サラ金と手を組み顧客に感謝されていた不動産屋

不動産屋の負の側面にまつわる話です。90年代後半に、ある不動産屋はサラ金と手を組んでいました。サラ金の名簿を使ってマンション営業をしていたのです。借金で首が回らない人にマンション営業を行い、猛烈な勢いで販売していました。そして多くの顧客は泣きながら感謝していたそうです。なぜこんなことが可能だったのか、今回はそのカラクリについてお話しします。サラ金と手を組み顧客に感謝されていた不動産屋は良い不動産屋のように思われるかもしれませんが、こういう不動産屋が後を絶たないから、規制がどんどん厳しくなるんですよね。

塩漬け物件を抱えたマンションデベロッパー

バブル景気の頃は販売開始と同時に売り切れていたマンションですが、バブルが弾けた90年代には売り上げを急速に落としていました。地方都市にあるA不動産はその地では有名なマンション デベロッパー でしたが、完売させるのに数年かかることも多くなり資金繰りに苦しんでいました。何より竣工から何年も売れない、通称「塩漬け物件」をいくつも抱えており、経営が悪化していました。

そんな時に、ある若手社員がサラ金業者の名簿を使ってマンション営業を行うことを思いつきます。彼はサラ金業者から支払いが滞っている顧客をピックアップし、さらにその中から公務員だけを選び出しました。この若手社員は借金で夜逃げしそうな公務員を一人づつ訪問し、塩漬け物件を次々に契約していきました。誰も売れないと思っていたマンションを次々と契約するため、社内は騒然となったそうです。

共済ローンの悪用

彼が使った手口は、実にシンプルなものでした。まず借金苦の公務員の借入額を調べます。仮に300万円だとすると、自社の塩漬け物件の中から300万円の値引きが可能な物件をピックアップします。彼はその物件の資料を持ち、公務員に会いに行きました。突然の訪問でも、彼は簡単に目当ての公務員に会うことができました。なぜならサラ金会社の社長の名前を出し「社長のご紹介でお伺いしました」と言えば、借金の催促だと思って会ってくれていたのです。

彼は会うなり「あなたを救うために来ました」と言います。そして自社のマンションを買うように勧め、借金を返済する唯一の方法だと説明します。彼が持ってきたマンションは3100万円です。そこから値引きして2800万円で売却します。しかしローン申請時には3100万円で申請して、不動産屋に3100万円が振り込まれたら値引き分の300万円を公務員に現金で渡すのです。この300万円で公務員はサラ金の借金を返済できるわけです。

この手法は銀行ローンや住宅金融公庫では使えませんでした。彼らは本当に、その金額で売買されているか調査を行うからです。しかし公務員だけが使える退職金を担保にした共済ローンでは、当時は契約書のコピーを提出するなどの確認がなかったため、こっそり値引きしてもバレなかったのです。彼は共済ローンの審査の甘さを悪用したのです。

誰もが喜ぶ仕組み

この若手社員は見事に公務員を説き伏せ、塩漬け物件の契約に成功しました。ローン審査が通り3100万円が不動産屋に振り込まれると、公務員とサラ金の店舗で待ち合わせをして、300万円を手渡すと同時に返済させました。こうしてサラ金は回収が難しくなりそうだった300万円を手堅く回収し、公務員は夜逃げせずに借金を返済し、不動産屋は売れ残っていた塩漬け物件の売却ができました。

全員が喜ぶ結果になり、夜逃げどころか自殺まで考えていた公務員は泣きながら感謝したそうです。騙されたのは共済ローンですが、公務員が働き続ければローンの返済は可能なので損をする可能性も低いのです。そのためこの若手社員は、全員が得をする良い仕組みだと胸を張っていました。

会社として取り組んだ

常識的な経営者なら、この若手社員の行動を問題視するでしょう。普通に考えるなら解雇です。しかしこの不動産屋の社長は違いました。若手社員のアイデアを絶賛し、全員これに続けと全社員に命じました。またサラ金の社長も大喜びしました。公務員の給料を差し押さえたり、自殺した場合に生命保険や香典を差し押さえるような面倒を踏むことなく、短期間でスッキリ回収できたのです。積極的に顧客の情報を伝えるようになります。

借金で首が回らなくなった公務員など、そんなにいないように思えます。しかし公務員の中でも学校の先生や警察官などストレスの多い仕事の方に、ギャンブルや酒にストレスの吐口を求める人が多いそうです。そういった方がサラ金から借りる人は案外多いそうで、その中の何割かが借金で身動きが取れなくなっていると言っていました。

こうして非常識な経営者同士が手を組み、次々に塩漬け物件の契約を結んでいきました。当然ながら、やがて共済ローンは審査を厳格化していき、この手法は使えなくなるのですが、それまでこの会社は売れ残りの物件を借金を抱えた公務員に積極的に販売していました。そして私はこの会社の営業部長から聞いたのですが、自慢げにこのことを語っていました。今後は絶対に関わらないと決めたものでした。

いつの時代もこの手の会社はあります

多くの不動産屋は真面目にやっているのですが、いつの時代も一部にこのような社会常識から外れた不動産屋がいます。そしてこういう不動産屋がいるから、規制が厳しくなって真面目にやっている不動産屋が迷惑をします。どの業界にもこのような会社はあると思いますが、行政には取締りを厳しく行って欲しいものです。制度の悪用は制度そのものを揺るがしかねません。

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