電波障害対策の2023年問題 /性急な地デジ化の弊害が招くトラブル
テレビ放送が地上デジタル放送に移行してから、かなりの時間が過ぎました。今ではほとんどのテレビで地上デジタル放送を見ることができ、無事にデジタル放送への移行が完了しました。しかし今後、電波障害対策設備に関して少しだけ面倒な問題が発生しそうなので、今回はその件について書いていきたいと思います。
地上デジタル放送の決定
2001年7月、電波法が改正されて地上デジタル放送への移行が決定しました。この改正は紆余曲折を重ねていて、法改正に至るまでの経緯で本が書けそうなほどさまざまなエピソードがあります。しかし今回の内容には関係ないので割愛したいと思います。法改正はされたものの、本当に地上デジタル放送へ移行できるのか、移行する意味は本当にあるのかという疑問も多くありましたが、総務省は強い決意をもって地デジへの移行を決定します。
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順次放送開始という変速技
全てがドタバタだったため、地上デジタル放送の開始はエリアごとに順次開始していきました。まず2003年12月1日から、三大都市圏の一部で放送が開始しました。2004年に富山県、茨城県、岐阜県、兵庫県の一部で開始し、2005年に岐阜県、三重県、滋賀県、奈良県、京都府の一部で放送を開始しました。そして2006年に北海道の一部を除いて、ほぼ全国で地上デジタル放送が開始されました。
この間も従来のアナログ放送は放送されていて、地デジとアナログ放送の両方が放送されていました。そのため家庭のテレビ設備によって、どちらの放送も受信可能になっていました。アナログ放送が終了するのは、2011年7月24日です。つまり2003年12月1日から7年半は、アナログとデジタルの両方が放送されていたわけです。この状況が、マンションデベロッパーの電波障害対策を悩ませることになります。
地上デジタル放送の電波障害対策
アナログ放送の電波障害は長年の経験が業者にもありますが、デジタルに関してはノウハウの蓄積がありません。そのため業者もマンションを建設する前に電波障害がどの範囲まで及ぶか測定することは難しく、最終的には建設してみないとわからないということでした。そのため建設する前から対策を実施することは不可能で、事前に説明会を実施したうえで建設中に地デジが映らなくなったら対応するという場当たり的なことしかできませんでした。
さらに地デジとアナログの両方の電波障害対策を行うべきか、アナログ放送だけの対応で良いのかという問題がありました。事前に近隣住戸にヒアリングし、地デジを見ているかアナログ放送のままかを確認してから電波障害対策を行うことにしました。しかしやってみるとこの作業は面倒で、コストもかなりかかることになってしまいました。そこで面倒なので全ての電波障害対策をケーブルテレビで行うことにしました。私がいたデベロッパーだけでなく、多くのデベロッパーが面倒ではないケーブルテレビでの対応を選んだと聞いています。
電波障害対策の方法は、以下の記事を参照してください。
ケーブルテレビによる電波障害対策
ケーブルテレビで電波障害対策を行うメリットは、アナログ放送からデジタル放送にへの移行がスムーズだということです。対策を行った近隣住宅のテレビがデジタルに移行した場合も、ケーブルテレビ会社はアナログとデジタルの両方を放送しているので、問題なくデジタル放送の受信が可能です。
ケーブルテレビで電波障害対策を実施する場合は、ケーブルテレビ受信にかかる費用を20年分負担します。これは昭和54年に建設省から出た「公共施設の設置に起因するテレビジヨン電波受信 障害により生ずる損害等に係る費用負担について」に書かれています。この中に「措置に要する経費は、公共施設の設置後20年程度の期間通常のテレビジョン電波 受信を可能とするために必要な経費(受信者が従前の方法による受信を行うために通 常要する費用を差し引くものとする )とする。」とあるのを根拠にして受信料を20年分負担することになっています。
マンションデベロッパーがケーブルテレビで対策を行う場合、ケーブルテレビ業者に費用を払って各住戸とケーブルテレビの20年契約を結ぶのです。そのため共聴アンテナ設備のように、マンション管理組合に維持管理の責任が出ることもありません。20年分の受信料を先払いするため、共聴アンテナより費用はかかりますが、手切が良いこともあってアナログとデジタルの両方が放送されている2003年から2006年は多くの物件の電波障害対策でケーブルテレビが使われました。2003年以前はコストが安い共聴アンテナを使うのが主流でしたが、2003年からケーブルテレビで対策することが一気に増えました。
2023年に契約が切れる物件が出てくる
2003年12月1日から地上デジタル放送が始まったため、2023年に入る頃から電波障害対策でケーブルテレビを使った近隣住宅の契約が切れます。ほとんどの場合、ケーブルテレビ会社が契約更新の案内を行うので、管理組合が何かをする必要はありません。近隣住宅はケーブルテレビの契約を更新するか、自分で地デジを受信できるUHFアンテナを設置するか選択することになります。
しかし20年も前の契約を覚えている人も少なくなく、それまでは無料で見ていたテレビが有料になると聞いて驚く人も出てきます。そのため揉めることもあるようですが、ほとんどの場合はケーブルテレビ会社の営業が事情を説明して、納得してもらえるようです。ですがこれまでも、一部は納得できないためマンション側に抗議する人がいました。大抵は管理人を捕まえて、迷惑を掛けられたのだから今後もマンション側で費用を負担するべきといった内容の抗議をしてきます。
2003年以前はケーブルテレビで対策するマンションが少なかったので、このような抗議は少数でした。しかし2003年以降の物件はケーブルテレビで対策した住宅が多いので、今後はこのような抗議も増えると考えられます。多くのケースではケーブルテレビ会社の営業の説明で納得するのですが、それでも納得しない人が一定数は出てくると思います。
管理組合の対応方法
ケーブルテレビの契約は、近隣住戸とケーブルテレビ会社の間で行われています。そのためマンション管理組合が受信料の請求をされても、支払う必要はありません。マンション管理組合に対して問い合わせがあっても、ケーブルテレビ会社にご相談くださいの一点張りで大丈夫です。近隣の方の問い合わせが管理人さんにある場合が多いので、管理会社と打ち合わせをして、管理人さんへに問い合わせが来た場合には毅然とした対応ができるようにしておきましょう。
まとめ
2003年から始まった地上デジタル放送が、全国で一斉に始まるのではなく徐々に始まったため、マンションを建築する際の電波障害対策は、ケーブルテレビを使用することが増えました。しかしケーブルテレビは20年分の受信料を前払いする契約だったため、2023年から契約が終了する住宅が出てきます。今後はマンション側に抗議に来る人が増える可能性があるので、事前に理事会で話し合っておいた方が良いと思います。