マンションより戸建の方が地震に強いのか?/Abema Primeの発言について

2023年5月23日放送のAbema Primeで「新しい戸建住宅の方がマンションより地震に強い」という発言があり、私の周囲では話題になっていました。まるで戸建ての営業マンのような発言ですが、この発言はとても権威のある方のものなので、簡単に片付けることができません。今回はこの発言について見ていくとともに、戸建ての方がマンションより地震に強いのか考えていきたいと思います。

Abema Prime(アベマ・プライム)とは

サイバーエージェントとテレビ朝日が共同で立ち上げたインターネットTV、AbemaTVの旗艦番組がAbemaPrimeになります。現在はテレビ朝日アナウンサーの平石直之氏を司会に様々なテーマを議論しており、地上波放送ではあまり扱われない内容が多く含まれています。ネットでは話題沸騰なのに地上波や新聞ではあまり取り上げなかった一般社団法人colaboの問題をいち早く取り上げたり、ひろゆき氏のTwitterで話題になった辺野古座り込み騒動では、ひろゆき氏と基地反対派をスタジオに呼んで戦わせるなど、話題が多い番組です。

サッカー・カタールW杯の放送権を購入して日本での放送を実現したことでも話題になったAbemaTVの顔となる番組であり、地上波に比べてタブーが少ない報道番組とも言えるでしょう。私はこの番組で平石直之氏が見せる仕切り方に何度も関心させられ、平石氏が著書を出した際にはすぐに購入しました。その著書の感想も、このブログに書いたことがあります。

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地震に関する特集

今回話題にしたいのは、2023年5月8日に放送された「『東京には家を建てない』地震で家倒壊リスクは?国の委員も務める学者が警鐘」というタイトルで放送された内容です。能登半島地震を受けて、建物の倒壊について特集していました。ゲストに名古屋大学名誉教授で、政府の地震調査研究推進本部 政策委員会委員長の福和伸夫氏を迎えて話を聞くスタイルで番組は進みました。話の中心は戸建てでしたが出演者の質問はマンションにも及び、時には東京で家を買うならどこが良いかなど、個人的な質問まで飛び出していました。

※YouTubeのダイジェスト版です

福和氏の発言内容

①建築基準法は最低限の基準

福和氏が強調していたのは、建築基準法が定める耐震基準は最低限のものだということでした。日本国憲法の財産権を根拠に挙げて説明していましたが、そこまで話を広げるまでもなく法律が定める安全基準の多くは最低限のものであることがほとんどだと思います。特に地震のように、どれだけの規模の地震がやって来るかわからないものに対しては、絶対に安全という基準の設定が難しいうえに建築コストが飛躍的に増大するからです。そしてどんなに地震への対策を行ったとしても、地震で絶対に倒壊しない建物など日本中探してもどこにもないのです。どんなに厳重な対策を施しても未発見の断層がマンションの真下にあって、それが地震で数メートルも動いてしまえば大抵の建物は倒壊するでしょう。

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現在の建築基準法が想定しているのは、震度7で倒壊しない住宅です。そのため震度7で倒壊しなくても、住み続けることが不可能なくらいの損傷を受ける可能性もあります。またこれは震度7の地震でも絶対に倒壊しないという保証ではありません。これを理由に更なる耐震性を付加した住宅を、セールスポイントにした戸建メーカーもあります。福和氏は耐震性を重視するかは、その人によると言っていました。私もこの意見に賛成です。更なる耐震性のために高いお金を払うかは、個人の判断に委ねられるべきだと思うからです。

②地盤が重要

福和氏は、建物の耐震性を見るだけでなく地盤を見なくてはダメだと話していました。どんなに頑丈な建物であっても、地盤が脆弱だと意味がないという主旨の発言には、私も同意です。これは戸建てもマンションも同様で、地震による建物被害がなくとも給水や排水のインフラが破壊されて地震後の日常生活に支障が出ることがあるからです。

番組内では福和氏が東京に家を建てるならどこにするかと問われて、東京には家を建てないと言っていました。東京は人が密集しているというのが理由でした。また自分なら地盤が悪い所や低い土地には建てないとして、駅などの周辺は谷だった所が多いと警鐘を鳴らしつつも、具体的に東京のどこが比較的安全かは明言を避けたように見えました。

地盤の良し悪しだけを見るなら、液状化マップを見ればわかります。東京なら西の方に行くほど液状化しにくい土地が多く、東に行く(東京湾に近づく)ほど液状化しやすい土地が多いことが液状化マップからわかるのです。埋立地は地盤が良くないと言われますが、東京は埋立により大きくなりました。古くは徳川家康の事業に始まり、戦後も埋立が行われています。江戸時代には、皇居の近くまで海だった事実を知る必要があります。

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③マンションと戸建ての安全性

番組では湾岸のタワーマンションの話になり、その流れで福和氏は、現在の戸建ての方がマンションより地震に強いと発言します。理由は戸建てはちゃんと構造計算をしていないからというもので、これには驚かされました。先に書いたように建築基準法は最低限の基準しか決められていません。だからと言って、構造計算をしない方が安全というのは論理の飛躍が過ぎます。建築基準法の前身にあたる市街地建築物法は関東大震災が発生した1924年(大正13年)の翌年には改訂され、その後も耐震基準は地震の度に改正されています。確かに建築基準法は最低限の基準ですが、それだけで戸建より弱いという根拠にはならないでしょう。

戸建の場合は建築基準法第6条の規定により、2階建の木造戸建は構造計算が不要になっています。そのため大きな地震が起こる度に、一部では戸建も構造計算を行うべきではという意見が出ます。地震で倒壊した戸建の映像が報道されるので、構造計算をしないことに不安を覚える人も多いようです。しかし2026年の熊本地震の木造戸建住宅の被害を見ると、1981年の建築基準法改正以後に建設された戸建の被害は減っていますし、木造住宅建設時の地盤調査が事実上義務付けられた2000年(平成12年)以降は、被害がかなり減っていることがわかります。

※熊本地震における戸建の倒壊数 国土交通省資料

福和氏は、戸建は構造計算をしないが過去の地震の経験を踏まえて建設するので、最低限の基準さえ満たせば良いマンションよりも戸建の方が安全だと語りました。しかしそのような善良な戸建メーカーばかりと言えるはずもなく、経済性を追求して建設している戸建もあるでしょう。無条件に戸建メーカーを信用する姿勢は、一体なんなのだろうと思ってしまいます。

④耐震性の高いマンション

福和氏は地震に強いマンションの条件を質問されて、地震に強いのは柱が太く壁が多い使い勝手が悪いビルと答えています。壁が多い方が耐震性が高いという理屈ですが、壁ならなんでも良いという話ではありません。マンションのコンクリートの壁には、耐震壁と雑壁の2種類があります。図面上ではEWと記載される耐震壁は、文字通り耐震性に関連する壁です。この壁が多いと耐震性が高くなるというのは、一般的には間違っていないと思います。

しかし雑壁は耐震性には全く関係ない壁で、雑壁がいくら多くても地震に強いことにはなりません。また耐震壁であれ雑壁であれ、壁が増えると建物の自重が増えます。自重が増えると耐震性にも影響が出るためバランスが重要になってくるのですが、その適切なバランスを見出すために構造計算が行われているのです。このように単に壁が多い方が耐震性が高いというのは、あまりに安易だと思いました。

さらに付け加えると、古いマンションでは耐震スリットが適切な位置に入っていないケースが多く見られます。雑壁と柱の間に耐震スリットが入っていない場合、地震の際に柱や梁を痛める原因にもなります。古くて壁が多いマンションが安全と言い切るのは、いかがなものかと思ってしまいました。

日本の耐震基準は過剰だと考える人も

これは余談になりますが、建築基準法が過剰仕様だと感じている人もいます。姉歯建築士の構造計算書偽装問題で、発覚したマンションは震度4や震度3の地震で倒壊すると言われていました。それらのマンションのいくつかは首都圏にありましたが、東日本大震災で首都圏が大きく揺れた後に倒壊したマンションはありませんでした。もちろん補強工事などが進んでいた物件もあるので一概には言えませんが、姉歯事件発覚時にも「計算上は震度4で倒壊することになるが、実際にはあり得ない」と言う構造設計士もいたのです。彼らは現在の建築基準法には余裕度があり、耐震基準が改正されるたびに余裕度が設けられるので過剰仕様になっていると考えていました。

またこれは建築基準法とは異なりますが、東日本大震災で福島第一原発が問題になった際にも疑問を口にする構造設計士がいました。福島第一原発はマグニチュード7の地震を想定して建設されたのに、マグニチュード8の地震でも倒壊しませんでした。マグニチュードは対数で表しているので、マグニチュード7と8ではエネルギーの大きさが32倍も違います。想定した地震のエネルギーの32倍のエネルギーが襲えば、ガラガラと倒壊してもおかしくないのに建物は健在でしたし使用不可能なダメージもありませんでした。原発の耐震設計は「原子炉等の規制に関する法律」で定められているので建築基準法とは直接の関係はありませんが、これを理由に日本の耐震基準は最低限の仕様と言いつつも過剰設計ではないかと考える人もいました。

私は構造の専門家ではないので、これらの意見が正しいか間違っているかの判断はできません。しかし構造設計士の中にもこのような考えの人がいるわけで、建築基準法は最低限の基準だから建築基準法を守るだけでは不十分だと断定するのも、間違ってはいないですが危険を煽りすぎているような気がするのです。

まとめ

福和伸夫氏は著名な耐震の専門家で、その発言の影響力は大きいと思います。事実、スタジオでは福和氏の発言に何度もパネラーが感心していましたし、YouTubeのダイジェスト版のコメント欄にはわかりやすかったというコメントが多く書き込まれています。そのためこれほど影響力のある人が、誤解を招くような言い方をするのはどうかと思ってしまいます。マンションと戸建てのどちらが地震に強いのかというのは、専門家によっても見解が分かれる部分だと思いますし、同条件で同じ強さの地震が襲うことがない以上は、比較することにあまり意味があるとも思えません。地震が心配な人はマンションにするか戸建てにするかよりも、地盤を見てどこに住むかを考える方が大事ですし、住む場所が決まるとよほど経済力に余裕がない人以外はマンションか戸建にするかは大体決まってくると思います。

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