S1工法が招いた騒音問題

S1とは住宅都市整備公団(現UR都市機構)が定める断熱工法で、かつては民間の分譲マンションの戸境壁でも幅広く使われていました。しかし今ではほとんど使われていません。確か2003年頃にライオンズマンションの大京で使用が禁止になり、それに各 デベロッパー が続いてマンションでは使われなくなりました。今回は、騒音問題によりS1工法がマンションで禁止になった経緯を書いてみたいと思います。

騒音問題の発生

竣工して間もない都内の物件から「隣の部屋のテレビがうるさい」というクレームがありました。当初は隣の部屋にお願いし、テレビの音量を下げてもらおうとしたのですが、かなり小さな音にしても隣には大きく聞こえることがわかりました。テレビの音が単に隣に伝わっているのではなく、むしろ増幅して伝わっていました。

私には経験のない現象でしたし、施行会社も首をひねるばかりでした。壁越しに隣の部屋に聞こえてくるテレビの音は、かなり小さくなって聞こえるのが普通です。しかしこのケースでは、ほとんど同じ位の音が隣の部屋で聞こえていました。そこで最初に考えられたのが、コンクリートの壁に空洞があって音を増幅している可能性でした。X線撮影機を持ち込み壁を測定しましたが、コンクリートに空洞は見つかりませんでした。

騒音測定器での検査

2つの部屋に協力して頂き、本格的な騒音測定器を持ち込んで検査を行いました。100dBのホワイトノイズ(テレビの砂嵐画面の音)をさまざまな周波数帯で発生させ、隣に伝わる音を測定するのです。耳をつんざくような騒音に、私は耳が痛くなり頭痛もしてきましたが、1日かけてデータを取り終えました。

検査から分かったのは、間違いなく音が増幅されており、隣との仕切りがコンクリートの壁ではなく巨大な太鼓を置いたような状況になっているということでした。しかし太鼓などあるはずもなく、何かが太鼓のような働きをしていることが考えられます。しかしそれが何だかわかりませんでした。

施工会社の研究所にデータを持ち込み、数ヶ月かけて検証をした結果、S1工法に原因があると結論づけられました。しかしこれまでS1工法は何百もの物件で行って問題が起こったことがありません。それに住宅都市整備公団が長年つちかってきた工法です。にわかにはS1工法が原因だとは信じられませんでした。

S1工法とは

外部に面する壁には断熱材を吹き付けます。しかしそれだけでは結論を防ぐことは出来ず、間仕切り壁にも断熱が必要でした。この間仕切り壁の断熱に、段差の小口処理の簡単さや、施工の手軽さなどからS1工法は広く民間マンションでも使われていました。

※S1工法

石膏ボードがついたポリスチレフォームを接着剤でコンクリートの壁に貼るだけなので、施工性が良いのも特徴でした。とにかく多くの物件で使われており、当時のライオンズマンションでも標準的な施工方法だったのです。

騒音の原因

S1工法はポリスチレフォームのボードをコンクリートの壁に貼り付けます。ボードは工場で製造されたものですから、当然ながら真っ平にできています。しかしコンクリートは型枠を組んでコンクリートを流し込んで作った手作りなので、真っ平ではなく凹凸があります。真っ平なボードを凹凸のあるコンクリートに貼ったので、わすがですが隙間ができていました。この隙間が太鼓のように共鳴して、テレビの音を増幅させていたのです。

※コンクリートの壁は平滑ではありません。

ではこれまでのマンションでは問題にならず、突然問題になったのはなぜかというと、この部屋の特殊性が原因でした。これまでのほとんどマンションは天井高が2.5m程度だったのに対し、この部屋は3.3mあったのです。今回は高い天井高によって太鼓が大きくなったので、テレビの周波数にピタリと合って大きな音を発生していたのでしょう。

この一件から、ライオンズマンションではS1工法が禁止になり、断熱材は全てコンクリートに打ち込むことになりました。S1工法を止めた理由として、壁に段差ができるのが見た目が悪いと解説されることがよくありますが、本当の理由は騒音だったのです。

原因の追求は難しい

この件では、クレームが発生してからS1工法を禁止にするまで1年ほどの時間がかかりました。何度も実証実験を繰り返し、徐々に原因を絞り込んでいく地道な作業を繰り返すことで、なんとか原因が解明できました。大手 ゼネコン の協力がなければ原因不明のままだったでしょうし、関わった全員の粘り強い努力がなければうやむやになっていたでしょう。マンションは複雑な造りになっているので、簡単に解決しない問題が多く発生する様になりました。

しかし一方では、原因の究明が困難なために問題を先送りにしてうやむやにしようとする人がいるのも事実です。検証に時間がかかっているのか、それとも逃げ腰でうやむやにしようとしているのか見分けがつきにくいのも事実で、そういったことでお悩みの方はぜひご相談ください。

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