンションとは、それぞれの数量がかなり違ってくることは珍しくありません。その長期修繕計画を元に修繕積立金が決められるのですから、現実には修繕積立金が全く足りないということも起きています。

だから数量の誤差が生じる

屋上の防水面などは設計図と施工図で面積が異なることはほとんどないのですが、複雑な形のマンションではタイルの面積、吹き付け面の面積、鉄部の数量などが異なることが多々あります。ある物件では、長期修繕計画の数量と実際の数量が20%も違うことがありました。施工していく中で、実施設計図に描かれていない部分にタイルを貼ることを決めたので、面積がどんどん増えていったようです。

また極端な例では長期修繕計画にはエレベーターが4基と書かれているのに、実際には3基しかないなんてこともあります。計画を進める中でエレベーターが1基減ったのに、長期修繕計画に反映する間もなく販売が始まってしまったのでしょう。当然ながら、エレベーター1基分多く修繕積立金が徴収されていることになります。

長期修繕計画は誰が作成するものなのか

このように販売時には管理会社が作成しているので、長期修繕計画は管理会社が作成するものと思われがちですが、国土交通省が出している「マンション標準管理規約」の32条には、以下のように書かれています。マンション標準管理規約とは、各社ごとにバラバラになりがちだったマンション管理規約に、国土交通省が一定のガイドラインを示したものです。

第32条
管理組合は、建物並びにその敷地及び附属施設の管理のため、次の各号に掲げる業務を行う。

一 管理組合が管理する敷地及び共用部分等(以下本条及び第48条において「組合管理部分」という。)の保安、保全、保守、清掃、消毒及びごみ処理
二 組合管理部分の修繕
長期修繕計画の作成又は変更に関する業務及び長期修繕計画書の管理
四 建替え等に係る合意形成に必要となる事項の調査に関する業務
五 適正化法第103条第1項に定める、宅地建物取引業者から交付を受けた設計図書の管理
六 修繕等の履歴情報の整理及び管理等
七 共用部分等に係る火災保険、地震保険その他の損害保険に関する業務
八 区分所有者が管理する専用使用部分について管理組合が行うことが適当であると認められる管理行為
九 敷地及び共用部分等の変更及び運営
十 修繕積立金の運用
十一 官公署、町内会等との渉外業務
十二 マンション及び周辺の風紀、秩序及び安全の維持、防災並びに居住環境の維持及び向上に関する業務
十三 広報及び連絡業務
十四 管理組合の消滅時における残余財産の清算
十五 その他建物並びにその敷地及び附属施設の管理に関する業務

管理組合の業務に、長期修繕計画の作成が含まれています。しかし管理会社と管理委託契約を結んで管理を任せているので、本来は管理組合の仕事でも管理会社が作るのが当然だと考える方もいるかもしれません。しかしこの管理委託契約の元になる国土交通省が出している「マンション標準管理委託契約書」のコメントには以下のような記載があります。

25 別表第1 1(3)関係
長期修繕計画案の作成業務(長期修繕計画案の作成のための建物等劣化診断業務を含む。)以外にも、必要な年度に特別に行われ、業務内容の独立性が高いという業務の性格から、以下の業務をマンション管理業者に委託するときは、本契約とは別個の契約にすることが望ましい。

一 修繕工事の前提としての建物等劣化診断業務
二 大規模修繕工事実施設計及び工事監理業務
三 マンション建替え支援業務

管理委託契約書とは別に長期修繕計画を作成したり見直したりする契約を結んでいなければ、長期修繕計画の作成は管理組合の責任で行なうことになります。しかし現実に、管理会社は長期修繕計画を作成し、入居後も見直し業務を行っています。つまり管理会社のサービスの一環として行われているに過ぎないのです。

低く設定されがちな修繕積立金

マンションを購入すると月々の支払いは住宅ローンだけでなく、管理費・修繕積立金・駐車場代などがあります。購入者にとって負担が大きくなるので、デベロッパーは販売しやすくするために修繕積立金を低く抑えがちです。

中古マンションの情報を見ていると、恐ろしく修繕積立金が安いマンションが目につきます。都内で築10年の150戸程度、専有面積は70㎡ほどのマンションで修繕積立金が7000円/月なんてよく見かけます。外壁はタイル張りされているのに、この金額で間に合うはずはありません。近い将来、値上げしないと不足するのは目に見えています。どの程度の金額が必要かは、以下の記事も参考にしてください。

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だから自分たちで見直しが必要

長期修繕計画はマンション販売前の計画ですので、完成後とは異なることが多くあります。土地を買ってから工事を始めるまで時間がないので、全てがバタバタで進んでいき、細かな仕様変更などは工事中でも何度も起こります。長期修繕計画に書かれている内容と実際のマンションではかなり仕様が変わっていることがあるのです。

長期修繕計画に基づいて修繕積立金を貯めているから大丈夫と思われるかもしれませんが、そもそも長期修繕計画の数値が合っていないことが多いのです。そのため長期修繕計画の見直しは必須で、いざとなったら修繕積立金が足りないということになりかねません。実際に資金不足の一因は、長期修繕計画にあるケースが多く見られます。見直しは早めにやればやるほど良いのは明らかなので、誰に相談して良いかわからない方は以下のメールフォームからご一報ください。


長期修繕計画は疑ってかかるべき /見直しをしなければ資金不足になるかも” に対して1件のコメントがあります。

  1. 寺岡 甫 より:

    井上様
    こんにちは、知恵袋にて、sakaijiji名で投稿したものです。貴重なご助言をいただき、誠にありがとうございました。
    投稿にも記載しましたが、小生は当マンションの役員ではありませんが、後数年後には輪番制で役員の当番が回ってまいります。その頃には、予定される第2回目の大規模修繕工事が計画されています。すでに2012年に第1回大規模修繕工事を終え、2014年には修繕積立金見直しも行っていますが、その時に理事会では5年後の2019年に見直しを行うこととなっていたにもかかわらず、放置されており、このままでは、第2回目の大規模修繕工事直前になって慌ててしまいかねないと心配しています。そこで、小生は来るべき時期に備え、今年度理事会において、これらの見直しに着手するように、役員に働きかけたい、と考えています。ただし、どのように働きかけるか?は難題で、素人が知ったかぶりをして、振る舞うのも、却って逆効果を産み出しかねません。
    まずは、長期修繕計画・長期修繕積立金見直しが如何に大切なものか?を自然体で役員に知ってもらう必要があり、その意味では今般の先生からいただきましたご助言は大いに助かりました。
    ただ、素人の域を出ない小生としては、これらの見直しを行う基本的な手順が未だにあまり理解できておりません。基本的な事柄をいい加減な知識で熟すのは、失敗の元になります。
    そこで、先生に再度のお願いですが、これらの手順で、概略的内容で結構ですので、ご教示いただければ、とお願いする次第でございます。
    なお、当マンションは昨年、それまでの管理委託会社が、年度途中で「大幅な管理費の値上げ」と「管理費、修繕積立金口座の運用管理を自社のパソコンにより、提携金融機関と電子決済をする」通告を受け、小生を含む区分所有者有志が、管理会社のリプレイスを総会にて上程する働きかけを行い、実現しております。又新管理会社との契約では、5年に1回長期修繕積立金見直し業務も含まれております。

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