タワーマンションの騒音問題の原因は暗騒音にある

タワーマンションでは騒音問題が多いという人がいます。特に上層階を買った人から「以前のマンションより騒音がする」という声が出ることが多く、これに対しネットでは「タワーマンションの壁はコンクリートではなく、石膏ボードの壁なので音が響きやすい」という専門家(?)の意見が散見されます。しかし石膏ボードの壁だから音が響きやすいというのは、見た目の印象で語っているだけで何の根拠もない話です。タワーマンションで音が問題になりやすいのは、暗騒音と呼ばれる騒音に原因があると私は考えています。

タワーマンションの壁はコンクリートではない

ほとんどのタワーマンションには、コンクリートの壁がありません。建物は柱と梁、そして床で支えられています。では壁はどうなっているかというと、外部に面する壁はALCパネルと呼ばれる「軽量気泡コンクリート」の板を使用しています。そして住戸と住戸の間の壁は、乾式壁というものが使われています。乾式壁は石膏ボードを使った壁で、グラスウールが充填されています。

※参照 吉野石膏webサイトより「スーパーウォールA・WII

コンクリートの壁を使わない理由として、タワーマンションは縦に長いので、軽量化しないと柱や梁が大きくなるという解説もよく聞かれます。もちろんこれも理由の1つですが、タワーマンションは地震の時の変位(曲がり?)が大きいので、コンクリートの壁をつけてしまうと地震の度に壁のコンクリートが割れてしまうことが予想されます。そのため破損しても交換が簡単なALCパネルや乾式壁を使用しているのです。

壁の遮音性能

壁の遮音性能はD値と呼ばれる表記の仕方で表されます。マンションのパンフレットにも壁がD-50などと書かれていることがあります。ネットで遮音性を調べるとDr-50と書かれているのを見かけることもあるかもしれません。乱暴な言い方をするとDもDrも同じ意味です。JIS規格(日本産業規格)で定められているのがDr値で、日本建築学会ではD値になります。D値は数字が大きい方が遮音性能が高くなります。D-50よりD-55の方が遮音性が高くなるのです。

D-50とは80dB(デシベル)の音が発生し、壁を透過したら30dBになる遮音性能です。周波数帯によって音の下がり方はいろいろあるのですが、大まかに言うと壁で遮ることで音が50dB下がるということになります。日本建築学会では集合住宅(マンション)の居室の遮音等級はD-50を1級とし、特級でD-55としています。最近のタワーマンションでは音に関するクレームが多いからか、D-55を採用している物件が多く見られます。

乾式壁はコンクリート壁より遮音性が悪い?

コンクリート壁の遮音性を示す資料は日本建築学会の「建物の遮音設計資料」という本に出ています。コンクリート壁の厚さが150mmの場合でD-50、200mmでD-55程度となっています。ただし「 躯体 の欠き込み等の影響がない場合」と注釈がついています。壁のコンクリートが欠けていたら、遮音性が悪くなるということです。先ほど最近のタワーマンションはD-55と表記されているものが多いと書きましたが、D-55の遮音性をコンクリート壁で得るには厚さを200mmにしなくてはなりません

住戸間の壁の厚さが200mmというのは、なかなかお目にかかれません。180mmというのが最も多いのではないでしょうか。もちろん一部の高級マンションでは見られますし、壁構造という工法を使っているマンションでは200mmを超えることがよくあります。しかしそれほど頻繁に見る厚さではありません。

さらにコンクリートは施工精度の問題が発生します。コンパネと呼ばれる厚手のベニヤで作った型枠にコンクリートを流し込んで壁を作るのが一般的な工法ですが、天候に左右される環境で大勢の人が参加して工事では、どうしても施工誤差が出やすくなります。特にジャンカと呼ばれるコンクリート内の空洞や、コールドジョイントと呼ばれるコンクリートの継ぎ目などが問題になりやすく、これらは遮音性に悪い影響を与えてしまいます。

※型枠

一方で乾式壁は工場で作り検査を受けるので、コンクリートの壁に起こるような施工誤差の問題はほとんどありません。乾式壁の工作精度はコンクリート壁の施工精度とは比較にならないほど高いのです。これらの理由から、乾式壁はコンクリートの壁より遮音性が劣るということは全くないと考えています。このような遮音性能を無視して「タワーマンションの壁は石膏ボードだから音が漏れやすい」と言っている人は、ほとんどが見た目の印象で話しているだけだと思われます。

暗騒音とはなにか

仮に上階の子供の子供が走り回る騒音に悩んでいるとします。子供の足音を騒音測定器で測る時、子供の足音以外の全ての音が暗騒音になります。エアコンの稼働音、外を走る車の音、どこからか聞こえてくるテレビの音、自室内で家族が歩く音など、騒音測定時の雑音のことを暗騒音と呼ぶのです。

騒音測定をする際には、この暗騒音の測定が必須になります。人がうるさいと感じるのは、騒音の大きさだけではなく暗騒音との差が大きな要因を占めるからです。

生活音の大きさだけが問題ではない

ではなぜタワーマンションでは騒音の問題が多く出ているのでしょうか。特に上層階で騒音問題がよく聞かれるという特徴がありますが、そもそもタワーマンションの上層階は静かで暗騒音が小さいのです。マンション外部から発生する騒音は、自動車の走行音、公園や道端での人の話し声など喧噪と呼ばれる人々の生活音があり、これらが暗騒音になります。タワーマンションの上層階は下層階に比べて、これらの音の発生源から遠く離れているので音が届きにくいので、暗騒音が小さくなります。タワーマンションの高層階に行ったことがある方なら、町の喧噪がほとんど耳に届かず静かな印象を受けたことがあるでしょう。

暗騒音が50dB(一般的に静かな部屋と言われる程度の騒音)の部屋で、60dBの音(普通の話し声と言われる程度の騒音)が聞こえたとします。その差は10dBで、さほどうるさいと感じるほどではないと思います。しかし同じ60dBの騒音であっても暗騒音が30dB(洋服を着る音が聞こえるほどの静寂)の部屋だと、その差は30dBにもなってしまい、かなり耳障りな音になります。タワーマンションの上層階は特に暗騒音が小さいため、同じ騒音でも下層階よりはるかに耳障りになってしまうのです。

以前の生活環境も影響する

100dBもの爆音(鉄道のガード下の騒音レベル)ならどんな環境でもうるさいと感じますが、一般的な生活音は他との比較でうるさく感じるレベルが変わります。例えばそれまで住んでいた家が繁華街の駅の近くにあるマンションだった人と、閑静な住宅街に住んでいた人では、同じ騒音を聞いても感じ方は全く違います。それまで絶えず大きな生活音を耳にしていた人は、新しいマンションで車の音が聞こえてもさほど気にしないかもしれません。しかし閑静な住宅街に住んでいた人が絶えず車の音が聞こえるとなると、うるさいと感じてしまいます。同じ騒音を聞いても以前の環境と比較してしまうので、感じ方が全く違ってしまうのです。

また耳の良さは個人差が大きいですし、神経質な性格かどうかも影響してきます。同じ音を聞いても人それぞれで感じ方は違いますし、それを不快かどうかも異なります。そのため騒音は対策が難しい課題で、ある人には効果的でも他の人には全く効果がないということが起こります。集合住宅ではタワーマンションに限らず、騒音の問題は大なり小なりで起こることだと考える必要があります。そしてタワーマンションの上層階は暗騒音が小さいため、他のマンションよりも騒音が気になりやすい環境になっています。

完全に音を遮断すると不安になる

では完全に騒音を遮断すれば、誰しも騒音に悩むことがなくなると思われるかもしれませんが、そうなると今度は落ち着かない部屋になるのです。音響実験室には無響室と呼ばれる反響が全くない部屋があり、外部からの音も完全に遮断されています。ここに入るとほとんどの人は静かすぎて落ち着かなくなり、不安に感じて無意味に声を出したり、手を叩いて音を聞こうとしてしまいます。人は絶えず騒音を聞き続けているので、それが全くないと何かが欠落したような不安を覚えてしまうのです。無響室で寝泊まりすることになったとしても、寝られなくなる人の方が多いでしょう。

ある程度の暗騒音は必要ですが、それがどの程度がちょうど良いかは個人差が大きいのでなんとも言えません。それが騒音問題の難しさで、複数の人が同じ場所に住んでいるマンションでは騒音問題が起こるのは必然とも言えるのです。一方でタワーマンションの乾式壁を、騒音の原因だと決めつけるのが多い風潮には疑問です。

まとめ

騒音問題を売り主や施工会社に訴えても、何も解決しないことが多々あります。彼らが言っていることが正しいのか、それとも問題があるのを隠しているのか判断に困った場合は、以下のメールフォームからご連絡下さい。第三者として客観的な見解を述べさせて頂きます。

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