意外と知らない火災にまつわるマンションの法律 /そのカーテンは違法?

2017年6月、イギリスのロンドン西部で発生したタワーマンションの火災は、マンション全体が火柱になる衝撃的な映像とともに報じられました。そのため日本でもタワーマンションは火災の時に大丈夫か?という不安な声があがりました。今回はタワーマンションを中心に、マンションの火災の話を書いてみたいと思います。

グレンフェル・タワー火災

2017年6月14日に、ロンドン西部のケンジントン・アンド・チェルシー地区にある24階建てのグレンフェル・タワーで火災が発生しました。グレンフェル・タワーは低所得者用の高層住宅で、4階から発生した炎は外壁を伝わり建物全体に広がりました。200名もの消防隊員が消火を行いましたが、死者70名、負傷者が約80人も出る大惨事になりました。また近隣の住戸151戸も焼失する被害にあいました。

※Source : The Sun(News Group Newspapers of News International)

上記のイラストはイギリスの大衆紙「ザ・サン」によるものです。火災が広がった原因は、250mmのコンクリートの外壁に厚さ150mmの可燃性の断熱材(イラストの黄色い部分)が張り付けられたうえに、外装の亜鉛鋼板のパネルとの間に空気層があったためでした。断熱材は空気層から供給される空気をふんだんに使って燃え上がり、建物全体が巨大な煙突のようになってしまいました。

また2007年以降に建設された30m以上の建物にはスプリンクラーを設置する義務がありますが、1974年に竣工したグレンフェル・タワーには設置義務がありませんでした。そのためスプリンクラーはなく、被害が拡大したという見方もあります。

日本のマンションでは外断熱工法はほとんどありませんし、このような可燃性の材料を使うことは法律上できません。そのため同じような火災が日本のタワーマンションで起こることは考えにくいと言えます。またイギリスはスプリンクラーが義務づけられても古い建物には適用されませんでしたが、日本の消防法は遡及(そきゅう)することがあるためイギリスとは全く事情がことなります。

大火災が変えた消防法

法律の大原則に「法の不遡及」というのがあります。法律が施行された時から、遡って適用しないという考え方です。例えば万引きして捕まったら懲役1年と法で定められていたとします。しかし法改正があって、万引きが無期懲役になりました。だからといって、過去に万引きで捕まった人の罪まで無期懲役にしてはならないのです。法律は遡って適用しないというのは、社会に混乱を招かないための放置社会の大原則です。しかし日本の消防法は過去の建物に遡って適用されることがある、極めて珍しい法律です。

千日デパート

1972年5月13日、大阪市南区難波にある千日デパートで火災が発生しました。鉄筋コンクリート造、地上7階地下1階の千日デパートは全焼し、死者118人・負傷者81人の大惨事になりました。出火原因は3階で行っていた電気工事の、現場監督によるタバコの火の不始末といわれていますが、供述に不審な点が多く公式には火災原因は不明です。

当時の消防法にはスプリンクラーの設置が義務づけられていますが、法の不遡及のため千日デパートには設置されていませんでした。防火シャッターが作動せず、大量の寝具など可燃性のものが大量にあったため短時間で炎は一気に広がっています。この火災から自動火災報知設備を、不特定多数の人が利用する施設を中心に既存の建物にも義務づけるようになります。また2方向避難、防火区画などが強化されるようになります。

大洋デパート

1973年11月、熊本市の大洋デパートで火災が発生しました。地上9階地下1階のデパートの2階から3階の、階段踊り場にあった段ボールから発生した火は、瞬く間にデパート全体を飲み込みました。死者104名、負傷者124名にのぼる大惨事でした。原因は工事の火花の引火とも、タバコの不始末とも言われていますが不明です。

※炎に包まれる大洋デパート

防火シャッターは在庫の山が邪魔して作動せず、階段には段ボールに詰められた在庫に可燃物が多かったため、階段自体が巨大な煙突になって炎が上階に駆け上がりました。スプリンクラーは防火設備の改装工事中で稼働せず、館内放送もなく消防への連絡も遅れました。この後、消防法の改正が行われてスプリンクラーなど消防設備の設置と維持を義務づけました。この法改正は遡及して義務づけられたため、金銭的負担を伴うオーナーからは反発がありましたが、消防庁は粘り強く既存の建物に設置を求めていきました。

ホテルニュージャパン

1982年2月、東京都千代田区永田町にあるホテルニュージャパンから出火しました。原因は938号室に宿泊したイギリス人男性の寝タバコによるもので、火は瞬く間に9階に広がりました。スプリンクラーはなく、消火設備は稼働しないどころか使い方がわかるスタッフがおらず、館内放送もできずに従業員が走り回って大声で火事を伝えて回りました。死者33名、負傷者34名の被害を出しています。

消防庁麹町署は以前からホテルニュージャパンの消防設備の不備を指摘していて、何度も指導を行っています。しかし経費がかかることを理由に対応を伸ばし続け、ついには麹町署に横井社長を呼びつけて指導に従わなければ使用停止にすると明言していました。そのためスプリンクラーが設置されましたが、それはヘッド部分だけを天井に取り付けるもので、火災の時には何の役にも立ちませんでした。また故障していた火災報知器は、そのまま放置されていました。この火災を機に、消防庁は防火設備を民間にお願いするというスタンスから、法的拘束力を持って強力に指導できるようになりました。

日本のタワーマンションは安全か

マンションの 躯体 は鉄筋コンクリートで作られているので燃え上がることはなく、さらに内装には不燃材が使用されているので火災が広がるリスクが低いとされています。実際、近年のマンション火災で火が他の階に回ったという事例はほとんど聞く事がなく、火を出した部屋のみが燃えて火災が終えることがほとんどです。その理由の一つに、大洋デパートの教訓による竪穴区画(たてあなくかく)が徹底されているというのがあります。

マンションでは排水管が最上階から下まで繋がっているため、コンクリートの床に穴を開けて排水管を通しています。そこで貫通部から半径1mは燃えない材料が使用され、貫通部の隙間はモルタルや燃えないロックウールで詰められています。これらの措置は消防検査で厳しくチェックされていて、施工に気が抜けない部分になっています。

さらに玄関とバルコニーの両方から避難できる2方向避難が徹底されているため、火災で逃げ場を失うことが少ないと言われます。

タワーマンションの不安な面

2方向避難は避難口が離れていれば離れているほど、安全が確保されやすくなります。しかしタワーマンションでは2つの避難経路の距離が羊羹型のマンションに比べて近くなりやすいというのがあります。もっとも先に書いたように、日本のマンションでは住戸から住戸に延焼が広がる可能性が低いので、あまり気にすることではないという指摘もあります。

守られない防炎規制

防炎規制とは消防法の第8条の3に定められているもので、31mを超える建物は階数に関係なく燃えにくい防炎物品を使わなくてはなりません。31mを超えるとは概ね11階建て以上の建物で、例えば14階建てのマンションであれば1階の部屋であっても防炎物品を使わなくてはならないのです。防炎物品にはカーペット、カーテン、布製ブラインドがあります。

※防炎マーク

新築時から床がカーペットになっているマンションでは、消防検査を受けているので防炎物品が使われています。しかし入居後に住民が購入するカーテンやブラインドでは、防炎物品を意識して購入する人はほとんどいないでしょう。また寝具も燃えにくい防炎製品の使用が推奨されていますが、一般家庭で防炎製品のシーツなどを使用している例は、ほとんどないと思われます。

またルーフバルコニーに人工芝を敷く人もいますが、こちらも防炎物品でなくてはなりません。しかし防炎物品の人工芝を取り寄せて敷いている人を私は見たことがありません。

リフォームの問題

リフォーム工事を行う会社にもよりますが、残念ながら消防法の知識が皆無なリフォーム工事会社が多く存在するので、リフォームによって消防法を逸脱したマンションになっているケースが散見されます。上記の竪穴区画では区画から1mは燃えない耐火二層管を使わなくてはならないのですが、耐火処理がされていないケースを何度も見ました。

※出典「さいたま市消防用設備等に関する審査基準」

また3階建て以上で延べ面積が500㎡を超える建物の場合、100㎡以内に防火区画されていなければ内装制限を受けます。しかし14階建てのマンションの最上階にお邪魔した際に、専有面積が120㎡ある住戸のリビングが天然素材を多用していて、木の壁になっていました。これは明らかに消防法に違反したリフォームですが、リフォーム会社からはそのような話は全くなかったと言っていました。

マンションは火災に強いが

これまで書いたようにマンションは火災に強い造りになっています。しかし火災は湿度や風の向きなどさまざまな要因で被害を拡大させることがあるので、住民一人一人が準備をしておくことが大事です。避難経路や警報装置の確認を日頃から行っておきましょう。また住宅内に燃えやすいものを大量に置かないなどの、普段から注意も必要です。またリフォームの際には、きちんと知識のある業者で行うことも重要です。

東京消防庁が所有するはしご車は30m級と40m級です。せいぜい14階ぐらいまでしか届きません。マンションは火事に強い造りになっていますが、普段から火の元には気をつけて、避難ルートの確認などをしておきましょう。

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