マンション大規模修繕の平均価格が100万円/戸は本当か?

マンションの大規模修繕は、マンション管理組合の支出の中で大きな割合を閉めています。数千万円から、時には数億円にもなる支出なので、他のマンションではどのくらいかかっているのか気になるところです。そこで国土交通省が調査を行っています。その中にはマンション大規模修繕の平均価格も出ているのですが、私が想像していた価格より大きな開きがありました。

国土交通省の調査

国土交通省が2017年の5月から7月にかけて、大規模修繕工事の実態調査を行いました。調査対象になったのは、直近3年間に受注したマンション大規模修繕工事に関する設計コンサルタント業務の実績を有する企業となっています。2,352社に配布し、回収できたのは134社944サンプルだそうです。ちょっとサンプルが少ない気がしますが、これまでにこのような調査はなかったので、貴重なデータになっていると思います。それらをまとめたものが「マンション大規模修繕工事に関する実態調査について」というタイトルで、2018年に公表されました。

大規模修繕の平均価格は100万円

国土交通省が行った「マンション大規模修繕工事に関する実態調査について」を見ると、1回目の大規模修繕の平均価格(中央値)は98.7万円/戸になっています。100戸のマンションでは、大規模修繕にかかる費用は1億円弱ぐらいということになるのですが、意外に安いと思った方が結構いるのではないでしょうか。これが公表されたのが2018年ですが、私は安すぎると驚いた覚えがあります。

※国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査について」より

もちろん大規模修繕工事は、どこまでやるかで価格が大きく変わります。足場を掛けて外壁の補修を行うにしても、タイルが大幅に浮いているマンションとさほど浮いていないマンションでは、費用が大幅に変わってきます。また屋上の防水を補修するのか、全く手を掛けないかでも費用は大きく変わります。そのため必要な工事はマンションごとに違うので、一概にいくらとは言いにくいのです。

しかし多くのマンションでは、国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインに沿って長期修繕計画を作り、大規模修繕工事の内容はマンションの状況に関わらず長期修繕計画に書かれている内容をそのまま実施しているケースが多いのです。過剰な工事になっていることが多いのですが、長期修繕計画に書かれている内容をそのまま工事しているのです。その場合、私が見てきた物件の多くは120万円〜130万円/戸ぐらいになっていました。そのため98,7万円/戸というのは、かなり安いと思ったのです。

ある時期から値上がりした工事費

2012年頃までの大規模修繕工事は100万円/戸ぐらいの価格で推移していました。ところが2013年頃からどんどん値上がりしていき、2015年頃には120万円/戸ぐらいになっていました。この時期に何があったかというと、消費税の値上げです。2014年4月1日から、消費税は5%から8%に引き上げられました。

この3%の値上げを嫌い、大規模修繕工事を前倒しにする管理組合が多くありました。そのため2013年は大規模修繕工事があちこちで行われるようになり、業者が足りなくなる異常事態になっていました。工事の時期によって消費税が変わるため、どの管理組合も早く工事を行うように要請したので、業者も職人も2013年には足りなくなってしまったのです。

こうして大規模修繕は少ない職人の奪い合いになり、どんどん値上がりしていきました。当時は3%を惜しんで20%の値上げになっていると冷笑する人もいましたが、必ずしもそうとは言えません。このように短期間に工事が集中することを、工事業社は最も嫌います。2013年は請られないほど工事が来ても、2014年4月以降は全く仕事がなくなるからです。そこで請られないマンションに関しては、2014年に値引きして工事をする約束をしていました。消費税は8%になりますが、工事費を値引きすることで2014年に同じ価格で工事をすると約束したのです。

そのため2014年に新規で見積もりをお願いすると120万円/戸になっていましたが、2014年に工事を行っていたマンションは100万円/戸ぐらいで行っていたケースがかなりあったのではないかと思います。

時系列を整理して考える

2012年頃までは、大規模修繕の工事費は100万円/戸ぐらいでした。2012年6月に野田内閣(民主党)が消費税を2014年に8%、2015年に10%に上げる法案を国会に提出し、可決成立しました。この頃は民主党政権はガタガタで今後はどうなるかわからない雰囲気でしたが、法案として可決したので消費税の税率アップは決定的になりました。そのため大規模修繕工事の前倒しが、あちこちで始まりました。

さらに2013年10月に安倍政権(自民党)が予定通り消費税を8%に上げることを決定すると、慌てて大規模修繕工事を行うと言い出す管理組合が急増しました。本来、大規模修繕工事は物件の規模にもよりますが、実施までに1年から2年掛けて検討するものです。そのため消費税の値上げが半年ごと迫る時期になっては難しいので、部分的な工事を依頼するところが多くありました。

こうして大規模修繕工事と、部分的な工事が大規模修繕工事業者に殺到したのが2014年4月の消費税改正を含む前後の期間です。そのためこの国土交通省の調査は微妙な時期を対象にしており、1回目の大規模修繕工事の平均値98,7万円/戸は安値になって出ているように思えるのです。大規模修繕工事の見積書を受け取った管理組合が、1住戸当たり130万円近いので高すぎると言っている場面を何度か見ました。しかし業者としては、従来通りの見積もり価格で出しているようでした。

まとめ

大規模修繕に関して、いくらが平均値かを断言するのはサンプルが少ないので難しいのが現状です。ここで私は120万円から130万円/月と書きましたが、これも私が知っているマンションの価格に過ぎず、これが正しい平均額だと言うつもりはありません。重要なのは世間並みの相場で大規模修繕を行うのではなく、必要な場所を必要なだけ修繕することです。不要はところを工事したり、必要な部分を放置していては今後のマンション管理に支障が出てしまうでしょう。

平均を知るのは資料としては面白いですが、あまりそこにこだわらないで、何が必要で何が不要なのかを理事会や修繕委員会で議論することをお勧めします。

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