いまだに電波障害対策施設のトラブルが絶えない理由

先日、電波障害対策施設をめぐるトラブルの相談をいただきました。いまさら電波障害対策施設でトラブルが起こることを意外に思う方もいるかもしれませんが、今でもトラブルは引き続き起こっています。今回はいまだに電波障害対策施設のトラブルが絶えない理由について、書いてみたいと思います。

電波障害対策施設とは

マンションや高層建築物が建設されると、ビル陰によってテレビが受信できないエリアが発生します。そのため建物を建設する際には電波障害が起こっていないかを検査し、発生している場合には電波障害対策施設を設置して周辺住宅にもテレビが映るようにしていました。特にテレビがアナログ放送だった時には電波障害対策は起こりやすく、各所で電波障害が起こっていました。

このような事態を受けて、昭和51年3月6日に郵政省電波監理局長通達として「高層建築物による受信障害解消についての指導要領 」が出されました。これにより、新しい建物を建てる際には電波障害が起こったら電波障害対策施設を設置しなくてはならなくなりました。テレビの地上波がデジタル放送に完全に切り替わるまで、建物を建設する際には電波障害対策は必須だったのです。こうして全国に電波障害対策施設が設置されることになりました。

地デジによって電波障害は消滅するはずだった

テレビの地上波放送がデジタルに切り替わる、いわゆる地デジ化の際に、テレビの電波障害は完全になくなると言われていました。それはアナログ電波では周囲の壁に電波が当たってアンテナが拾うと、テレビの二重映り(ゴースト)と呼ばれる現象になっていたのに、デジタルでは映像処理技術によってゴーストが発生しないからです。そのため地上デジタル放送に切り替わる2011年以降は、電波障害対策は不要になると言われていたのです。

しかし早い時点から、これに疑義を唱える人はいました。完全にビル陰になった建物は反射波どころかどこからも電波が来ないため、同じく電波障害が生じるはずだと思われたのです。そして地デジ化が試験的に放送されるようになると、ビル陰の建物の中にはテレビが映らないケースが出てきました。アナログ放送に比べてデジタルは電波障害が起こることは少ないですが、それでも当初言われていたようにゼロになるわけではないことがわかってきたのです。

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衛星放送でも電波障害は起こる

電波障害が起こらないようにするため、東京都では地上デジタル放送では東京タワーよりも高いスカイツリーから放送されることになりました。電波を高いところから出せば、ビル陰が少なくなるからです。それならば衛星放送なら電波障害が起こらないと思われがちですが、実際には電波障害が起こっています。どれほど高い位置から電波を出しても、真上から電波が届くわけではありません。必ず角度がついています。そのため前に高い建物があり、アンテナの設置位置が低ければ電波障害が起こってしまうのです。

このようにテレビの電波障害は今でも問題になることがあり、電波障害対策施設は以前より減りましたが今でも稼働しているのです。その電波障害対策は、今でも時折問題を起こすことになってしまいます。

電波障害対策の2つの方法

細かく分けると対策方法はいくつかあるのですが、大まかに分けると2つの方法になります。

①共聴アンテナ設備の設置

マンションの上にアンテナを設置して、そこからケーブルを電波障害が起こっている各住宅に繋げる方法です。マンションの陰になっている戸建は自宅の屋根につけたアンテナではなく、近くのマンションの屋上に設置されたアンテナでテレビを見ることになります。最も多く用いられた方法ですが、この方法は手続きが少し面倒なことになっています。

電波障害はマンションの建設中から発生することがほとんどです。そのため建設時からアンテナを設置して、電波障害対策の解消に努めています。この時、電波障害対策施設は一度テレビを受信して、それを他の住宅に配信していると法律上はみなされてしまい、放送法の再放送設備となってしまうのです。そのため設置した人は総務省(かつては郵政省)に設置届けを出さなくてはなりません。この時点でマンションは工事中ですから、まだ購入者に引き渡されていません。そのため届けを出すのは事業主の不動産会社になります。

ところがマンションの引渡しが行われると、電波障害対策施設もマンション管理組合に引き渡されます。マンション管理組合は電波障害対策施設の名義を変更する申請を総務省に行わなくてはなりません。しかし多くのマンションで名義が変更されていないままになっていて、これが地デジに切り替える際に問題になりました。設置届けを出しから、マンション管理組合が名義を変更しなくてはならないという面倒さが共聴アンテナ設備にはありました。

②CATV(ケーブルテレビ)による対策

ケーブルテレビは電波ではなく電線でテレビ放送を送信しているので、ビル陰などの問題が発生しません。そのためケーブルテレビは電波障害対策に有効な手段です。

ケーブルテレビで対策を行う場合は、事業主が20年分の受信料をCATV会社に事前に支払っています。20年というのは、昭和54年10月の建設省事務次官通知「公共施設の設置に起因するテレビジヨン電波受信 障害により生ずる損害等に係る費用負担について」に書かれている「措置に要する経費は、公共施設の設置後20年程度の期間通常のテレビジョン電波 受信を可能とするために必要な経費(受信者が従前の方法による受信を行うために通 常要する費用を差し引くものとする )とする。 」が根拠になっています。

地デジ化の際の電波障害対応はバラバラだった

地デジが迫ると、総務省は助成金を出して不要になる電波障害対策施設の撤去を求めました。使わなくなった電線が空を這い、使わないアンテナが劣化した事故が起こることが懸念されたからです。しかし助成金があってもマンション管理組合によっては費用負担が発生することを嫌い、施設をそのままにしているところもあります。電波障害対策が無くなったり減ったしたマンションでは、管理組合によって対応が分かれていました。

①電波障害が無くなったエリアの施設を撤去する

総務省の指導の通り、不要になった電波障害対策施設を撤去し、電波障害が残るエリアの施設のみを残しています。この場合、電波障害対策が必要な住宅にはテレビ放送が継続して行われているので、さほど問題が起こることはありません。

②電波障害対策施設を全て残している

地デジ化の際に、調査もせずに何もしなかったケースです。地デジ対策としてブースターを交換したりアンテナの向きを変えたりしていますが、それ以外はほぼ何もしていません。この場合もテレビ放送を継続して受信できるので、その点では電波障害が起こっている近隣住宅との間に問題が起こることは少数です。しかし後述しますが、テレビが映るとか映らない以外で問題になるケースがあります。

③CATVに変更してる

電波障害対策施設を設置していたのですが、地デジ化により数百戸、数千戸の電波障害が解消され、電波障害が1戸や2戸になってしまったということもありました。そこで維持費がかかる共聴アンテナ設備を使うのを止め、CATVに変更しているのです。この場合、先に書いたように20年分の受信料を先に支払っています。

新築マンションでの対応方法

2001年に放送法が改正され、テレビのアナログ放送を2011年7月24日までに終えることが決定しました。この頃から、新築マンションを建設する際に電波障害対策をどのようにするかが、マンションデベロッパーの間でも議論されるようになります。共聴アンテナ設備を設置した場合、アナログ放送の対応を行ってからその後にデジタル放送への切り替えを行わなければなりません。そのため作業が煩雑になり、マンション管理組合にも迷惑をかける可能性が出てきました。

こうした事情から、2000年代前半から電波障害対策はケーブルテレビを使うことが増えました。ケーブルテレビならデジタル化に関係なく、電波障害対策ができるうえに切り替えなどの手間もかからないからです。ケーブルテレビ会社に20年分の費用を払えば、あとはデジタル化の対応など全てケーブルテレビ会社が行ってくれるからです。

時折発生する電波障害の問題

最近発生している問題は、このケーブルテレビの20年という契約期間が切れたことに発生しています。ケーブルテレビによる対策は、90年代はさほど多くありませんでした。20年分の受信料を前払いするというのが事業主にとって負担が大きかったので、共聴アンテナ施設で対策していたからです。しかし前記のように2001年以降は、ケーブルテレビによる対策が急速に増えていきました。

2001年に竣工したマンションの電波障害対策は、今年で20年になります。これまでテレビを見ていた人のところにケーブルテレビ会社の人が現れて、もうすぐ契約が切れるので契約を更新しませんか?と営業に訪れるのです。20年前のことを覚えていない人も多く、なんでテレビを見るのに今後はお金がかかるのかと驚いてしまいます。そしてマンション建設が原因でテレビが見られなくなったのだから、マンション側が払うように言いに来る人がいます。こうしてマンションの管理人さんのところに、近隣からの文句が集まるというケースが出てくるのです。

また共聴アンテナ設備を残している場合、使っていない電波障害対策施設が老朽化してトラブルになることもあります。私が経験した中では、戸建に設置している保安器とケーブルが老朽化して外れてしまい、庭先にケーブルが落ちている状態になっていました。マンション管理組合には、それが自分たちの所有物だという認識がなく、ケーブルの撤去を求めてトラブルになっていたのです。使っている電波障害対策施設であればマンション管理組合も電気代などの項目に出てくることもあるので、自分たちの施設という認識があります。しかし使わないことを何代も前の理事会が決定し、引き継ぎも不十分なままの管理組合では自分たちの所有物という意識が希薄になっているのです。このように地デジ化によって電波障害は減りましたが、電波障害対策をめぐるトラブルは今でもちょこちょこ起こっているのです。

まとめ

電波障害対策施設が問題になるケースをいくつか挙げてみました。ケーブルテレビの契約切れの問題は、多くの場合はケーブルテレビ会社が説明をして納得を得ています。また当時の契約書があれば、それを見せることで納得してもらえることも多くあります。ただ2000年を超えてからケーブルテレビを使った電波障害対策が一気に増えたため、説明が不足した場合などがトラブルになりやすいようです。また使わなくなった電波障害対策施設を放置してるため、発生するトラブルもあります。このように電波障害が減ったにも関わらず、今でも電波障害対策をめぐるトラブルが続いているのです。マンション管理組合は電波障害対策を行ったことがあるのか、または現在も行っているのか、その契約内容はどうなっているかを把握しておく必要があります。

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