なぜマンションの外壁タイルは剥がれるのか
全国でタイルの剥落事故やタイルの浮きが見つかっています。しっかりと張られたタイルなら浮いたり剥がれたりしないと思われがちですが、そんなことはありません。どんなタイルでも経年劣化によって浮いてきますし、張り方に問題があればどんなタイルでも浮いてしまいます。今回はタイルの貼り方と、なぜマンションの外壁タイルは剥がれるのかについて書いてみたいと思います。
外壁タイルの貼り方
タイルの貼り方は1つではありません。重さや形状などにより、タイルの貼り方はさまざまです。しかし一般的にマンションの外壁には45二丁掛け(よんごにちょうがけ)と呼ばれるタイルか、それに近いサイズのタイルが使われているので、「モザイクタイル張り」と呼ばれる工法が多く用いられています。45二丁掛けとは縦が45mm横が95mmサイズのタイルで、目地を含めて50mm×100mmのサイズになるタイルです。
モザイクタイル張りというのは、この45二丁掛けタイルが3枚×6枚が1枚のシートになっていて、コンクリートの壁に接着用の モルタル を塗ってからシートを貼っていく工法です。18枚が1シートになっているため、効率よく大きな面積を張ることができます。そのためマンションの外壁のように面積の大きい部位では、ほとんどこの工法が使われています。
タイル割りは現場の美学
タイルをキレイに張り付けるために、どのように張っていくか計画を立てることを「タイル割り」と呼びます。45二丁掛けタイルをマンションの壁に張っていくと、どうしても半端なサイズのタイルが端の方に出てしまいます。下図のように左が95mm(目地を入れて100mm)なのに右が55mmだと、どうしてもアンバランスに見えてしまいます。建設現場では、このようなタイル割りを「センスが悪い」と言って嫌います。
片方だけ半端なタイルが入るのは格好が悪いので、両端をカットして同じような長さにする方がセンスが良いということになります。下図のような状態です。それぞれ20mmカットしたタイルを張ると、左右対称になってキレイに見えます。
また壁の両サイドを20mmほど塗って、カットしないタイルを張る方法もあります。下図は壁を上から見た平面図になりますが、このように 左官 屋さんが壁を塗ることでキレイにタイルを割り付けることが可能です。このようにタイル割りにはタイルを割ったり壁を塗ったりして、タイルをキレイに見せる方法がとられるのです。しかしこのタイル割りにこだわるあまり不必要な厚さのモルタルを塗ってしまい、タイル剥落の要因になっていることがあります。
このように半端なタイルが入るのを極力少なくし、タイルが綺麗に割れている(配置されている)ことが施工者の間では重視されます。しかし一般の人でタイル割に目を向ける人は少なく、施工者の自己満足の側面があります。見栄えをよくする事で、剥がれやすい施工をしてしまうのは本末転倒ですが、タイル割に過剰に神経を使って左官工事で外壁を分厚く塗りすぎている例は何度も見てきました。
下地調整モルタル
コンクリートで打設した柱や壁を 躯体 と呼びますが、躯体の精度が悪いと左官屋さんが下地調整モルタルを塗って補修を行います。コンパネ(厚手のベニヤ)で作った型枠にコンクリートを流し込んで躯体を作るため、工業製品のように真っ平らに作ることはできません。そのままタイルを張ればデコボコになってしまうため、必ず左官屋さんがモルタルを塗って平らにするのです。この時、左官屋さんが塗るモルタルを下地調整モルタルと呼びます。この時、塗るモルタルの厚さは躯体の精度によって変わります。
貼付けモルタル
モザイクタイル張りの場合、まず壁にモルタルを塗ってからそこにタイルを貼りつけます。その際に塗るモルタルを貼付けモルタルと呼びます。張り付けモルタルを塗り、しっかりタイルを押しつけることで、タイルを確実に貼り付けます。この下地調整モルタルと貼付モルタルの厚さは、公共工事共通仕様書には25mmまでと書かれています。それ以上の厚さにする場合には、ステンレス製アンカーピンを200mm程度の間隔で打ち、ステンレスのラス網等を貼るように書かれています。
タイルが剥がれる原因
(1)経年劣化
施工ミスがなくても、経年劣化でタイルは浮いていきますし剥がれます。上記のようにコンクリート躯体の上に下地調整モルタル、張り付けモルタル、タイルが張られていますが、熱せられたり冷やされた時の膨張や収縮する幅や動きがそれぞれ異なります。そのため新築の時には密着していたコンクリートとモルタル、モルタルとタイルが年月と共に剥離してくるのです。
(2)下地の厚さ
上記のように下地調整モルタルと貼付モルタルの厚さは25mmまでになっており、それを超える場合はステンレスのアンカーピンにステンレスのラス網を使うことになっています。しかし躯体の精度が悪かったりタイル割りによって、建物によっては30mm以上のモルタルが、ラス網等を使わずに塗られていることがあります。分厚いモルタルを塗ればモルタルの自重で剥がれが起こります。分厚いモルタルを何ら工夫することなくそのまま濡れば、剥がれ落ちるのは当然のことです。
(3)躯体の下地処理
躯体はコンパネで作った型枠に、コンクリートを流し込んで作ります。新品のコンパネは表面がツルツルなので、できあがった躯体の表面もツルツルになっています。そこにモルタルを塗ると、モルタルの付着力が弱く簡単に剥がれてしまいます。また型枠がコンクリートから剥がれやすくするために、型枠にコンクリート剥離剤を塗っています。しかし剥離剤がコンクリート表面に残ったままモルタルを塗ると、モルタルが剥がれやすくなります。
以前はディスクグラインダーにドライカップを付けて、コンクリートの表面を削ってからモルタルを塗っていました。しかしそれだけでは剥離事故が多く起こったため、ウォータージェットを使った超高圧洗浄でコンクリートの表面に傷をつけてからモルタルを塗るようになりました。超高圧洗浄は、タイルの付着力を向上させています。
(4)ドライアウト
下地調整モルタル、貼付けモルタルを塗る際に、下地のコンクリートに急激にモルタルの水分を吸い取られてしまう現象です。モルタルは セメント と水が混ざることで、化学反応を起こして硬化します。しかし短時間で水分を奪われたモルタルは化学反応が不十分で、完全に硬化せずにボロボロと簡単に崩れてしまいます。そうなると、やがてタイルの重みでタイルが剥がれ落ちてしまうのです。モルタルを塗る前に、躯体のコンクリートに十分に水を掛けることでドライアウトを防止できます。
(5)誘発目地
外壁にはひび割れを目地の中に起こすようにする、誘発目地というものがあります。その誘発目地をまたぐようにタイルを張ってしまったため、タイルが剥がれることがあります。誘発目地はシーリングと呼ばれるゴムのような材質で目地を埋めるのですが、中にはモルタルで目地を潰してしまっている悪質なケースもあります。以下の図のように誘発目地をまたいで張ってしまうと、タイルが浮いたり割れてしまうことがあります。
本来は以下の図のように誘発目地の幅に合わせてタイルを張り、シーリングで埋めるようにします。
また、本来は誘発目地を入れなくてはならない部分に目地が入っていないため、タイルが割れて浮いてしまうことがあります。誘発目地は3m内外で入れることが望ましいのですが、外壁一面に全く目地が見当たらないこともあります。これではタイルが剥がれて当たり前です。
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(6)構造スリット
誘発目地と同様に、構造スリットをまたぐようにタイルを張ってしまっているケースがあります。本来はタイルを張らずにシーリング材で目地にしなくてはいけないのですが、見た目が悪いためそのままタイルを張ってしまうケースがあります。
これは施工的に完全な間違いで、スリットは地震の際などに動くようにできているので、スリットにまたがって張られたタイルは割れてしまいます。スリットの幅に合わせてシーリング材で目地を入れるのが正しい施工方法ですが、太い目地があちこちに入るのをデザイン的に嫌う設計者がいます。見た目を気にして性能を落とすのは設計者として間違っていると言わざるをえませんが、施工を知らない設計士も少なくないので案外見かけることが多いのです。
また本来は構造スリットが入るべき場所に入っていないため、タイルが割れてしまっているケースも見られます。
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経年劣化が全てではない
タイルが割れてしまう原因は多種多様です。マンションのタイルが剥がれたり浮いたりした時、売り主の不動産会社や施工会社に相談すると、経年劣化と言われることがほとんどです。しかし上記のように施工不良による場合も多くあるのですが、専門家でなければ本当に経年劣化なのか施工不良なのか見分けることが難しいのが現状です。タイルの浮きなどで、不安を感じたら以下のメールフォームからご一報下さい。