滋賀県の欠陥マンション裁判を解説します2

※南海辰村建設の企業ロゴ

前回は大津京ステーションプレイスの事件の経緯と、南海辰村建設(南辰)の工事の稚拙さや、株式会社大覚デベロッパー としての行動に対する疑問を書きました。まだまだ疑問に思うことが多くあるので、それらを書いてみたいと思います。今回は施工面から見てみます。

前回記事:滋賀県の欠陥マンション裁判を解説します

変則的な事業形態

大覚が解説しているサイト「南海辰村建設 大津欠陥マンション訴訟専用サイト」によると、問題の大津京ステーションプレイスは、当初は共同事業だったそうです。このような説明が載っています。

当初、某大手不動産会社(T社)と大覚の共同事業(T社が建築を、大覚が販売を担当)でマンション事業を行っていた。しかし、T社の都合により、両社は共同事業を白紙に戻した。

そして「T社が南海辰村建設に工事着工を指示。」とも書かれています。南辰との工事請負契約はT社が主体となって行い、その後T社は共同事業主から降りたと思われます。ところがこのサイトには、続いてこのように書かれています。

・平成20年6月6日 本マンション請負契約を締結
・弊社大覚と南海辰村建設にて工事請負契約を締結する。

この時点で私はわからなくなってしまいました。まるでT社の指示で工事を着工した後に、大覚と工事請負契約を結んだような書き方です。そもそも共同事業なのにT社が単独で着工を指示するのは奇妙ですし、着工した後に工事請負契約を結ぶのは順番が逆です。これを一般的な工事の流れに合わせると、恐らくこういうことだったのではと推察しました。

T社と大覚の共同事業体と南辰が工事請負契約を結ぶ。

T社の担当者が南辰に着工を指示する。

T社が共同事業体を降りたので、改めて大覚と工事請負契約を結びなおす。

これならスッキリしますが、そうするとその後の図面の混乱も何が起こっているかも想像できます。

複数の図面の存在

大覚の訴訟専用サイトには、図面について以下の記載があります。

その後の調査で、契約締結時の【契約図面】以外に、【確認申請図面】、【減額図面】、【竣工図面】が存在していたことが判明。南海辰村建設は意図的に契約時の工事費を引き上げ、最終的に正式な契約図面より総額2億6千万円減額した図面で施工していた。

確認申請図面は役所に確認申請を行う時の図面なので、存在するのが当たり前です。確認申請図面と契約図面が違うことはよくあり、確認申請図面の内容を網羅している契約図面なら、何の問題もありません。ここで問題なのは、減額図面の存在です。

大覚の主張によると、契約図面は大覚と南辰そして設計監理会社が記名押印されているが、減額図面は合意した図面ではないとのことです。さらに減額図面の作成日は請負契約締結日より前なのに、契約時に南辰は提示していなかったとしています。しかし南辰は減額図面で契約したと主張していて、どの図面で契約したかで主張が真っ向からぶつかっています。

正直言って、なんでこんなことで揉めているのか不思議です。大覚と南辰が工事請負契約を結んだ時に、添付された図面がどれなのかが問題であり、それ以外にいくつ図面があろうが関係ないのです。しかしここまで揉めるということは、工事請負契約書に、どの図面に基づいて契約するか明記されていないのでしょう。常識では考えられない事態ですが、それ以外に思い当たりません。もし工事請負契約書に、どの図面に基づく契約か明記されていなければ、大覚と南辰の双方のミスで、揉めるのは当たり前です。それぞれが違う図面を提示して「この図面で契約した」と言い合うのは、あまりに低レベルな争いだと感じてしまいます。

T社と大覚の共同事業体の時の契約では、T社が中心になって工事請負契約を結んだので、その際には減額図面で契約を進めていたのではないでしょうか。その後、大覚との単独契約になった際に大覚と南辰の間で、契約した図面の認識に齟齬があったと想像できます。そして契約書にどの図面で契約するかが明記されていないため、こんなことで揉めることになってしまったのではないでしょうか。

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屋上のコンクリートの謎

大覚の主張によると、屋上に250トンものコンクリートが無断で増し打ちされていたそうです。そしてこれが第一審での争点の一つになっています。しかしこの件に関しても、なんでこんなことで揉めるのか不思議でなりません。

南辰が勝手にコンクリートを増し打ちすることは常識的にあり得ません。 ゼネコン は常にコストが掛からない方法を模索しているからです。250トンものコンクリートはタダではありませんし、打つ手間も掛かります。施主がお金を出さない工事を、施工会社が自らの判断で行うはずがないのです。

大覚は250トンもの重さが加われば、地震の際に危険だと主張しています。施工する側も当然ながら気になるところなので、このような変更は必ず設計事務所に確認を取ります。後から撤去しろと言われたら、コストも時間も大きく失うのですから、勝手に変更するゼネコンはいません。大覚の主張通りなら、南辰は工事の基本的なことも知らない素人ゼネコンということになります。しかし南辰は100年近い歴史がある会社です。建物の重量を増やすには構造計算が必要になることさえ知らない素人ゼネコンなら、もっと前に大問題を起こしていたでしょう。

それに設計監理を行っていた、(株)HIROプランニングの問題も出てきます。施工会社が正しく施行しているかチェックするのが監理会社の役目なので、竣工後にこのような問題が出てきたということは監理会社の(株)HIROプランニングが何もしていなかったことになります。(株)HIROプランニングは自分達が承認した覚えもないのに、南辰が勝手に変更して工事を行っていれば、すぐに是正するように指導できます。同時に施主の大覚にも報告するのが通常です。もしその時に南辰が是正しないと突っぱねれば、大覚は工事をストップさせて工事代金を支払わないと主張できます。つまり工事中に大問題になっていたはずで、工事が終わってから問題になるのが私には不思議で仕方ありません。

しかしこの増し打ちが、減額図面に記載されていたなら説明がつきます。南辰は減額図面で契約したと主張しているので、南辰も(株)HIROプランニングも契約図面通りに施工したという意識なのでしょう。減額図面に書かれているなら、再び契約はどの図面をもとに行われたのか?という元の疑問に戻りますし、減額図面にも書かれていないなら、設計事務所の承認を得た議事録や指示書を出せば済む話です。このようにこの事件では、そもそもどういう建物を建てることになっていたのかわからないのに、あれがおかしい、これがおかしいという話が出てくるので判断がつきにくいことが多いのです。

ちなみに屋上のコンクリートを平らに打設し、後から勾配をつけるために モルタル やコンクリートを打設するのは、多くの現場で見られる一般的な工法です。この工法そのものには、なんら問題はありません。問題は設計事務所が荷重を見て承認していたか否かだけです。

基礎の打ち継ぎの謎

基礎に打ち継ぎされた跡があり、その部分をコア抜きすると打ち継ぎ部分からキレイに割れたそうです。しかし南辰はこれを問題ないと裁判で主張しました。これもなんとも分かりにくい話です。

打ち継ぎのコンクリートが一体になっていなくても問題ないという南辰の主張は、ヤケクソになっているように感じます。構造体のコンクリートが一体になっていなくても平気という主張は初めて聞きました。しかも建築の素人ではなくゼネコンが言っているのですからさらに驚きです。ゼネコンは普段からコールドジョイントと呼ばれるコンクリートの打ち継ぎが出ないか注意を払っています。一体化しなくても問題がないなら、打ち継ぎがあろうが何の問題もないのですから気にしないはずです。

※コンクリート打ち継ぎの例

しかしテレビで報じられた際に、その打ち継ぎ部分とコア抜きした場所を映していたのですが、基礎ではなく単なる壁に見えました。もし地下にある雑壁なら、打ち継ぎが一体化していなくても構造的には問題ありません。テレビでは単に映しやすい他の場所を映しただけかもしれないので、打ち継ぎの正確な場所と構造図がなければ判断がつきません。大々的に報じられる割に、情報が少ないので判断のしようがない部分です。

あやふやな契約で始まった可能性

ここからは私の想像になります。T社と大覚の共同事業から大覚の単独事業に途中で変更になった経緯、そして契約した図面がどれかで両者が対立していることを考えると、当初の工事請負契約があやふやなものだったと考えられます。契約書を見ていないので断定はできませんが、工事場所と工期と金額ぐらいしか明確なことが書かれていなかったのではないでしょうか。スタートがあやふやな契約だったため、工事で揉めることになったのでしょう。

南辰は竣工検査の手直し工事を行わず、工事代金を請求し、払われないことが分かると裁判を起こしました。これはどう見てもゼネコンとしては異常な行動ですが、それでも裁判で勝てると思ったから提訴したはずです。そもそもの契約に問題がなければ、裁判まで起こさなかったのではないでしょうか。

デベロッパーの中には、契約後にもあれこれ変更を要求するところが少なくなく、それが工事中に揉める原因になっています。契約があやふやななら、何が追加工事で何が契約工事なのかわからなくなり、揉め事が一層大きなトラブルに発展します。契約がきちんとなされていなければ、どんなトラブルが起こっても不思議ではないのです。追加工事費を求めた南辰に対し、大覚がそれを拒否したという背景があったように思えてなりません。もし私の想像通りなら施行会社の南辰の責任は大きいですし、同じくらい大覚の責任も重大です。両者が目先の利益ばかりを見て、あやふやな約束のまま工事を始めた結果、購入した人が被害を受けることになってしまったのです。

個人的な南辰の印象

私はデベロッパー時代に、何度か南辰と仕事をしたことがあります。その時の印象はお世辞にも良いとは言えないもので、施工の技術力や管理の能力には何度も疑問を抱きました。起こったトラブルの中にはデベロッパー側に非があることもありましたが、それを差し引いても技術力や管理力が不安になることがありました。現場の問題を常駐している南辰の社員よりも先にデベロッパーが先に気づいたり、彼らが気づいていても、報告が遅すぎて対応に困ったりということが何度もあったのです。

しかしそのような南辰であっても滝のように雨水が入ってきたり、プールのように水が溜まる地下ピットを作ったり、人が住めないほどのマンションを建設する事はありませんでした。大津京のこの件は、私が知る南辰のレベルを逸脱していて、いくら南辰でもここまで酷い工事をしないという気がします。そのため南辰だけの問題ではなく、大覚側も含めて問題があったのではないかと推察してしまいます。

まとめ

裁判の報道を見ていても、とても分かりにくく争点が見えづらい裁判になっていました。しかし問題の本質的な部分はシンプルで、契約と実際の建物が違うのか同じなのかをハッキリさせないと何も見えてきません。南辰の工事は稚拙で、これほどあちこちのトラブルが起こるマンションは珍しいと思います。それに加えて、大覚にも問題が多いように感じました。デベロッパーとゼネコンの両者に問題がなければ、これほど長期の裁判になることもなかったように思います。

そしてこの件は大覚対南辰という図式で語られがちですが、最大の被害者はこのようなマンションを契約して、引渡まで受けてしまった契約者だと思います。人生最大の買い物だった人がほとんどのはずですが、あまりに残念な結果になってしまいました。

滋賀県の欠陥マンション裁判を解説します2” に対して4件のコメントがあります。

  1. より:

    裁判の解説と言うより想像したうえでの感想だなと思いました。

    1. hanemone より:

      コメントありがとうございます。
      おっしゃる通りです。
      どうしても情報が少ないので、そこから考えられることを列記しています。

  2. 花園祐 より:

     私もこの問題を長年見ていて以前にも記事書いて出しましたが、南辰は一審における大覚側の弁護士もあらかじめ抱き込んでいたようで、「裁判に勝てる」という勝算は確かに持っていたような気がします。一審に勝てば二審はズルズルと引っ張る牛歩戦術で、という目論見もあったかもしれません。
     契約図面に関しては、私も大覚側の主張を見ていてやや曖昧だと感じることが多いです。ご指摘されている通り、契約の詰めを怠っていたという点では大覚側にも不足点はあるでしょう。
     一方、屋上コンクリートといいなんでこんな滅茶苦茶な工程が行われたのかという点については、作業現場による悪意、具体的には材料卸業者への過大発注、料金プールの可能性が高いように見えます。ここまでひどい工事が行われた背景が疑問だと書かれていますが、人間の悪意は底知れないもので、こういうこともよくあると中国にいると感じます。

    1. hanemone より:

      コメント、ありがとうございます。

      最初に訴えを起こしたのが南辰でしたから、彼らからすると勝てる裁判だったのだと思います。マンション業界で施工業者が施主を訴えるのは前代未聞で、仮に勝訴しても他のデベから敬遠されて仕事を請けにくくなるリスクがあります。ご指摘のように弁護士を抱き込んでいたとしても、ずいぶんんと思い切ったことをやるなという印象がありました。

      私は中国の建設事情には明るくないのですが、南辰が底なしの悪意で工事をしたとしても、日本では普通はここまで酷いことにならないので不思議に感じてしまいます。屋上のコンクリートの件にしても、監理者は何をやっていたのか?なぜ大覚は監理者を訴えないのか?大覚は上棟検査すらしなかったのか?こういった疑問が残ってしまいます。

      南辰に悪意があったとしても、それだけではとてもこんな事態にならないはずです。ですから私は施主の大覚や監理者のHIROプランニングにも、同様の疑惑を感じてしまいます。

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