マンションデベロッパーとゼネコンのすれ違い
欠陥マンションの話題は、数十年続いているように思います。欠陥マンションの話題が出る度に多くの デベロッパー や ゼネコン の名前が挙がり、住人が苦しむ様子が伝えられます。なぜ欠陥マンションは無くならないのか?さまざまな理由があると思われますが、今回はマンションを発注するデベロッパーと、マンションを建設するゼネコンの考え方の違いを見ていきたいと思います。
デベロッパーの憂鬱
マンションを販売するデベロッパーは、常に景気に翻弄されています。しかしマンション用地を購入してから完成したマンションの販売が終了するまでには、長い時間がかかります。土地購入→設計→建設→販売というプロセスを踏むのですが、小ぶりのマンションでも1年ぐらいの期間になりますし、大型マンションなら数年かかることもあります。この間に景気の波が押し寄せて、予定していた販売価格より下げて売らなければならないこともありますし、強気の価格で勝負に出て売れ残りが出てしまうこともあります。
土地の購入費や建設費用は、ほとんどの場合は銀行からの借り入れです。借入金は早く返さないと金利が負担になってきます。そこで土地購入を決めたらなるべく早くマンションを完成させ、竣工時には完売させたいと思っています。早い建設と早い完売が理想なのですが、現実にはそんなに上手くはいきません。
ゼネコンの憂鬱
多くの大手ゼネコンは、民間のマンション工事を歓迎していません。官庁工事に比べて価格が低く、注文が多く、アフターサービスに時間とお金がかかるからです。民間のマンション工事は、単に工事を管理すればよいだけではありません。購入者が希望する設計変更の対応、内覧会の立ち会い、その後のクレーム対応などがあります。仮に2000万円の利益が出たとしても、漏水事故が1回起これば(規模や内容にもよりますが)、調査や補修であっという間に2000万円ぐらいは消えてしまいます。民間のマンション工事をゼネコンは「手離れが悪い」と言って、あまり歓迎しない傾向にあるのです。
もちろんスーパーゼネコンであっても、民間工事をメインに扱っている会社もあります。そういったゼネコンの中でも、分譲マンションは人気が高い工事とは言えません。民間の工事と言っても企業の工場、社員寮、賃貸マンションなどさまざまな工事がありますが、これらはオーナーが1社か1人です。しかし分譲マンションは400戸あれば400人のオーナーがいるわけで、設計変更の対応やアフターサービスが煩雑になりやすいのです。ゼネコンの現場所長にとって、分譲マンションの工事はなるべく避けたい工事と言えるでしょう。
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デベロッパーが造りたいマンション
銀行の借入金があるため、とにかく早く返済したいと考えるのは当然です。そのためデベロッパーは早く売れるマンションを造りたいと考えます。早く売るためにお洒落なデザインを求めたり、豪華な雰囲気を造り出したり、他にはないマンションを演出するために知恵を絞ります。どんなに立派なマンションでも売れなければ意味が無く、しかも早期に売り切らなくては利益がどんどん減ってしまうのです。
私がデベロッパーにいた時に、竣工後も売れ残りがあり1年以上も販売を続けている物件がいくつもありました。そういう物件は金利はかさみ、広告宣伝費や販売員の人件費などが出ていく一方で、プロジェクトの収支表を見ると今月中に完売しても利益が数百万円という厳しい物件もありました。そういうマンションで大きなクレームが発生すれば、利益が吹き飛んでしまう可能性があります。こういう事態は、どのデベロッパーも避けたいと考えています。
ゼネコンが造りたいマンション
とにかくクレームが出ないマンションを造ることが重要になります。引き渡してから何年経ってもクレームで呼び出されるのは、ゼネコンにとって金銭的にも時間的にも負担になります。そのため特殊な形状や材料を使った工事は避けたいですし、マンションの形状もなるべくシンプルなものを望みます。複雑な形状になればなるほど、施工ミスやトラブルが起こりやすくなるからです。ゼネコンにとって利益はもちろんですが、その利益を食いつぶしてしまうクレームが出ないようにすることが重要なのです。
上記のようにデベロッパーは早く売りたいので、個性的なデザインのマンションを求める傾向にありますが、ゼネコンはシンプルなデザインを求めます。早く売りたいデベロッパーと、クレームを避けたいゼネコンの思惑は一致せず、1つのマンションを建設しながら目的が全く違っているのです。
工事費が合わなくても受注するゼネコン
ゼネコンは自ら作った見積書よりも、安い金額で民間マンションを受注してしまうことがあります。もちろん工事を行うと赤字になるのですが、それをわかっていて受注してしまうのです。なぜそんなことをするのかというと、公共工事の入札のポイントに完成工事高(通称、完工高)が関係するからです。
完工高はどれだけの工事を受注して完成させたかを金額で表した数字です。入札資格に必要な総合評点は、年間の完工高や自己資本額、職員数などの数字から求められます。そのため工事の受注が減って完工高が足りなくなると、赤字覚悟で受注を増やしてしまうのです。ゼネコンにとって、確実に利益を得られるのは公共工事です。公共工事の入札資格を失うわけにはいかないので、こうした無理が行われるのです。
赤字受注や赤字スレスレで受注した場合、ゼネコンがなるべく余計な費用を掛けたくないと思うのは当然のことです。さらに現場に入る業者も、施工能力より金額が安いところを使おうと考えます。その結果、物件の難易度と業者の施工能力のミスマッチが起こることがあります。
デベロッパーとゼネコンのすれ違い
デベロッパーはマンションを早く完成させたいと思いますが、ゼネコンは突貫工事になると余計な人件費がかかるので適正な工期を求めます。デベロッパーはインパクトがあって宣伝しやすいマンションを求め、デザイン性の高いマンションを建てたいと思いますが、ゼネコンはクレームが少ないマンションを求めるのでシンプルなデザインを求めます。ゼネコンにとってマンションが売れるか売れないかは関係ないですし、デベロッパーはクレームが起きても保証期間内であればゼネコンが費用を負担してくれるので深く考えません。両者はマンションを建てるという同じ目的を持ちながら、マンションに求めるものが全く違うのです。
まとめ
このようなすれ違いは、欠陥マンション問題の一因だと私は考えています。目的が異なる人達が数十億円の費用を掛けてマンションを建てるのですから、デベロッパーにいた私にとって、どうしてもゼネコンと波長が合わないことがありました。デベロッパーもゼネコンも互いの目的が違うことを理解して、互いの立場を考えながら仕事を進めるべきなのですが、デベロッパーの担当者が自分たちの論理を押しつけるようなプロジェクトでは問題が噴出します。
そしてデベロッパーによっては、建設業界に明るい人が社内に全くいないため、これらのことを理解しないまま仕事が進むケースがあります。大手デベロッパーは建設業界出身者を多く雇用しますが、小規模のデベロッパーではそこまで余裕がないケースがほとんどです。そして困ったことに、建設する過程で迷走したマンションも完成してしまえば立派なマンションに見えるのです。これがマンションを見分けることを難しくしています。