容積率は食うもの!? /時代と共に変わった容積率への意識

建物を建てるには、建築基準法で定められている容積率を守る必要があります。分譲マンション業界でこの容積率に対する考え方は時代と共に変化しており、そのため時代によって容積率がかなり違っています。「容積率って食うものだったんですね」と、マンション 建築に初めて携った建築士が言っていたので、今回の記事を書くことを思いつきました。

容積率とはなにか

容積率は建築基準法に登場する言葉で、敷地面積に対する延床面積の割合を指します。専門用語が多いので、少し整理していきましょう。

敷地面積:建物が建っている土地の面積
延床面積:建物の各階の床の面積の合計

容積率が100%で敷地面積が200㎡の場合、延床面積は200㎡になります。容積率が400%で敷地面積が200㎡の場合、延床面積は800㎡になります。厳密には延床面積にはバルコニーや屋外階段など含まれないものもあるのですが、とりあえず床の面積だと思っていただいて結構です。

マーケティングで計画されていた時代

マンションを建設して販売するデベロッパーは、土地の購入資金とマンション建設費を銀行から借りています。事業開始と同時に数億円から数十億円の借金をするわけで、マンションを完売させて購入者に引き渡してから利益が確定します。この流れを図示すると以下のようになります。

このようにマンションは竣工引渡日までに完売していれば最大の利益を得ることができますが、売れ残ると金利や販売に関わる費用をズルズル払い続ける必要が出てくるので、利益はどんどん小さくなります。さらにある時期を過ぎても売れ残っていると、利益はマイナスになってしまいます。

つまりマンション 販売において、竣工引渡日までに完売させることは必達の目標になるわけです。そこでマンションデベロッパーは、マーケティングを行って必ず売れるように販売戸数を計画していました。分譲マンション黎明期のマーケティングは、ファンダメンタル分析が中心に行われていたようです。つまり駅からの距離、学校の有無、スーパーマーケットなど生活に必要な施設の有無、そして地域の人口などからどのくらいのニーズがあるかを判断していたのです。

こうして、建設予定地にマンション を建設して販売すれば、120戸ぐらいは売れるだろうと判断されれば、容積率と照らし合わせて販売戸数が決定されていました。そのため容積率が400%の土地であっても、300%しか使わないことも珍しくありませんでした。無理に多く作って売れ残ってしまえば、大きな損失を出してしまうからです。

気合いで販売される時代の到来

ところが、このやり方に疑問を感じていた人がいました。本来は150戸のマンションを建設できるのに、マーケティングによって120戸しか売れないと判断されて容積率を無駄にしているのはもったいないと思ったのです。容積率は土地の価格にも影響します。容積率を含んだ土地の値段を支払っておきながら、容積率をフルに使わないのはお金をドブに捨てているのではないか?そんな風に考えた経営者が、マーケティングなどお構いなしに容積率をまるまる使って、マンションを建設することにしました。

そもそも売れ残ってしまえば大きな損失を出してしまうから、無理な戸数を建設しなかったのです。ですからこの方法は、大きなリスクを含んでいました。しかしこの経営者は巧みな営業スキルと社員に多額の成功報酬を与えることで、次々にマンションを完売させていきました。他社が「この土地で売れるのはせいぜい60戸だから、マンションを建てても採算が合わない」と言って見送っていた土地に100戸のマンションを建設して完売させたのです。

こうしてマーケティングは無視され、容積率をフルに使って建設されたマンションを、営業マンは血反吐吐きながら売り、多額の報酬を得るようになります。この会社は新興企業ながら直ぐに全国展開をして、業界をリードする存在になっていきます。この手法を真似するマンションデベロッパーは次々に現れますが、ハイリスクな経営手法のため失敗する例も多く、従来のマーケティングに頼るデベロッパーもまだまだいました。この頃は、容積率をフルに使わないマンションも多くあったのです。

容積率を食う時代へ

85年のプラザ合意をきっかけに、日本はバブル景気が始まります。80年代後半には空前の不動産投資ブームが巻き起こり、土地神話が普遍の真実のように語られるようになりました。こうなると、当然ながらマンションの販売手法にも変化がありました。なにせマンション価格が年々上昇し、契約してから引き渡しを受ける間にマンション価格が上昇するのです。建てれば売れる時代へとなっていきました。

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マンションデベロッパーの本社には、始業と同時に受付に人が殺到して「次の販売はどこでいつからだ?」と問い合わせるなんて事態も起こりました。これまでの駅からの距離や学校の有無などは関係なく、買ってしばらく寝かせて転売すれば儲かると考える人、今買わなければマンションが買えなくなると考える人が多数いたのです。異業種からもマンション販売への参入が相次いだため、とにかく多くの戸数を販売すれば多額の利益が見込めるようになりました。営業力も関係なく、とにかく多く建てることがデベロッパーの利益に直結することになります。

そのため容積率を食うことが、各社で当たり前になりました。容積率400%の土地に380%で計画しまうものなら、計画が甘いと再考されるようになり、399.9%になる案が素晴らしいと賞賛されます。ギリギリまで容積率を食うことで、利益を最大化することは珍しくもなく当たり前のことになったのです。

バブルの余波

一般的にバブル景気の終焉は1991年2月頃とされていますが、マンション業界では95年に新築分譲平均価格が最高値を更新するなど、しばらくバブルの余波が続いていました。そのため相変わらず容積率ギリギリのマンションが建設されており、バブル景気以前から行われていた気合いで売るスタイルも続いていました。

そして景気後退の波が分譲マンション業界にも及ぶようになると、デベロッパーの利益は急速に失われていきます。さらにバブル景気の頃にマンションが乱造されたため、目ぼしい土地が残っておらず、魅力が低い土地に建設しなくてはいけなくなっていました。販売価格を下げなくては売れず、良い土地がなく、販売が苦戦する中で少しでも利益を稼ぎたいデベロッパーは、容積率を余らせるということは考えませんでした。そのため以降も容積率ギリギリで建てることが常識的になり、マンション業界の常識になりました。

マンション建て替えの問題

現在、老朽化したマンションの建て替えが問題になっていますが、この容積率がネックになっています。容積率に余裕があれば、建て替えて増えた分の住戸を販売した利益を建て替え費用に充てることができます。しかし容積率ギリギリで建設されたマンションを建て替えるには、解体・建築の費用全額を住民が負担しなくてはなりません。そのため住民の賛同を得ることが難しく、建て替えが進まないままになっています。容積率をギリギリまで使うマンションが当たり前になっていたので、建て替えが難しくなっているのです。

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まとめ

黎明期のマンションは、マーケティングによって販売戸数を決めていたので容積率が余っていることが多くあります。その後、容積率をギリギリまで使うことが当たり前になり、ほとんどのマンションは容積率に余裕がありません。これが今やマンション建て替えの障害になっています。容積率をギリギリまで使う、すなわち容積率を食うのが当たり前になったのは、市場の変化と営業スタイルの変化による部分が大きいと思われ、今後もこれは変わらないでしょう。時々、「なんで昔のマンションは容積が余っているの?」という人がいますが、そもそもどれくらい売れるかを考えず、とりあえず建てられるだけ建てるという現在のマンションの販売スタイルが異常な気がします。

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