マンションの直天状・直床はコストダウンになるのか?

2020年2月29日号の週刊ダイヤモンドに、「マンションのモデルルームにだまされるな」というタイトルで、マンションのコストカットの手法が紹介されていました。その中で専有部での直天・直床が紹介されていたのですが、私はこの点には疑問です。なぜなら2003年頃に直天・直床でコストカットが可能か検証し、場合によってはコストアップになると結論が出たからです。

直天井とは 二重天井とは

マンション専有部の天井には直天と二重天井の2種類があります。コンクリート 躯体 の下に軽量鉄骨や大工が木材で天井を組み、そこにボードを張って天井を作るのが二重天井です。直天井はコンクリートに直接クロスなどの仕上げ材を張った天井のことです。

※直天井はコンクリートにクロスを直接貼ります。
※二重天井は軽天を組んでボードを貼り、クロスを貼って仕上げます。

直床とは 二重床とは

マンション専有部の床には直床と二重床の2種類があります。直床はコンクリートの上に直接フローリングやカーペットを貼った床のことです。二重床はコンクリートの上に木などで床を造り、その上にフローリングやカーペットを貼った床です。

※直床はコンクリートに直接フローリングを貼ります。
※二重床は置き床の上にフローリングを貼ります。

直天井の難しさ

現在のマンションの天井の9割以上はクロス貼りです。30年くらい前は、和室の天井にはテンパックと呼ばれる化粧石膏ボードが使われていましたが、現在は和室を作る場合でもクロス貼りがほとんどです。天井にクロスを直天で貼る場合、天井のコンクリートを真っ平らに仕上げる必要があります。

コンクリートでできた天井は、真っ平らではありません。鉄のサポートで支えられた厚手のベニヤ板にコンクリートを流し込んで作るのですから、グニャグニャになっています。そこで 左官 屋が真っ平らになるように モルタル を塗っていくのですが、天井にクロスが貼れるほど真っ平らに仕上げられる左官屋がほとんどいないのです。

築30年とか40年以上のマンションに行くと、直天井にクロスが貼ってある部屋があります。しかし大抵の場合、現在の基準で見ると天井に凹凸があり汚い仕上がりになっています。当時から天井を塗るのは腕の差が出やすく左官屋にとって難しい作業で、品質管理が厳しくなった現在では当時よりもさらに難し作業になっています。

シーリングの位置

天井の照明位置もシビアになります。配線や器具をコンクリートに打ち込まなければならず、位置を間違えても修正できません。二重天井なら、大体の位置にケーブルを出しておけば、天井のボードを貼る時に正確な位置を出すことができます。直天井は照明の位置出しが一発勝負で、間違えたら修正が効きにくい方法なのです。

そのため照明の位置を間違えてしまうと、直天井は割高の仕様になってしまいます。そしてマンションは建設中に設計変更が行われることが多いので、直天井の方がコストがかかってしまうことは珍しくありません。

直床の難しさ

床のコンクリートも、天井と同様に凹凸があります。そこでセルフレベリング工法と呼ばれる方法で、床を真っ平らにします。これはモルタルを水のように柔らかくした速乾性の液体材料を床に流すことで、水が必ず水平になることを利用して床を真っ平らにする手法です。ただ問題は表面張力が働いて、端部が水平ではなくなることです。そこで端部は左官屋が水平に塗る作業を行います。

しかしこの左官が難しく、少しでも高さが違うとフローリングを貼った時にギーギー床鳴りが発生してしまいます。私は1995年に400戸のマンションで直床工事の経験がありますが、フローリングを張った後に床鳴りがあちこちで起こり、何度も張り直しを行うことになりました。左官屋は20名以上いましたが、結局は1人の熟練工に全て任せることになり、工事が押してかなり苦労しました。わずかな段差で床鳴りを起こすフローリング張りの下地を、左官で完璧に行うのは難しいのです。

コストダウンになるか

使用する材料の量が違うので、直天井や直床は安くなると思われがちです。やったことのない ゼネコン など施工業者は、材料が少ないので安易に直天井や直床を請け負うかもしれません。しかし1度やってみると、その難易度から手間が何倍もかかることになると思います。さらにセルフレベリング工法を行うと、乾かすのに最低でも7日間(冬は14日間)は放置しなくてはなりません。その間に工事ができないので、どうしても費用がかさんでしまいます。

直床は長谷工コーポレーションさんが実施していたので、安くなるという思い込みもあるようです。しかしマンション専業で工事を行い、マンションの施工実績が全国1位の長谷工コーポレーションさんは、直床を慣らす左官屋を多く抱えています。普段はやったことない左官屋に、直床をやらせてフローリングを張ると、かなり痛い目を見ることになります。

このように私が2003年に何社ものゼネコンにヒアリングした結果、直天井・直床はコストダウンにならないという結論になりました。もちろん求める精度もさまざまなので一概には言えませんが、直天井・直床にすれば安くなるというのは安易な考え方だと思います。

安易なコストダウンに注意

この週刊ダイヤモンドに書かれているコストダウンは、どれも一目瞭然のコストダウンで、むしろこの手のコストダウンを行っている デベロッパー は良心的だと思います。なぜならマンションのコストの大半は完成してから見えない部分にかかっているからで、見えない部分を知らない間にコストダウンされることの方がよほど怖いからです。

設備配管のグレードを落とされたりすると、ウォシュレットを減らされるよりも維持管理性に影響を与えますが、それに気が付く人はほとんどいません。そもそもこの雑誌に書かれているコストダウンは、立地や広さに比べると資産性に与える影響は微々たるものです。あまり神経質にコストダウンを気にするのは、どうかと思いました。

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