別府マンション裁判の衝撃 /住民が施工者を訴える

別府マンション裁判は、最終的な判決が出るまで17年にも及ぶ長期裁判になりました。これほど長期に及んだのは、判決が社会に与える影響が大きかったためです。そして判決は建設業界に衝撃を与えました。マンション住人が隠れた 瑕疵 などで裁判を起こす例は多くありましたが、別府マンション裁判の最高裁判決は契約関係のない施工者の責任を問うものだったのです。少し難しい話ですが、なるべくわかりやすく書いてみたいと思います。

契約関係がなければ訴えられない

以前「交渉相手は誰か? /瑕疵担保責任を考える」でも書きましたが、マンションの住民が訴えることができるのは、契約関係がある売主でした。施工会社の手抜き工事や、設計事務所が指定した材料が不適切でトラブルが起こっても、住民は売主である不動産会社に対して瑕疵担保責任を求めていたのです。では、もし売主である不動産会社が倒産してしまったらどうなるのでしょう?泣き寝入りになることがほとんどでした。しかし別府マンション裁判の判決により、マンションの住民が契約関係のない設計事務所や施工会社を訴えることが可能になりました。

※欠陥マンションで住民が訴えることができるのは、不動産会社だけでした。

別府マンション裁判の経緯

1990年、開発業者からA氏は2棟のマンションを購入しました。その後、雨漏れが頻発し、さらにあちこちにひび割れが入り、バルコニーはぐらついて危険なほどでした。A氏は96年に設計事務所と施工業者を相手に裁判を起こします。2003年に大分地方裁判所は、設計事務所と施工業者に7400万円の賠償を命じる判決を出しました。すぐさま控訴となり、福岡高等裁判所で争われることになります。

この裁判では、A氏が契約関係がない設計事務所と施工業者を訴えていました。私は詳しい事情を知りませんが、売主の開発業者はバブルが弾けて倒産していたのでしょう。A氏は不法行為があったと訴えていたのですが、2004年に福岡高裁はA氏の訴えを棄却します。契約関係のない設計事務所や施工業者の責任を問えるのは過去にも例はありましたが、地盤沈下など社会的に影響が大きいケースでした。賃貸マンションで所有者がA氏だけしかいないこのケースでは、仕方ないという声もありました。

しかし2006年に最高裁は高裁に差し戻しを決定します。最高裁は建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を怠り、瑕疵がある場合は不法行為責任を設計事務所や施工業者が負うと判断しました。こうして再び高裁で争われることになり、2009年に高裁の判決が出ました。A氏の訴えの棄却です。高裁はすでにA氏がマンションを売却したことに加え、売却するまでの間に事故が起こっていないことから、基本的な安全性を損なう瑕疵がなかったと判断したのです。

そして上告され、2011年に最高裁判決が出ました。この判決によりA氏は勝訴し、損害賠償を勝ち取ることになりました。社会的影響が大きいことから注目されたこの裁判は15年にも及び、最高裁が2回も判決を出すという異例の結審で幕を閉じました。

何が画期的で衝撃的だったか

ここまで長々と読んでいただいた方の中には「結局どういうこと?」と思われる方もいると思います。この裁判の要旨をまとめると、こんな感じになります。

①買主と契約関係のない設計事務所や施工会社に不法行為の責任を認めた
②不法行為は居住者等の生命、身体又は財産に危険をもたらす場合に認めらる
③実際に事故が起こっていなくても、危険な状態と判断されれば認められる

そしていくつか例を挙げています。「建物の全部又は一部が倒壊」「ベランダ等の瑕疵により建物の利用者が転落」「外壁が剥落して通行人の上に落下」に認められるとしています。

※外壁タイルの剥落も含まれるため注目を集めました。

この判決の前までは、 ゼネコン や設計事務所はマンションの工事に責任を持つのは築後10年と考えていました。売主の瑕疵担保責任が10年なので、売主に対してゼネコンなどは10年間保証すれば後は何があっても関係なかったのです。ところがこの判決により、売主が倒産しようが15年過ぎようが、マンション住人から不法行為で責任を問われる可能性が出てきました。保証期間が2倍になったようなものです。

さらに「居住者等」と書いてあるのがポイントです。この判決により、居住者だけでなくマンションにやってきた住民以外の人にも不法行為を問える可能性が出てきました。例えば友人のマンションに遊びに行き、外壁タイルが剥がれて落下して怪我を負った人も、ゼネコンを相手に不法行為を問えるのです。

別府マンション裁判の影響

大阪市平野区にある12階建て賃貸マンション「サニークレスト平野西脇」は1999年に竣工しました。2012年にマンションを所有するSKYリアルエステート社が、自社広告の看板を取り付けようとした際に、タイルの浮きが発覚しました。施工した熊谷組は経年劣化として有償での補修を提案しましたが、不信感を覚えたSKYリアルエステート社は2015年に不法行為の訴えを起こしました。瑕疵担保責任の10年を過ぎているものの、SKYリアルエステート社は別府マンション裁判を念頭に不法行為で熊谷組を訴えたのです。このように10年を過ぎても訴えを起こす例が増えてきました。

まとめ

別府マンション裁判により、マンション住民は契約関係のない施工会社や設計事務所を訴えることが可能になりました。もちろん何でも訴えることができるわけではなく、生命や財産に影響をおよぼすものでなければなりませんが、これまで泣き寝入りになることが多かったことを考えると画期的な判決でした。一方で施工会社などにとっては10年の瑕疵担保責任だけでなく、20年の不法行為責任に備えなくてはならないため、衝撃的な判決となりました。

外壁タイルの剥落があちこちで起こっていますが、この判決が与えた影響は計り知れないものになっています。

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