インターホンパネルの錆 /ステンレスでも錆びます

築3年目のマンションにお住まいの方からご相談を頂きました。マンションの玄関に取り付けてあるインターホンパネル(インターホンのスイッチが付いていて、表札をつけられるようになっているステンレスのパネル)に新築時から錆が出ており、管理会社が何度錆を落としても、すぐに錆びてくるのだそうです。数ヶ月に1回のペースで錆を落としているようですが、何度も錆びだらけになるそうで不安に思っているようです。

そもそもステンレスとは

ステンレスとはなにかを話す前に、鉄とはなにかを話します。鉄と呼ばれるものの多くは、実は鋼(はがね)であることが多いのですが、鉄も鋼もまとめて「鉄」と呼ばれています。100%鉄だけでできた純粋な鉄は脆くて錆びに弱く、とてもそのままでは使えません。そこで炭素を混ぜて強度を増します。この炭素が0.02%以下のものを「鉄」、0.02%を超えるものを「鋼」と呼んでいます。炭素が多いと鋼は固くなりますが、今度は粘り強さが失われます。堅さが必要なのか粘り強さが必要なのかで、炭素の量を変えてさまざまな種類の鋼が存在します。

※ステンレスの板

ステンレスは鋼にクロムを加えたものです。クロムの量が10.5%以上になるとステンレスで、それ未満だと鋼と呼ばれます。鋼とステンレスの違いは、クロムの量で決まるのです。クロムの量により、ステンレスに近い鋼もあれば鋼に近いステンレスがあるように、ステンレスは錆びないのではなく「錆びにくい」性質を持っているのです。ですから「ステンレスなのに錆びた!」と驚かれる方もいますが、ステンレスが錆びることは珍しくないのです。

なぜステンレスは錆びないのか

ステンレスの表面には、クロムと酸素が結びついた不動態被膜と呼ばれる薄い被膜が覆っています。不動態被膜は化学的に安定していてとても強く、傷ついてもすぐに自己修復する力があります。この不動態被膜があることで、ステンレスは錆びにくくなっているのです。ですからクロムと酸素の結びつきを妨げるものがあって不動態被膜が作られなくなったり、なんらかの原因で不動態被膜が失われるとステンレスも錆びてしまいまうのです。

ステンレスの錆の主な原因

①もらい錆び

ステンレスの表面に細かい鉄の粉末などが付着して錆びた状態です。錆びた鉄は被膜を作る妨げになり、やがてステンレスを錆びさせます。しかし最初は被膜の上で鉄が錆びているだけなので、すぐに錆を落とせば以降は錆がでることはなくなります。

②塩分の付着

塩分が付着したまま長期間放置すると、被膜が形成されなくなって錆びてしまいます。海釣りにステンレスの包丁を持って行って、真っ赤に錆びた経験がある人もいるでしょう。また海岸線に近い建物では塩分を含んだ潮風が常にあたるので、ステンレスも錆びてしまいます。

③汚れや水分の付着

汚れの種類によっては被膜を作るのを妨げます。また水分が付着した状態が続くのも被膜形成に影響します。

④酸やアルカリの薬品

これらの薬品は濃度や温度にもよりますが、不動態被膜を破壊してしまいます。キッチンのステンレスシンクの汚れが酷く、サンポールを使って掃除した方がいましたが、シンク全体が真っ赤に錆びてしまいました。サンポールは強酸なので、被膜を完全に破壊してしまったようです。

インターホンパネルの錆の調査

真っ先に考えたのはもらい錆びでした。工事中にスチールを切断した時の切り粉がパネルに付着して錆びることがあります。しかしこの程度なら、一度念入りにサビ取りをして全体を拭き掃除すれば再び錆びることはありません。このマンションは海岸線から離れているので、潮風や塩害の可能性も排除できます。水分は雨の度に付着するでしょうが、被膜を破壊するほどの汚れがつくことも考えにくいです。こうして薬品の付着の可能性が残りました。

廊下の壁はタイルが貼られていて、タイルの上にインターホンパネルがついています。実はタイルを貼り、目地を入れた後にタイル表面を洗ってキレイにするのですが、この時に洗剤として使われるのが希塩酸です。普通はタイルを洗った後にインターホンパネルを取り付けるのでなんら問題はないのですが、工期が足りなくてバタバタすると、その順番が逆転してしまうことがあります。インターホンパネルを貼った後からタイル洗いを行えば、インターホンパネルの被膜は破壊されてしまいます。

どの部屋が錆びているか

このマンションでは11部屋のインターホンパネルが錆びていました。そして錆びているのは最上階の8階とその下の7階に集中しています。下層階は全く問題がないので、管理会社は「上層階は強い雨が当たり続けるから錆びる」と説明していたようですが、雨が当たるだけで錆びることはありません。むしろ上層階だけで錆びるというのは、工事の流れに原因があると思われました。

※タイル洗い

タイル張りもインターホンパネルの取り付け工事も、下の階から順に上の階に向かって進みます。工期にゆとりがあった下層階ではタイルを洗ってからインターホンパネルを取り付けることができますが、上層階を工事する頃は工期がギリギリに迫っていてドタバタになることがあります。今日中に取り付けを終わらせないと次の現場に行けないインターホン業者が、まだ洗いが終わっていないタイルの上にパネルを取り付ける様子は容易に想像できました。

錆び問題の解決

管理会社の立ち会ってもらい、インターホンパネルを外してみました。するとパネルの裏側のタイル表面には モルタル が付着していて、希塩酸で洗われていないことがわかりました。パネルの下だけ洗い残しがあるということは、パネルを取り付けてから洗った証拠です。パネルに希塩酸がかかってしまい、不動態被膜が破壊されたのが錆の原因でした。これは新築時からの 瑕疵 にあたるので、売り主の負担でインターホンパネルを交換することになりました。

相談者から「もしパネルを外してタイルの汚れがみつからなかったら、どうしたんですか?」と質問されました。汚れが見つからなければ、管理会社の主張通り雨で濡れる度に錆びていたことになるので、商品に問題があるので全交換するように言うつもりでしたとお伝えすると、「結局は交換させるつもりだったんですね!」と笑っていました。

まとめ

ステンレスは錆びない金属ではなく「錆びにくい金属」というのを知って頂けたらと思います。塩分や薬品、汚れの種類によっても簡単に錆びてしまうので、ステンレス製品は汚れたら掃除をするようにしましょう。今回はマンション工事の流れとステンレスの特性を知らないと、原因の特定が難しい事例でした。

相談者の方は、管理会社がいい加減な説明をしていたと怒っていましたが、管理会社の担当がステンレスの特性やマンション工事の流れを知っていることは稀ですから、売主やメーカーから言われたことをそのまま伝えていただけでしょう。このように管理会社や売り主の説明に疑問を持っている方がいましたら、メールにてご連絡ください。

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