無敵の住民にどう対抗するか /管理費や修繕積立金の支払いを拒否する人達
地方に住む方からメールを頂きました。住民の中に困った人がいて、理事会としての対応に手を焼いているとのことでした。管理会社は弁護士に相談することを勧めているそうですが、同じマンションの住民の問題を弁護士に話すことで問題が大きくなることを心配しています。しかし住民の問題が理事会の手に負えなくなれば、弁護士などその道のプロに託すべきだと私は思います。今回は無敵の住民とはなんなのか、そして無敵の住民にどう対抗するかを考えてみたいと思います。
ばら撒かれた誹謗中傷チラシ
その住民Tは新築時にマンションを購入し、最初の1年ぐらいは普通に生活していたそうです。しかし2年目に室内にカビが生えるとクレームを入れ、何度も管理会社や売主が部屋を訪れて対応していたそうです。3年目の冬にも同じくカビのクレームを入れますが、売主はこれ以上の対応をしないと宣言したそうです。住民Tは理事会に現れて売主と管理会社の不法行為を訴えます。あまりの激しい訴えに、理事会は売主と管理会社の双方を呼んで説明を求めました。その結果、理事会としてできることはないと判断して住民Tに伝えると激怒して話し合いを拒否し、翌月から管理費と修繕積立金を払わなくなりました。
さらに売主に対しては契約の無効とマンションの買取を求めて訴えると連絡し、理事会のメンバーに対しても売主や管理会社に加担して自分の財産を毀損しているため裁判に訴えると通告してきました。しかしいつまで経っても裁判にはならず、その代わりに理事会のメンバーが売主や管理会社と癒着しているというチラシが全戸に入れられました。同様のチラシはマンション近くの電柱などにも貼られていて、理事会で剥がして回ったそうです。
そうこうしていると、住民Tは住宅ローンも滞納していることが発覚しました。このまま滞納を続けると銀行によって競売にかけられる可能性があり、そうなると滞納している管理費が回収できない可能性が出てきました。管理会社は早期の回収を求めていて、弁護士に相談することを勧めています。
部屋内のカビの報告
ことの発端になった室内のカビですが、売主からは以下のような説明があったそうです。
①壁を剥がして見たところ、断熱材の厚さと範囲は適性で、施工不良となるものは見られない。
②カビが発生しているのはリビングと寝室で、最も発生しやすい洗面所やキッチンでは発生していない。
③カビが発生しやすい梅雨にカビが発生せず、最もカビが発生しにくい冬に発生している。
④カビが発生しているリビングでは石油ストーブ、寝室では2台の加湿器が使われている。
⑤以上の点から、カビは建物に起因するものではなく、石油ストーブならびに加湿器により空気中の水分が飽和したために発生したと考えられる。
売主はアフターサービス基準に則り、1度は壁を剥がしてから建物に原因がないことを確認して復旧しています。石油ストーブや加湿器を使わないように説明したにも関わらず、翌年にも使用してカビが発生したため、これ以上は対応できないとしたようです。理事会も売主の説明が妥当と判断し、特に異議を唱えるなどしなかったようです。
現地を見てないので判断は難しいですが、この報告を見る限りではきちんと検証して結論を出しているように思います。そしてストーブや加湿器で過剰な湿気を与えてカビだらけにするのは、とても多いトラブルなのです。私もデベロッパーでアフターサービスセンターにいた時に、何件かそのような事例を見ました。特にインフルエンザが流行した際に、室内の加湿が有効と言われてからは、過剰なほど加湿器を使う人が増えました。これがカビを呼ぶことになり、白いクロスが真っ黒になっているのを見たこともあります。
トラブルを起こしていた住民T
理事会が売主や管理会社と癒着しているという誹謗中傷チラシが撒かれると、理事会はそのチラシを撒いたのは住民Tだと考えました。住民Tが理事会に話した内容と同じことがチラシにも書かれていたからです。そこで理事会は他の住民をヒアリングして、住民Tがどんな人物か調べました。すると住民Tとよく話していた人、そしてトラブルになっている人が見つかりました。
住民Tに家族がいないらしく、引っ越してきた時から1人で住んでいたそうです。隣の住民とは顔を合わせることが多く、世間話程度の会話はよく交わしていたそうです。数ヶ月前に会社を辞めたと言っていたそうで、それ以降は仕事をしている様子もなく昼間も家にいることが多かったそうです。そして在宅時間が長くなったせいか、上階の人と騒音トラブルになっていたそうです。
上階の人の話だと、夜の9時頃に突然やって来て、あまりに騒がしいので昼間に訪ねたら居留守を使われたと激昂していたそうです。しかし夫婦は昼間は仕事に出かけており、子供は学校に行っていました。ウチではないと言っても聞かず、一方的に嘘をついていると怒鳴り続けたため、警察を呼ぶと言ったら退散したそうです。それ以降も夜の12時頃にうるさいと怒鳴り込んで来ることもあったそうです。寝ていたのでウチではないと言っても嘘をついていると言い張り、口論になったそうです。
ゴミ置き場で誰かと文句を言い合っていたという目撃証言もあり、あちこちでトラブルを起こしていたようです。また一部の住民や交渉に当たった管理会社の人からは、精神状態が普通ではない気がしたという声もあったそうです。住民とトラブルを起こし、管理費・修繕積立金を滞納し、住宅ローンも滞納している住民Tは仕事をしておらず、家族もいないため失うものがないのかもしれません。
滞納の管理費は取り返せるか
滞納している管理費を取り返す方法はいくつかあります。以前、以下の記事にその方法をまとめましたので、詳細はそちらをご覧ください。方法としては①民事調停、②支払督促、③少額訴訟、④民事訴訟があります。
上記のリンクの記事の中で①の民事調停は相手が出てこない可能性が高いので、望み薄でしょう。③の支払督促は滞納額が60万円を超えているそうなので、これは使えません。そうなると②の支払督促になりますが、すでに行っているそうです。そして督促は無視されています。そうなると残りは④民事訴訟しかありません。恐らく管理会社が弁護士の話をしているのは、民事訴訟を考えているからでしょう。
金融機関に競売されたとしても、次の購入者に滞納分を請求することは可能ですが、なるべく早めに手を打っておく方が良いと思われます。弁護士を立てることに躊躇しているようでしたが、ここまで来ると自力解決はほとんど不可能のように思えます。
無敵の住民にどう対抗するか
「無敵の人」とはネットスラングで、失うものが何もない人を指します。社会的立場や財産をすでに失っており、これ以上何も失うことがないので、犯罪を起こすことも躊躇しません。そこまで行かなくとも、仕事や家族、財産などを失っていて周囲に嫌われることを気にせず、トラブルを起こすことに躊躇しない人がいます。そういった人がマンションに無敵の住民として住み、トラブルの原因になっているケースがあります。
こういった人達は、ほとんどの場合は相手の話を聞くことがなく、一方的に自分の主張を通そうとします。そのため話し合いにならないことがほとんどで、平和的な解決ができないケースが多くあります。話し合いの努力を重ねても、解決することは少ないでしょう。そのため話し合いに応じようとしなかったり、理事会に対して攻撃的な態度を改めなかったりすれば、プロの力を借りるしかないと思います。
増えているマンション内のトラブル
国土交通省が行っているマンション総合調査を見ると、マンション内のトラブルとして「居住者間の行為、マナーをめぐるもの」や「管理費等の滞納」といった項目があります。これらの割合は増えていて、マンション管理組合の運営はどんどん難しくなっていると感じています。これは不景気による収入減の家庭が増えたことや、価値観の多様化によって常識と言われていたことが揺らいでいると言うのもあるでしょう。こういったことから、マンション理事会が専門家を雇うことも増えています。
まとめ
このような事例は特殊ではなく、他の物件でも同じようなことが起こっているケースをいくつか聞いています。こういった住民は強いストレス下にあるので何をするかわからない怖さがあり、次の行動が予想できません。さらに精神的な問題も抱えている人であれば、理事会メンバーとの話し合いは困難でしょう。管理費滞納などがあれば、問題が大きくなる前に弁護士などプロの知恵を借りるべきです。また管理会社には顧問弁護士がいるので、管理会社のフロントを通じて相談するのも良いと思います。早期にプロの力を借りることが、無敵の住民に対する有効な手段だと思います。