事例 歪むテレビ画面の謎

マンションが竣工して入居が始まってから1週間ほど経った時に、テレビの画面が歪むというクレームがやって来ました。なんのことだか意味がわからず、物件担当者がお邪魔すると間違いなくテレビの画面が歪んでいたそうです。何が原因でどうやって解決するべきか問題になりました。

※当時は地デジになる前で、テレビはブラウン管でした。私はマンション デベロッパー の品質管理室の一員として、この件に参加しました。

トラブルの概要

リビングルームに置かれたテレビの画面が歪んでいました。一部が引っ張られたような映像になったり、押されたようになったり、とにかくテレビの画面として機能していませんでした。他の部屋に置かれたテレビは正常で、他の部屋のテレビをリビングに持ってくると画面が歪みました。それでリビングにだけ、なんらかの問題があることが分かりました。そこでテレビの配線工事をした電気設備業者が呼ばれて、ケーブルや分配器など全てをチェックしましたが、異常はありませんでした。

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交換工事の実施

原因がわからないままでしたが、配線系統に問題がある可能性が高いので、配線の交換工事を実施しました。特に分配器など配線に取り付けた機器の異常が疑われます。テレビの配線はユニットバスの天井から各部屋に分かれているので、その分配器からリビングまでの配線と機器を全て交換します。

ところが交換しても全く症状は変わりませんでした。テレビの画面は相変わらず歪んでいて、配線の交換はなんら効果がありませんでした。ここでほとんど対策は手詰まりになってしまいました。

テレビのメーカーに相談

メーカーに連絡して、テレビの画面が歪む原因について質問しました。配線を交換したことなどを伝えると、メーカーの担当者はテレビの近くにオーディオスピーカーはないかと言います。もちろんそんなものはありません。近くにあるのはビデオデッキぐらいです。

なぜそんなことを質問したのか尋ねると、磁力によって画面が歪むことがあり、スピーカーなど強い磁力があるものが近くにあって画面が歪むというクレームを受けたことがあると言うのです。これは非常に興味がある指摘で、すぐにそのことを電気設備業者に伝えました。彼らも磁力は疑っていたそうですが、部屋には何もないのでまさかと思っていたそうです。

磁力を測定する

磁力を測定する装置があるとのことで、それを持ち込んで検査をしてみました。するとテレビの周辺には磁力があることがわかりました。しかし磁力を発生させるような機器はありません。測定器で細かく調査していくと、壁の方から磁力が出ていることがわかりましたが、そこには何もありません。

そこで隣の部屋にお邪魔させてもらい、部屋の中を見せてもらいました。壁際に巨大なスピーカーなどがないかと思ったのですが、スピーカーどころか壁の近くには家具さえありませんでした。それどころか隣の部屋の方が測定器が示す磁力は弱かったのです。

壁を検査する

テレビの画面が歪むのは磁力によることが、ほぼ間違いなくなりました。しかし磁力を発生させるものが見当たらず、残る可能性は壁の中に磁力を発生させるもの、例えば磁石などが紛れ込んでいる可能性が出てきました。そこで超音波探知機を使い壁の中を調べましたが、異物らしきものはありませんでした。

壁から磁力が来ていて、それがテレビの画面を歪めているのは間違いありません。しかし磁力を発生させるものが部屋にも壁の中にもないのです。再び手詰まり状態になりました。しかしここで建設した ゼネコン の所長が興味深いことを言い出しました。壁を作るのに使った鉄筋が、磁気を帯びている可能性があるというのです。

なぜ鉄筋が磁気を帯びるのか

鉄筋業者が加工のために鉄筋を買いつけて、自社工場で鉄筋を持ち運ぶのに巨大な電磁石を使っていたのです。その時に磁気が鉄筋に残り、磁力を帯びたままコンクリートの中に入っているのではないかというのです。早速鉄筋屋の工場に行き、鉄筋を測定すると磁気を帯びていることがわかりました。

※電磁石

これで原因は究明できました。しかし解決法がわかりません。コンクリートを削って鉄筋を交換するのがベストな解決策ですが、建物の構造を弱くする可能性もあります。また騒音と振動が大きいため、管理組合の許可を取るのも難しいと思われました。工事費用は数百万円規模になりますが、施工したゼネコンが100%悪いとも言い切れないので負担をお願いすると難色を示すでしょう。鉄筋屋はいつもの通りに電磁石で鉄筋を吊っただけですし、ゼネコンには磁力を測定する義務がありません。壁を壊して鉄筋を交換するのは、費用的に考えても騒音や振動などの迷惑を考えてても非現実的でした。

最終的な解決方法

関係者全員で集まり、あらゆる手を検討した結果、磁力に影響が出ないプラズマテレビを入居者に渡すことになりました。クレームを言っていた入居者も壁を壊したりする大工事ではなく、最新のプラズマテレビをもらえて満足していましたし、歪みもなく普通にテレビを見られるようになりました。管理組合にも騒音や振動で迷惑をかけることがありませんでしたし、工事費用を考えても安上がりでした。根本的な解決方法ではありませんでしたが、より現実的な解決方法だったと思います。何より全員が満足したのが良かったと思います。

まとめ

今回は、かなり特殊な事例です。しかしマンションは複雑な造りになっているため、このような思いもよらぬことが起こることを知っていただけると幸いです。また、この件はクレームとはいえ入居者の方がかなり協力的に動いてくれたので、何度も調査にお邪魔することが可能になり、迷宮入りになることなく解決することができました。多くの方の協力がなければ、このような特殊な案件はなかなか解決しないのです。

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