東日本大震災 /デベロッパーは何をしていたか?

2011年3月11日に発生した東日本大震災は東北地方を破壊し、首都圏の機能を麻痺させました。地震による甚大な被害を前に、マンションデベロッパーが何をしていたのかを書いてみたいと思います。私は建築系の部署である品質管理室に所属していたので、そこでの話が中心になります。

2011年3月11日地震当日

地震が起こった瞬間、私は山手線に乗っていました。地震により電車は転倒するのかと思うけど傾き、その後1時間以上も閉じ込められます。地震の直後に部下に状況を報告するようにメールしましたが、回線が混線していて返事が返ってきたのは夜になってからでした。携帯電話は不通になっており、部下とも上司とも連絡がつきませんでした。この時、日本国内のインターネットサーバーはパンクしていて、TwitterとFacebookのメッセージ機能を使って多くの人とやりとりができましたが、メールでしかやりとりしていなかった会社と家族は全く連絡ができない状態でした。

私は駅から6時間かけて歩いて帰宅し、家に着いたのはちょうど夜の12時でした。食事をして寝てしまうと、朝の9時に自宅の電話が鳴って起こされました。上司からの安否確認の連絡で、会社に取り残された人達が社員の安否確認を続けているそうでした。その日は土曜日だったので、私はそのまま体を休めることにして月曜日に出社することになりました。

2011年3月14日

日曜日から役員や幹部は今後の対策を協議していたようで、月曜日の朝一番から会議室にさまざまな人が呼ばれていました。販売中のマンション対策、購入者への対応が中心で、グループ企業の管理会社は被害状況の確認と住人の対応が議論されていたようです。

建築部門は建設中のマンションの被害状況の確認に追われていましたが、品質管理室にいる私は、特に急いでやることはありませんでした。電話が繋がらず、マンションの被害状況も分からないため、動きようがないのです。そこでとにかく情報収集を行っていました。

東北支店への支援

グループの管理会社が、救援物資をワゴンに詰め込んで被災地に向かいました。道路の状況も分からないままの出発で、かなり時間はかかったようです。その後、生々しい被害状況を伝えてきました。そこで私がいる品質管理室でも、構造・電気・設備の専門家が現地に向かい、支援体制構築の手伝いをしました。

※破壊された道路

しかし資材も満足になく通信も不安定な状況です。さらに内覧会を終えて引渡し直前のマンションがあることがわかり、被害状況を再検査することになりました。免震構造のマンションで被害はなかったのですが、ダンパーなどの交換を行う必要があり、いつ行うのか、いつ引き渡せるのか?などが議題になりました。

届かぬ資材

建設中のマンションは被害状況を確認し、工事再開がいつからできるか検討が始まりました。しかし東北から来ている職人も多く、家族の安否確認に奔走している人もいて人員の確保が容易ではありません。そして材料が入ってこない事が大きな障害になりました。コンクリートの柱を作るのに鉄筋を使いますが、その際にウルボン筋という少し特殊な鉄筋を使っていました。そのウルボン筋の入荷の目処が立たないのです。他の工場から入荷できないかとゼネコンに質問すると、工事は1箇所しかなく福島だと言います。工場の社長の携帯電話は地震から不通で、生死の確認すらできない状況でした。

それでも数日間電話し続けると、社長本人が電話に出ました。「工場は全壊。工場までの道も崩壊して車が近づけず、社員寮は福島第一原発の半径10km以内の立入禁止エリアにあるので、全員避難所生活です。どうしようもありません!」という事で、ウルボン筋の入荷は絶望的でした。社員の方が無事というのが幸いでしたが、この状況でなんとかしてくれとお願いするわけにもいきません。さらにユニットバスの各メーカーの工場も東北にあり、工場が深刻なダメージを受けている事がわかりました。こちらもいつ入荷できるかわかりません。そこで日本地図をA1サイズに印刷して、各材料の工場がどこにあるか張り出していきました。驚くほど東北に工場が多く、ありとあらゆる材料が入荷できませんでした。

顧客対応

各支店は、入居が決まっている方々に引き渡しの延期の連絡をしていました。反発が予想されましたが、状況が状況だけに、多くの方の理解を得たようです。いつになれば引き渡せるのかすらわからない状況なので説明する担当も心苦しい連絡ですが、多くの方は急いで引渡しを受けるよりも、被害状況を確認して問題があればしっかり修理して欲しいと思っていたようです。

一方で、既に住んでいる方からの連絡もひっきりなしに来ていました。「窓ガラスが割れたので修理して欲しい」「外壁にヒビが入ったので見て欲しい」「機械式駐車場が動かなくなったので修理して欲しい」といった連絡です。しかし業者やメーカーも膨大な仕事を抱えていて、なかなか対応ができずに時間ばかりが過ぎていました。これらの対応は普通なら管理会社がメインになりますが、誰がどこの担当といった話ではなく全社対応という形で、できる人ができることを行うようになっていきます。

放射線問題

福島第一原発の問題が大きくなると、建材の汚染が世間を騒がせるようになりました。東北の建設現場で高い方車線が検出された事が新聞で報じられたのをきっかけに、マンション購入者からの問い合わせが来るようになり、会社として対応を迫られるようになりました。状況を調べるように上から指示が出たらしく、周りの社員が知り合いのゼネコンや業者に何か情報はないか連絡をしていました。報道された建物がどのような建物で、どういう検査をしたのかなどが分からず、どうしたものかと部長が悩んでいたので、私は担当外でしたが新聞に出ている役所に電話してみると、細かく状況を教えてくれました。それを報告すると、私が放射線の担当になってしまいました。

私の放射線に関する知識は、高校の物理で習ったものに毛が生えた程度だったので、専門家の意見を聞く必要になりました。そこで助けてくれたのが、シックハウス問題の時からお世話になっていた(財)北里環境科学センターさんです。担当者のIさんは、北里大学の放射線を研究している教授を訪ねて、さまざまな情報を仕入れては教えてくれました。同時に私は片っ端から文献を読み漁り、今後の対応方法をまとめていきました。当時は放射線に対して社会的にヒステリックな反応が起こっていたため、引き渡すマンションの放射線検査を実施したり、建材がどのような検査を経て納入されるのかを調べていきました。この問題に関しては流言飛語が飛び交い、政府の対応もブレていたためしばらく対応に頭を悩ませることになりました。

壊れたマンションの調査

地震の揺れで壊れたマンションや、液状化の影響でインフラが破壊されたマンションの調査を手分けして行いました。特に東京湾の湾岸部は深刻で、これらの調査には多くの人員を費やしています。調査によってさまざまなことがわかりましたが、できることは限られていました。建材の流通が麻痺していたため、材料が不足していたからです。そこでできることをリストアップし、それらを実施していくことになりました。しかしあまりにできることは少なく、多くの人が歯痒い思いをしました。社員が住むマンションの中にもガラスが割れたり、機械式駐車場が壊れて車を出せないなどのトラブルがありました。しかしそれらはほとんど何もできない状態が続くことになります。

また建設中のマンションも同様で、途中の道路が塞がれていたり余震が続くため、近づくことすらできないマンションもありました。ゼネコンの中には危険な状態の建設現場に近づこうとする者もいましたが、事故が起こることを懸念して近づかないようにお願いしてまわりました。ゼネコンは建材の盗難を恐れていて、私たちに内緒で現場に入った会社もあったようです。

時間を要した震災対応

毎日のように何らかの問題が発覚し、通信網の回復と共に問題の数も規模も大きくなっていきます。しかし混乱は時間と共に、落ち着きと平常を取り戻していきました。やがて物流も普段通りになり、放射線の騒ぎはその後も続きますが、マンション内の放射線を測定するような要望はなくなっていきます。2011年の大半は地震対応に追われましたが、ある程度は落ち着きを取り戻していき、やがて通常の業務に戻っていきました。しかし液状化でインフラが破壊されたエリアや、地震の揺れによって壊れたマンションの復旧には長い時間を要しましたし、その後の対策も簡単にはまとまりませんでした。震災の影響は大きく、長い時間を要することになりました。

特に液状化エリアでもないのにマンションの敷地が地盤沈下した物件や、周囲のマンションは被害がないにもかかわらず自分たちのマンションだけが被害にあった管理組合は、自分たちのマンションに欠陥があったのではないかと疑いました。私たちはこれらのマンションの調査と交渉に長い時間を費やすことになります。

大地震が残したもの

緊急時の連絡に、携帯電話やメールが全く使えないことがわかりました。しかし緊急時の連絡方法を取り入れた会社は、少数ではないでしょうか。地震が起こった際にデベロッパーができることも限られていることがわかりましたし、管理会社は被害が広範囲に渡ると大して機能しないこともわかりました。しかし大手の管理会社であれば他県から応援や増援を呼ぶことが可能なので、被災者救援も地場の小さな管理会社より多くのことができていたと思います。東日本大震災は、地震への備えが重要であることを教えました。しかし今のマンション情勢を見ていくと、必ずしも地震への備えが十分でないように感じます。喉元過ぎればなんとやら、というのは気のせいでしょうか。

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