時に騒音は事件に発展する /泥沼化すれば身の危険もあり得る

コロナ禍でリモートワークが増えてから、マンションの騒音問題が増えました。この時期は一戸建てでも近所の騒音問題が出ていたようで、普段は家にいない人達が自宅にいたことで、思わぬトラブルに発展した例も少なくなかったようです。そこで今回は事件に発展した騒音問題の例を挙げるとともに、どのように対応すれば良かったのかを考えてみたいと思います。

ピアノ騒音殺人事件

マンションの騒音問題を語る際に最も有名なのは、1974年(昭和49年)8月に神奈川県で発生したピアノ騒音殺人事件です。この事件では3人の方が亡くなり、騒音が殺人事件にまで発展することから社会的に大きな影響を与えました。

事件の概要

県営住宅の神奈川県営横内団地で事件は発生しました。加害者Oは、朝7時過ぎに階下からのピアノの音で目を覚まします。これまで9時過ぎにならないと鳴らなかったピアノが早朝から鳴らされたことから、階下の住民が自分への嫌がらせのために子供にピアノを弾かせていると感じました。怒りを抑えられなくなったOは、予め犯行のために購入していた包丁、サラシ、ペンチを用意します。包丁は刺殺のため、サラシは包丁で殺害できなかった際に絞殺するための武器として、ペンチは警察への通報を妨害するために電話線を切断するためでした。

Oは階下の父親が出勤するまで待ち、電話線を切断してから母親と次女が外に出た隙に室内に侵入してピアノを弾いていた長女を刺殺しました。その後も室内で待ち伏せし、次女を襲い殺害しました。その後、マジックで襖に「迷惑をかけるんだからスミマセンの一言位い言え。気分の問題だ」などと書き、さらに帰ってきた母親を刺殺しました。Oは部屋を出る際に隣人に姿を見られたため、オートバイで逃走しています。その後、タクシーや電車を使って東京都内に野宿をしながら潜伏し、民家に侵入して服を盗んでいます。しかし逃走に疲れたのか平塚署に出頭して逮捕されました。

事件の背景

Oは国鉄(現在のJR)の職員でしたが、売上金を持ち逃げして逮捕されて解雇された過去があります。その後、親戚の鉄工所で働いて結婚もしています。しかし夫婦住み込みで住んでいた社員寮で、寮生の生活音などに激昂して何度もトラブルになっています。さらに妻への暴力も多く、妻は何度も離婚を考えたようです。

1970年にOは妻と共に、事件の舞台となった県営団地に引っ越して来ました。その数ヶ月後に、被害者一家が下階に引っ越して来ています。しかし引っ越しの挨拶がなかったことから、Oは失礼な家族だと感じるようになり、さらにOは団地内で孤立気味になったのに対し、被害者家族は住民達と仲良くやっているのを見て、被害者家族が自分の悪口を周囲に言っているのではないかと考えるようになります。

その後、被害者家族が日曜日大工を始めたため、その騒音がうるさいと感じるようになり、さらにドアの開け閉めなどの生活音が酷いと怒鳴り込むようになりました。さらに1973年11月に被害者家族がピアノを購入し、長女が弾くようになると、自分が在宅している時にはピアノを弾かないで欲しいと申し入れています。しかし在宅時にもピアノの音が聞こえることが続いたため、Oは嫌がらせのためにピアノを弾いていると感じるようになりました。

1973年7月、Oは偏頭痛と耳鳴りが始まり仕事を辞めています。生活にも困窮し、自暴自棄になると同時に階下の家族が自分を殺すのではないかという被害妄想に囚われていきます。そして殺害のための道具を買い揃え、犯行の機会を伺うようになりました。Oの妻は離婚の相談のために実家に帰り、Oは自宅で1人で反抗計画を練っていきました。この事件では犯人のOが心神喪失だったかが争点になりましたが、裁判では計画性が高いことから正常な判断ができたとして認めませんでした。

大東市女子大生殺害事件

近年発生した騒音が原因の事件として、社会に衝撃を与えたのが大阪府大東市の事件です。

事件の概要

2021年4月28日、大阪府大東市のマンションの3階に住む21歳の女子大生の部屋で事件は起こりました。階下に住む48歳の男性Kが、まず3階の部屋の玄関にストッパーをつけてドアが開かないようにしたうえで、自室に戻りバルコニーからロープをつたって3階の部屋に侵入しました。Kは21歳女子大生をバールで殴り、120箇所以上を包丁で刺して殺害しています。その後Kは自室に戻ると自室に放火し、一酸化炭素中毒で死亡しました。

事件の背景

Kは島根県出雲市の高校を卒業した後、畜産関係の仕事に就いています。その後、いくつかの仕事に従事していますが、どれも長続きしなかったようです。その後、親戚を頼って大阪に出てきて、家具工場の配送ドライバーとして働いています。しかしそこも突然辞めて、今度はビルメンテナンスの警備員の仕事をしていました。職場の評価は無口で真面目だったということです。

かなり神経質な面があったようで、以前住んでいたアパートでは「隣の住人が聞き耳を立ている」と管理会社に苦情を言っており、日記には「隣の住人に見張られている」「ユニットバスに入ると隣の人に聞き耳を立てられる」と書かれていたようです。さらに管理人に「隣人から嫌がらせを受けた」と告げて、2015年6月に事件が発生したマンションに転居しています。

今回の事件では、木の棒の先に包丁を括り付けて自作の槍を製作したり、手袋を購入していることから計画的な犯行であることがわかっています。Kの親族によると生活音に敏感になっていたそうで、上階からの騒音が原因と考えられますが、実際にトラブルになっていた証拠はありません。また殺害の道具に関しては、4月上旬からホームセンターでコツコツ買い揃えていたことがわかっています。警察は一方的な被害妄想により犯行に至ったと見ています。

関連記事
大東市女子大生殺害事件 /窓からの侵入は要注意

宇都宮・猟銃殺傷事件

この事件はマンションではなく戸建て住宅ですが、騒音が原因とされている悲劇的な事件なので取り上げたいと思います。

事件の概要

2002年7月4日、栃木県宇都宮市の住宅街で、近所の布団を叩く音がうるさいと激昂したT(62歳)が、自宅ベランダで布団を叩いていた主婦のKさんを自宅の庭から散弾銃で撃ちました。TはKさん宅のガラス戸を撃って侵入し、2階で苦しんでいるKさんを見つけると5発の銃弾を浴びせました。隣に住むKさんの義妹が何事かと勝手口から入ってくると、Tは義妹にも発砲しました。

ただならぬ気配に近隣住民が110番通報を行い、警察がKさん宅に駆けつけたところ銃声が響きました。そこで警察が宅内に入ったところ、瀕死の女性2人に銃口を加えて足で引き金を引いて自殺を図ったTを発見しました。部屋中一面に血痕が広がっており、凄惨な現場だったそうです。

事件の背景

Kさんの夫とTはともに某自動車メーカーに勤務しており、1978年に会社の斡旋で両者とも住宅を購入しています。家のサイズはほぼ同じで、両者の一人息子が同じ学校に通っていたことから家族ぐるみの付き合いをしていたようです。しかし付き合いが長くなると遠慮がなくなり、Tの妻が勝手にKさん宅の冷蔵庫を開けたりポストのハガキを盗み見るなどしたことから諍いが起こり、絶縁してしまいます。

その後、両家は不仲なまま意地の張り合いを続けていて、どちらかが車を買い替えたら張り合って買い替えたりするなどがあったようです。しかしTの妻が脳梗塞に倒れ、車椅子生活を送るようになってから事態が悪化します。Tは退職して妻の面倒を見るようになりますが、Kさんが昼頃にベランダで布団を叩く音に文句を言うようになり、何度も文句を言うようになります。さらにKさんがゴミを出す時にTが車で轢こうとしたと警察に通報しています。警察は捜査しますが、そういった事実を確認することはできませんでした。

これ以降、Kさん宅からは数十回に及ぶ110番通報がありましたが、その度に警察は両者を嗜めていたようです。そして2002年、Tはクレー射撃を始めます。妻の介護をしながら、空いた時間にできる趣味を持ちたかったと言っていたそうです。もちろん指定された講習会を受講し、公安委員会の許可を得て散弾銃を購入しています。そしてこの銃が犯行に使われました。

なぜ大きな事件に発展するのか

ここに挙げた3つの事件は殺人事件にまで発展した極端な例なのですし、加害者が精神的に不安定だったことが要因になっているものもあります。そのためこの3例だけで考えると極論になってしまいかねません。そこでここまでいかなくとも大きな騒動に発展する例も含めて考えると、ある程度の傾向が見えていきます。

①冷静な話し合いができない

感情が優先するため、最初は冷静な話し合いをしていても、やがて大声で怒鳴るようなことになってしまいます。こうなるとさらに感情が拗れてしまい、収集がつかなくなることがあります。可能なら第三者を挟んで、冷静な話し合いをするようにしなくてはなりません。第三者はマンションなら管理会社や管理組合の理事などにお願いできるなら良いでしょう。

また話し合いをシャットアウトしてしまうと、後の裁判で不利になることがあるようです。そのため話し合いは行うべきですし、話し合いの内容は録音しておくことをお勧めします。

関連記事
マンションの騒音問題を解決する5つのステップ
相談事例 管理会社が騒音問題に対処してくれない

②問題を抱え込まない

騒音問題では一方的に被害を訴えられ、有無を言わさぬ勢いで文句を言われることがあります。また被害を訴えても強く反論されたり、のらりくらりとかわされてしまい、なんら問題が解決しないことが多くあります。その際に、問題を1人で抱え込んでしまうケースが多く見られます。家族に相談しても真剣に聞いてもらえなかったりすると、八方塞がりになってしまうのです。

友人などに相談できて愚痴を言ってスッキリすればまだ良いのですが、1人で悶々と考えているとストレスを抱え込んで鬱になってしまう人もいます。そうならないためにも相談できる相手を見つけることが重要です。特に騒音が原因で嫌がらせなどが始まった場合は、警察への相談や法律家への相談も早めに行うと良いでしょう。警察は事件にならないと相手にしてくれないと言う人がいますが、相談実績を作っておくだけでも有効です。また法律家への相談は、法テラスの利用するのも良いでしょう。弁護士の無料相談もありますし、初回は1時間で数千円程度のところが多いので、専門家の相談を仰いでおきましょう。

③話を大きくしたくないと考える

同じマンションの住民のトラブルは、これからも一緒に住み続けるので話を大きくしたくないという心理が働きます。しかし相手が糾弾する気でいるので、なんら抵抗がないと相手がこちらの言い分に納得したと考えます。主張するべきところは主張するべきですが、それができないケースは第三者の助けを得る必要があります。

そこで上記の警察や法律家の助けを得ることになるのですが、こんなことで警察に相談しても良いのか?警察に相談するなんて大袈裟ではないか?と考える人も多いようです。しかし恫喝されたのなら脅迫罪の可能性が高いですし、ゴミを撒かれたりドアを傷つけられたりすれば器物損壊罪の可能性も出てきます。警察に相談記録を作っておくだけでもその後の対応が違ってきますので、嫌がらせが始まったら警察に相談するべきだと思います。

まとめ

騒音が原因で大事件に発展した例を3件紹介しました。こういった問題に絶対的な対応方法はありませんし、ケースごとにさまざまな対応が必要になることがあります。ここに紹介した内容は、あくまでも参考として考えてください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です