滋賀県の欠陥マンション裁判を解説します

※問題の大津京ステーションプレイス

2020年3月3日、滋賀県のマンション「大津京ステーションプレイス」(以下大津京)を巡る裁判で、最高裁は上告を棄却しました。マンションの欠陥が争点になったこの裁判は、売主の株式会社大覚(だいかく 以下、大覚)と施工した南海辰村建設(以下、南辰)が10年にも渡って争ってきましたが、ついに決着となったのです。今回から2回に分けて、この騒動を整理して何が問題なのかに迫っていきたいと思います。

事件の概要と少ない情報

ゼネコンの南辰が建設し、デベロッパーの大覚が販売した大津京で数々の欠陥が見つかりました。数々の欠陥はテレビなどでも何度も取り上げられ、目を疑うような酷い欠陥の数々は世間の大きな注目を集めることになります。さらにその欠陥を生み出した南辰が大覚を訴えて裁判に発展していて、それも注目を集めることになりました。大覚が南辰を訴えるなら理解できますが、欠陥を生み出した側が施主の南辰を訴えるのは奇妙に思えます。そしてこの裁判は地方裁判所から始まり、ついには最高裁にまで持ち込まれました。

何度もメディアに報じられていますがトラブルの核心に迫る情報が少ないため、どのように捉えて良いかわかりませんでした。テレビに映し出されているのは、目を覆うような欠陥です。しかしなぜそれが起こったのかという核心部分については、施工会社の手抜きという以外に語られることがほとんどありません。ズボラな施工会社がデタラメな仕事をしただけなのでしょうか。そこで報じられた情報を整理して、何が起こっていたのかを可能な限り推察していきたいと思います。

事件の経緯

2008年 大覚と南辰の間で工事請負契約が結ばれる。
2009年 大覚が引き渡しが決まっている59部屋の検査を行い1350箇所の指摘が出る。南辰は工事代金の支払いを要求し、大覚は指摘項目が補修されていなため代金の支払いを拒否する。
2010年、南辰が工事代金の支払いを求めて提訴する。
2013年、第一審の判決で大覚に工事代金の支払いを命じる。
2019年、控訴審では大覚の逆転勝訴となり、マンションの建てかえ費用など15億円の支払いが南辰に命じられた。

こちらは大覚側の主張が掲載されているサイトですが、だいたいの事件の流れが分かります。
南海辰村建設 大津欠陥マンション訴訟専用サイト

欠陥とされている主な内容

・機械式駐車場の地下に地下水が数十センチ貯まっている。
・屋上に250トンものコンクリートが増し打ちされていた。
・基礎のコンクリートが打ち継ぎで一体化していない。
・14階の室内への雨漏れが酷く、室内にキノコが生えている。
・雨が降る度に警報が鳴り響く。
・汚水による悪臭が酷い。

細かい事も含めると、ここに書ききれないほど多くの症状が出ているようです。南辰はさまざまなことを主張していますが、症状から判断すると南辰の工事が稚拙だったことは間違いないようです。そのため南辰は悪徳 ゼネコン のように語られる事がしばしばですし、大覚は悪徳ゼネコンに戦いを挑む騎士のように言う人もいます。しかし問題はそんな単純なものではないと思います。南海辰村建設は、他でも多くのマンションを建設しています。ほとんどのマンションでこのような工事を行っているならともかく、ここまで酷い事例は他では聞きません。なぜこのマンションで、これほど酷い工事が行われたのかが重要だと思います。

※出典「南海辰村建設 大津欠陥マンション訴訟専用サイト」

関係者を整理する

欠陥マンションの問題には、多くの企業や人物が登場します。そこで関係者を整理しておきたいと思います。大覚は(株)HIROプランニングにマンションの設計を依頼し、それを元に南辰が施工します。工事をするにあたり、設計図の通りに工事が行われているか確認する必要があるので、監理業務委託契約を結びHIROプランニングに依頼しています。それを図示すると以下のようになります。

欠陥マンション騒動で誤解されがちなのは、工事をしたゼネコンと住民の関係です。この図のようにマンションを購入した住民は、売主の大覚と売買契約を結んでいるだけです。ゼネコンの南辰とは何の契約関係にもありません。工事をしたのはゼネコンなのでマンション住民が責任を求めてゼネコンを問い詰める姿が、多くの欠陥マンション報道で見られますが、まず住民が交渉するべき相手は契約関係にある売主、この場合は大覚になります。

関連記事
交渉相手は誰か? /瑕疵担保責任を考える

手直し工事を拒否した南辰

一般的なマンションの工事では、工事が完了すると施主(このケースでは大覚)が竣工検査を行い、施主の指摘内容を施工会社(このケースでは南辰)が手直し工事をしてからマンションを引き渡します。引き渡しは施工会社が鍵を施主に渡し、施主が工事の残金を支払うことで完了します。しかし大津京では、全108戸中、引き渡しが決まっている59戸しか竣工検査を行っていません。

工事が遅れている場合、入居が決まっている部屋から先に仕上げて先に検査する事はあります。ですからこのこと自体は珍しいことではありません。しかし大津京では竣工検査の手直し工事を南辰が拒否しています。これは通常では考えられない事態です。なぜなら工事を終えないと施工会社は工事代金をもらえないので、指摘項目に異議が出たり補修方法で揉めたりする事はあっても、手直し工事を拒否するなんてことは普通は起こらないからです。

南辰が手直し工事を拒否したという事は、この時点で大覚とケンカする覚悟をしていたと考えられます。何が原因かはわかりませんが、南辰が大覚に決定的な不信感を抱いていなければ、施工会社がこのような手段に出ることはありえません。そのため大覚と南辰の間に、大きなトラブルがあったことが想像できます。そもそもゼネコンは、竣工後に住民からクレームが発生するのを最も嫌います。竣工時に利益があっても、クレームが発生すると利益が消し飛ぶことがあるからです。そのため手直しをせずに引き渡すというのは、ゼネコンの対応としては異例中の異例の事態と言えます。

関連記事
マンションデベロッパーとゼネコンのすれ違い

さらにこのことは、竣工検査の手直し工事を終えていないにも関わらず、南辰が工事代金の請求書を送りつけてきたことからも感じられます。南辰は「検査の指摘事項の補修はしない。だけど金は払え」と言っているのです。工事が終わっていないのに工事代金を全額払えという南辰の主張は異常事態中の異常事態で、私がいた デベロッパー ならハチの巣を突いたような大騒ぎになることが必至です。担当者は寝る暇どころか家に帰る間もなく走り回り、その上司、支店、本社の何十人もが倒れるまでドタバタと走り回ることになります。考えただけでゾッとするような事態です。マンションが完成していない。しかも完成させる気もない。購入者に引き渡す期日は迫っているし、工事代金は払えと言って来ている。デベロッパーからすると、悪夢のような状況になります。

それでも入居が始まった

大津京は108戸中59戸しか竣工検査を行なっておらず、共用部の検査も終えていません。そして検査を行った59戸にしても、手直し工事は終えていません。それなのに仮引渡という形で入居が始まりました。これも異常事態です。不動産会社は購入希望者と売買契約を結びますが、その中には完成したマンションを引き渡すことが明記されています。未完成でも引き渡しますなんて書かれた契約書があるはずは無いのです。

大津京は役所から 検査済証 が出ていても、大覚は自身の目で見て手直し工事を要求しているのですから未完成です。その状態で購入者に鍵を引渡し、入居を開始しました。鍵を引き渡さないと購入者から代金を貰えず、資金繰りが厳しくなる状況は理解できますが、未完成のマンションを引渡して代金を受け取る行為はデベロッパーとしてあまりに不誠実です。

私が過去にいたデベロッパーや財閥系のデベロッパーなら、間違いなく引渡しを停止する事態です。約束した日に引き渡さないとなると、解約する人も出てくるでしょうし、手付金を倍にして返さないといけなくなります。また解約しない人でも、住んでいる賃貸住宅の契約が切れるので、仮の住まいを手配しなくてはならなくなります。当然費用も掛かりますが、大覚が主張するように南辰に全て責任があるなら、それらの費用も南辰に請求するべきなのです。完成していない建物を完成していないと知りながら、購入者に引き渡すというのはデベロッパーとして顧客への最大の裏切り行為です。

もっとも、私はメディアに出てきた情報以外を知らないので、何か報道されていない事情があってやむなく引渡した可能性も排除できません。わずかな情報だけを見て判断するのは危険です。なぜ引渡すことになったのかは私が最も知りたい情報の一つですが、確かな情報がメディア等からは発信されていないようです。

住人が置き去りにされた

後に大覚は入居者に対して希望者する人には返金を行ったようですが、そもそも引き渡すべきではない状態だったので、当然のことだと思います。しかし何らかの事情で残っている人もいて、不安な生活を送っていたようです。メディアの取材に答えて、不安な日々を吐露していたのはそのような方だったようです。

裁判は大覚と南辰の間で行われました。住人が大覚や南辰を相手に訴訟を起こしてはいません。住人の中には南辰を相手に訴訟を起こそうという動きもあったようですが、大覚の弁護士から控えるように依頼されたという真偽不明の謎情報もあります。理由はともかく大覚と南辰の間で裁判が行われ、住人不在の裁判が10年にも渡り続くことになりました。

次回に続きます。
滋賀県の欠陥マンション裁判を解説します2

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です