マンションの騒音問題を解決する5つのステップ
マンションでは騒音問題が発生しやすく、多くのマンションで騒音に関するトラブルを聞きます。そこで今回は実際に騒音トラブルが発生した際に、どのようにして解決すればよいのかを考えていきたいと思います。
騒音の感じ方は個人差が大きい
何dB(デシベル)を超えたら騒音ですか?と質問されることがあります。確かに条例などで目標値が定められていますが、具体的に何dBが騒音と決まっているわけではありません。時々、環境省の環境基準を持ち出して、環境基準を超えているからダメだという方がいますが、あれは「維持されることが望ましい基準」と書かれており、規制をする数値ではありません。
環境省
・騒音に係る環境基準について
騒音は、その人が不快に感じたら騒音になります。例えば風鈴の音は日本人には涼を感じさせる心地よい音ですが、多くの外国人には不快な騒音と思われます。最近では日本人でも不快に感じる人もいるようです。心地よいと感じる人と騒音と感じる人が混在するマンションでは、風鈴も騒音問題になることがあります。
これは聴力や性格によるものもありますが、新築マンションの場合などでは住民が以前住んでいた場所も影響します。繁華街の駅の近くから引っ越してきた人と閑静な住宅街から引っ越してきた人では、同じ騒音を聞いても感じ方は全く違います。それまで絶えず大きな生活音を耳にしていた人は、新しいマンションで車の音が聞こえてもさほど気にしないかもしれません。しかし閑静な住宅街に住んでいた人が絶えず車の音が聞こえるとなると、うるさいと感じてしまいます。
このように騒音は個人差が大きく、同じ音であっても騒音と思う人と思わない人がいるのです。そのため問題が生じやすく解決しにくい問題になっています。
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知っておくべき暗騒音
仮に隣の部屋から聞こえる子供の声による騒音に悩んでいるとします。子供の声を騒音測定器で測る時、子供の声以外の全ての音が暗騒音になります。エアコンの稼働音、外を走る車の音、どこからか聞こえてくるテレビの音、自室内で家族が歩く音など、騒音測定時の雑音のことを暗騒音と呼ぶのです。
暗騒音が50dB(一般的に静かな部屋と言われる程度の騒音)の部屋で、60dBの音(普通の話し声と言われる程度の騒音)が聞こえたとします。その差は10dBで、多くの人がうるさいと感じるほどではないと思います。しかし同じ60dBの騒音であっても暗騒音が30dB(洋服を着る音が聞こえるほどの静寂)の部屋だと、その差は30dBにもなってしまい、かなり耳障りな音になります。同じ大きさの騒音であっても、暗騒音との差が大きければ大きいほどうるさいと感じるのです。この暗騒音は、後述する騒音測定の際にも重要になります。
騒音を出している人の大半は自覚がない
一部の例外を除けば、他人に迷惑をかけてやろうと騒音を出している人はいません。自分にとって非常識だと思える音を出していても、その人にとっては受忍限度を超えるような音だとは思っていないことがほとんどです。つまり悪気はないのです。それどころか騒音を出さないように気をつけて生活していることもあります。先ほど書いたように騒音と感じる音は個人差が大きいので、ある人にとっては騒音でも別の人にとってはかなり静かな音と思っていることがよくあります。
騒音問題を管理会社に相談すると、掲示板に音に配慮するような文書を掲示したり、全戸に文書を投函することがあります。これらの方法はあまり効果がないと言われていますが、それは騒音を出している人が自分のことだとは思わないからです。ましてや本人が大きな音を立てないように気を使って生活していたら、自分の生活音が他人に迷惑をかけているとは想像もできません。
そうやって騒音を立てないように生活している人が、いきなり壁や天井を「うるさい」と言わんばかりにを叩かれたり、あるいは突然の訪問を受けて静かにするように注意されたらどう感じるでしょうか?言いがかりをつけられた、難癖をつけられたと感じてしまいます。騒音問題がややこしい人間関係のトラブルに発展するのは、このような背景があるからです。
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騒音の発生源を決めつけない
上の部屋で子供が飛び跳ねているとか、隣の部屋が日曜大工かなにかをやっていてうるさいという話をよく聞きます。しかし本当にそれは上の部屋や隣の部屋の音でしょうか。実は違っていることがよくあります。私はリフォーム工事に何度も立ち会っていましたが、クロス張りしかしていないのにドリルの音がうるさいといったクレームを受けることがありました。クロス張りですからドリルは使っていません。調べると違う部屋でキッチンの修理をやっていました。
なぜこのようなことが起こるかというと、マンション内の騒音は固体伝播音として伝わることが多いからです。固体伝播音とはマンションならコンクリートの壁や床を振動させて伝わる音で、振動はあちこちに広がるため、どこから音が鳴っているかわかりにくいのです。真上の部屋が騒々しいと思っていたら、その隣の部屋が騒音の発生源だったということは珍しくありません。そのため騒音トラブルの話を聞くと、「家族が出かけて一人でソファに座って新聞を読んでいたら、突然子供が走り回ってうるさいと文句を言われた」と怒っている人がいたりします。身に覚えのないことで突然怒鳴り込まれ、感情的になってトラブルに発展するケースは珍しくありません。
裁判事例(平成19年10月3日 東京地裁判決)
マンション上階の幼児が起こした騒音で、下階の住人に精神的苦痛を与えたとして損害賠償請求が認められました。原告Aさんは平成8年にこのマンションを購入して住んでいました。しかし被告Bさんが平成16年にAさんの直上の部屋を購入してから、Aさんは騒音問題に悩むようになります。幼児が走り回ったり飛び跳ねる音が響くようになったのです。このマンションは昭和63年竣工で、当時の基準からしても遮音性能がやや劣っていました。
Aさんは管理人に相談し、管理組合の理事会でもこの問題が取り上げられます。そして理事会は管理組合名で全戸に騒音に配慮するよう依頼する文書を投函しましたが、Bさん宅からの騒音は変わりませんでした。そこでAさんはBさん宅に騒音に配慮してもらえるように、手紙を投函します。すぐにBさんから返事の手紙が届きますが、内容はAさんが天井を物で突いたりする行為を批難するものでした。
AさんはBさん宅に出向き話し合いを行いますが、Bさんは乱暴な口調で話し合いを突っぱねました。そこでAさんは理事会に再度相談し、さらに警察にも相談します。何度か警察官が尋ねてきますが、解決には至りませんでした。理事会は何度も騒音に配慮するよう文書を掲示しますが、こちらも効果がありませんでした。
Aさんは騒音測定器を購入して、騒音の測定を始めます。その結果、Aさんの部屋の暗騒音は27dBから29dBで、騒音は50dBから65dBになり、それが深夜にまで及ぶことがあることがわかりました。またBさんの子供が保育園に通うようになると、その間は騒音が発生しませんでした。これらのデータを元にAさんは騒音の指し止めと損害賠償を求めて調停をBさんに求めましたが、Bさんは拒否しました。そこでAさんは損害賠償請求権を元に提訴しました。
判決はで騒音の原因がBさんの子供であることを認定し「Bは、本件音が特に夜間及び深夜にはA住戸に及ばない ようにYの長男をしつけるなど住まい方を工夫し、誠意のある対応を行うのが当然であり、 Bがそのような工夫や対応をとることに対するAの期待は切実なものであったと理解することができる」として、Bさんに36万円の支払いを命じました。
騒音に悩んだら
上記の裁判は、騒音問題に対するヒントが多く含まれています。そこで実際に騒音に悩んだら、騒音問題を解決する5つのステップを見ていきましょう。しかしその前に、やってはいけないのはうるさいからといって壁や天井を叩いたりすることです。
壁を叩いたりしない
うるさいからと言って、天井や壁を叩くのは止めましょう。ほとんど効果が期待できないうえに、相手を怒らせる方が多いようです。先に書いたように、そもそも本当に直上の部屋や隣の部屋が騒音の発生源なのかはわかりません。それに発生源だとしても、相手は自分なりに音に気を遣っている可能性もあります。よほど気が弱い人なら壁を叩かれれば静かにするかもしれませんが、多くの場合は反感を招く結果になってしまいます。
①記録をとる
継続的に記録をとることは重要です。騒音が何日の何時から騒音が始まり、何時まで続くかというのを記録していきます。上記の裁判では、Bさんのお子さんが保育園に行っている時間は騒音が発生しないことから、騒音の音源がBさんのお子さんだと特定されました。騒音が10日に1回なのか週に6回なのかで印象は変わりますし、時間帯も重要になります。どのような音がいつ発生しているか、記録を続けることが重要です。またその際に、スマホなどを利用して騒音を録音しておくことも重要です。
②管理会社・管理組合に相談
いきなり相手の部屋に行くのではなく、まず管理会社や管理組合の理事会に相談しましょう。最終的に裁判になったとしても、可能な限りの手を尽くしていることが説明できるように、まずは相談することが重要です。最初に書いたように、騒音の感じ方は個人差があります。そのため管理会社や理事会に切実に訴えても、神経質な人と思われることもあります。そこで先ほどの記録や録音を使って、どれほど困っているかを説明しましょう。ここで大事なのは、管理会社や理事会を味方につけることです。
しかし管理組合や理事会でできることは、張り紙や文書の配布ぐらいで、これだけでは効果がないことがほとんどです。多くの場合、騒音を出している人は自分が原因だとは思っていないのですから、仕方のないことです。しかし管理会社や理事会を味方に付けて、アクションを起こしてもらったという事実が重要なのです。
ただし管理会社や管理組合には、騒音問題に対応しなくてはならない義務はありません。管理会社との契約には含まれませんし、管理組合の業務に騒音問題の解決が含まれるかは微妙なところです。もし1つの音源に対して複数の住戸が騒音問題を訴えればマンションが共有する問題として扱わざるをえないかもしれませんが、1人が騒音を訴えているからと言って、理事会が動かなければならないとは管理規約上は言えません。そのため理事会や管理会社に依頼する際には、あくまでもお願いするというスタンスを忘れないでください。管理会社や管理組合の騒音問題に対するスタンスは、以下の記事に詳しく書いていますので、そちらも参照してください。
③話し合いを行う
張り紙や文書の投函で解決しない場合は、直接話し合うことになります。ここで絶対に1人で相手宅へ行かないようにしてください。必ず管理会社の人や管理組合の理事を連れて行くようにしましょう。
話し合いは問題を解決するために行うもので、鬱憤を晴らすためのものでも文句を言うための機会でもありません。ここで喧嘩腰になると、互いに感情を拗らせて問題の解決が遠のいてしまいます。そのため第三者の立ち会いがあった方が良いですし、この時は困っている実情を訴えて協力をお願いするというスタンスが重要です。
繰り返しになりますが、相手は自分が騒音源だと思っていないことが多くあります。いきなり他人が現れて、うるさいから静かにしろなんて言われると、言いがかりをつけられたと思う場合もあります。それにその家が騒音源ではない可能性もあるので、落ち着いた話し合いが重要です。これまでの記録や録音を使って、実情を訴えるようにしましょう。
そして話し合いの内容は、すぐに記録しておきましょう。これが後々に役に立つことがあります。さらに第三者が立ち会うことで客観的に話し合いをみてもらうことが、後に裁判などを行う際に役立つこともあります。
④騒音測定
騒音測定を行うタイミングは、話し合いの前に行っても構いません。しかしちゃんとした騒音測定器は高価ですし、業者を頼むにしても出費は安くはありません。話し合いを行って不調に終わった後でも良いと思います。
重要なのは記録の時と同様に発生日時です。騒音を測定する際には、必ず日時を合わせて記録しておきましょう。そして暗騒音も忘れずに記録しておきましょう。騒音は暗騒音との差が重要です。上記の裁判事例でも、50dBぐらいなら生活に支障が出るほどの大きな騒音とはみなされなかったかもしれません。しかし暗騒音が30dBを切る、かなり静かな環境だったため、50dBの音はかなり響くことがわかりました。
⑤弁護士等への相談
騒音測定をした結果を用いて、再度話し合いを行うのも良いと思います。しかしそれでも解決しない場合は、弁護士などに相談することになります。その際に、これまでの騒音の記録や話し合いの記録、騒音測定の結果を用いて弁護士に説明をします。これら客観的な情報が多ければ多いほど、弁護士も仕事がしやすくなりますので、とにかく記録は丁寧にとるようにしてください。
弁護士に相談しても、すぐに提訴するような話にはなりません。さまざまな提案があるでしょうし、調停になることもあるでしょう。話を大きくしたくないという心理が働くかもしれませんが、ここまで来て解決しなければ、弁護士に頼るのは残された数少ない方法です。信頼できる弁護士を探しましょう。
近所づきあいが最大の対策
騒音問題の対策をいろいろ書きましたが、近所づきあいが最も重要です。騒音を発生していると思われる部屋の人と普段から仲良くしていれば、相談やお願いをするのも容易になります。顔もしらない隣人から騒音のことを言われるのと、普段からつきあいがある人から言われるのでは、心証も随分変わるものです。
これは騒音に限らず、多くの住民間のトラブルにも有効です。マンションは隣人と顔を会わせなくて済むと言う人もいますが、トラブルになった時には大いに役立ちます。また理事会に相談に行く際にも、顔見知りの理事が多い方が話がしやすくなります。管理組合のイベントなどにも積極的に参加して、多くの方と仲良くなっておく方がトラブル解決には有効です。
そしてマンションなど集合住宅の性質上、ある程度の音はお互い様というのを忘れいないようにしましょう。バルコニーのタバコで裁判になった例でも、裁判官は「マンションに居住しているという特殊性から、原告も、近隣のたばこの煙が流入することについて、ある程度は受忍すべき義務がある」と言っています。これも互いを普段から知っているかいないかで、許容できる範囲が変わってくると思います。
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感情的になったら負け
騒音問題が起こったら、感情的になった方が負けやすいです。どんなに騒音で苦しんでいても、いきなり怒鳴り込んでしまえば神経質な変人扱いされることも多く、味方についてくれるはずの人も離れていきます。今回は騒音問題で勝訴した例を挙げましたが、騒音問題を訴えた人が名誉毀損で損害賠償を払うことになった裁判もあります(平成23年10月13日東京地裁判決など)。寝られないなどのイライラが募りますが、決して感情的に対応しないようにしてください。
お気軽にご相談ください
私はマンションデベロッパーのアフターサービスセンターで、このような事例を何度も体験しています。騒音で悩んでいたら、以下のメールアイコンからお気軽にご連絡ください。詳細をお聞きしたうえで、アドバイスをさせていただきます。