冠水は武蔵小杉のタワマンだけの問題ではない

2019年10月12日から13日にかけて、台風19号が首都圏を中心に大きな被害をもたらしました。特に注目されたのは神奈川県川崎市中原区の武蔵小杉駅周辺で、駅周辺が水没した映像が衝撃的に伝えられました。武蔵小杉駅周辺はタワーマンションが建ち並び、リクルートが行っている住みたい街ランキングでも上位の常連でした。今回はこの冠水の原因とともに、この問題は武蔵小杉だけでなく日本あらゆる街で起こりえる話だということを書いていきたいと思います。

武蔵小杉の立地

武蔵小杉一帯は、明治・大正は田園地帯でした。多摩川の水利を活かせる低地で、水が溜まりやすいことから田園に適していたと言えます。しかし昭和2年に南部鉄道、昭和4年に横須賀線が開通すると、多摩川の水利を活かして工場が建設されるようになります。多摩川周辺には富士通、NEC、三菱ふそう、東京機械製作所などが次々に工場を建設するようになりました。

※南部線が開通した頃の武蔵小杉

しかしバブル景気崩壊後に、これらの工場が移転や撤退が始まり、川崎市は武蔵小杉駅周辺の再開発を行いました。95年にランドマークとなる高層ビル「武蔵小杉タワープレイス」を建設すると、2000年以降はタワーマンションが次々に建設されるようになりました。かつての田園であり工場地帯であった武蔵小杉周辺は、再開発によって地価が向上して人気のエリアになっていきました。

武蔵小杉の冠水の原因

武蔵小杉周辺では雨水を多摩川に排水するようになっていたのですが、急激な雨で多摩川の水位が上がったため、雨水が逆流したため街中に水が溢れることになりました。多摩川から武蔵小杉駅まで約800mと近いため、逆流も急激に起こったと思われます。

多摩川への最終的な排水口には水門が設けられていて、水門を閉じることで逆流を防ぐことができました。しかし水門を閉じると街中に溜まった水を排水できなくなるため、あえて閉じなかったそうです。そのため多摩川の水が逆流して溢れることになりました。あえて水門を閉じなかったことについては、専門家の間でも賛否両論のようで、ギリギリの判断だったことが伺えます。

ハザードマップを見る

被害にあったパークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワーの周辺をハザードマップで見ると、家屋倒壊等氾濫想定区域に指定されているのがわかります。家屋倒壊等氾濫想定区域とは、家屋の倒壊・流失をもたらすような堤防決壊に伴う激しい氾濫流や、河岸侵食が発生することが想定される区域を指します。さらにこのエリアは、多摩川に2日間で588mmの雨が降った際に、0.5m〜3mの浸水があると予想されています。

※小さい○で囲まれているエリアが家屋倒壊等氾濫想定区域

このエリアの浸水継続時間を見ると、浸水が0.5mを超えてから0.5m未満になるまで12時間続くと予想されています。またその周辺には、浸水が4週間未満と予測されているエリアもあります(紫色の部分)。これを見る限り、このエリアは住宅を建てるにはふさわしい場所とは言えないようです。

※水色部分が12時間未満の浸水

1時間あたり60ミリの排水量の壁

多くの場合、公共の雨水排水は最大で1時間あたり60mmの雨(60mm/h)にまで対応しています。平成19年8月に東京都が出した「東京都豪雨対策基本方針」に長期見通しとして概ね30年後を目処に「おおむね時間60ミリの降雨までは浸水を解消。おおむね時間75ミリの降雨ま では床上浸水等を可能な限り防止」と書かれています。

しかし10年ほど前からゲリラ豪雨と言う言葉が、メディアで頻繁に使われるようになりました。降雨時間は15分程度で20mmの降水量といった、短時間で集中的に降る雨のことです。15分しか降らないので、この場合の降雨量は20mm/hになります。しかしわずか15分で20mmの雨が雨水枡に流れ込むので、実質的には60分÷15分=4で20mm×4=80mmになり、80mm/hの雨が流れ込んだのと同じような状態になります。そのため雨水枡から雨が溢れてしまうのです。

マンションの排水をどれほど良くしても公共の排水が60mm/hまでしか対応していなければ、マンションが排水した雨水が公共枡から逆流して雨水が溢れることになります。

武蔵小杉タワマンのトラブル原因と対策

武蔵小杉のタワーマンションは11棟ありますが、そのうち2棟が停電になりエレベーターの使用、給水ポンプの停止により断水、下水処理施設も停電のためトイレも使えなくなりました。この2棟は地下に電気室があったため、電気室が浸水して使えなくなったのです。復旧に時間がかかり、その間は住民が不自由を強いられることになりました。

当時は地下室に浸水させない対策が必要という意見が多く出ていましたが、武蔵小杉駅周辺のように3mもの浸水が予想されるエリアで地下への浸水を遮断するには、扉を潜水艦のハッチのようなものにしなくては水圧に耐えられません。あまりにも非現実的で、実現は難しいでしょう。

もっと現実的な案としては、機械室や電気室を上階に設置することです。しかし上階に設置するということは本来は住戸に使えるスペースを共用部にすることになり、販売戸数が減少するため各戸の販売単価が上昇することになります。この価格上昇を購入者が受け入れられるかどうかが、大きなポイントになると思います。

そして何より重要なのは、冠水することが予想されるエリアに住宅を建設しないということではないでしょうか。

あちこちで起こりうる冠水

各地域でハザードマップが作られているので、それを見ると冠水するエリアが多いことがわかります。今自分が住んでいるマンション、そしてこれから購入しようとしているマンションのハザードマップを確認することをお勧めします。想定される浸水が一目でわかるので、対策を立てることが可能です。

※土嚢袋

50cm程度の浸水であれば、土嚢袋を用意することである程度の対応も可能です。どのタイミングで誰がどこに並べるかなど、事前に決めておくのです。しかし数メートルも浸水するエリアであれば、浸水を前提に対策を考える必要があります。大雨が予想される前に地下駐車場から車を避難させる、電気室がある場合は停電を前提にした対策を立てておかなくてはなりません。

またエレベーターは、マシンレスの場合はエレベーターピットが浸水すると一時的にエレベーターが停止します。水が引けば動き出しますが、最深部に制御盤等がある古いタイプのエレベーターは、漏電等の故障が起こります。エレベーターが動かない数日間をどのようにするか、こちらも予め考えておく必要があります。

タワマン以外でも起こりうる事態

武蔵小杉の冠水と、それに伴うトラブルはタワーマンションの欠点のように報じられてきましたが、タワーマンションの問題だけではありません。冠水はあらゆる地域で起こる可能性があり、冠水によるトラブルは低層マンションでも十分に考えられることです。

エントランスが前面道路より低いマンションは、豪雨の際にエントランスが水浸しになる可能性があります。また半地下の住戸や地下にトランクルームを設置しているマンションなど、タワーマンションでなくても冠水による被害は十分に考えられるのです。ハザードマップはあくまで想定している範囲で書かれていますが、想定外の出来事が起こるのは東日本大震災で証明済みです浸水対策を考えてなかったという管理組合は、1日も早く対策を話し合うことをお勧めします。

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